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【読書記録】八本脚の蝶

(えみる)こんにちえみえみ。
(山田)読みたかった本が読めました。

目覚めなさい。現実から目覚め、「私」から目覚めなさい。もっと深く夢見たいのなら―。二十五歳の若さで自らこの世を去った女性編集者・二階堂奥歯。亡くなる直前まで書かれた二年間の日記と、作家や恋人など生前近しかった十三人の文章を収録。無数の読書体験や鋭敏な感性が生み出す、驚くべき思考世界と言語感覚。著者没後十七年、さらに鮮烈さを増す無二の一冊。2016年本屋大賞・発掘部門「超発掘本!」

(えみる)……あのさ。あんまりいま読む本じゃなくね?
(山田)それは薄々気づいていましたよね。

(山田)どこでこの本の存在を知ったのか、もうおぼえていないのですが、すごいプレミアがついていたんですよね。最近メルカリをやっているのでチェックしていたんですが、そもそも数が市場に出ていなくて。そんなときに、ちょうどいいタイミングで文庫化が決まったわけです。

私は就職してから年に多分三六五冊を超すくらいの本を読んでいる。学生の時はその倍、小学生の時はその三倍は読んだ。

この記述が印象的。
決して誇張ではないことが、読んでいくとわかります。聖書を含む膨大な引用、幻想的な描写と言葉遣い。『幻想文学』という雑誌に当時掲載されていたブックレビューも載っているのですが、こんなのどんなに頑張ったって真似できません。

エログロへの造形も深く、『凝縮されたヴィレッジヴァンガードのアングラコーナー』という印象でした(ほら、ぼくにはこの程度の比喩しか出来ない)。『家畜人ヤプー』が前半100ページ以内に二回出てくるのには笑ってしまいました。

日本人が「ヤプー」と呼ばれ、白人の家畜にされている二千年後の未来に彷徨いこんだ麟一郎と恋人クララが見たのは__。三島由紀夫、澁澤龍彦らが絶賛した「戦後最大の奇書」最終決定版。

(えみる)『家畜人ヤプー』、言葉遊び系SFとして好き。
(山田)実は石ノ森章太郎先生がコミカライズしているんですが、物語の性質上、ほとんど挿絵の多い小説みたいな感じになっています。1巻をセールで読んで、そこから小説に入りました。


夢の内容を綴った日記もあります。

「気が狂っているんだよ。」
祖父はコーヒーマグを片手に言った。
「最後の龍神は病んでいる。湖の周りをごらん、春の花が咲いている隣で紅葉している木がある。草原は風が吹いてもなびきもしない。あそこは、固まっているんだ。むりやり岩壁をおりていっても、花一本手折ることも出来ないよ。龍神の思う最後の風景があれなんだ。決して変わらない。」

膨大な知識に裏打ちされた記述はもちろんこの本の魅力なのですが、この文章のセンスがあまりにも突き抜けていて呆然としてしまいました。こんなの書けない。

作家や恋人など生前近しかった十三人の文章を収録。

この中には、BFC(ブンゲイファイトクラブ)でネット小説界隈を盛り上げた『惑星と口笛ブックス』主宰の西崎さんや、

ぼくがSFで最も好きな短編小説『五色の舟』の作者の津原泰水先生も文章を寄せていて、自分が好きだったものの向こう側のどこかに二階堂奥歯さんがいたのだなぁと感じ入りました。

『五色の舟』は『revisions』というSFアニメに合わせて編まれた時間SFアンソロで読みました(これ以前にも読んだ記憶があるのですが、どこで読んだのでしょうか。件により世界が分岐したんですかね)。漫画版があるとは知りませんでした。読んでみよう。

高校の頃に読んでいたこの本を思い出しました。こっちのほうが自傷みが具体的でかなり強いので、読むときは用法用量をよく守って。二階堂奥歯さんとはまたちがったベクトルの、突き抜けた勢いがあります。

初めて手首を切ったのは、中学一年のときでした――。渋谷、ゲーセン、援交、カラオケ。青春を謳歌しているイマドキの女子高生かと思いきや、実は重度のリストカット症候群にしてクスリマニアだった南条あやの死に至るまでの三ヶ月間の日記。行間から孤独と憂鬱の叫びが溢れ出る、同じ悩みを抱える十代のバイブル書。


(山田)そして、この本を読んだ最大の目的は、えみるさんがいま書いている小説の描写の一助になることを確信していたからです。
(えみる)あれね。
(山田)あれです。

※このあとに『その小説』について多少書いたのですが、やっぱり消しました。来たるべきときに、また。

昨日の記事はこれ!

(えみる)山田に本を送りつけて追い詰めよう!

いただいたサポートは、山田とえみるさんの書籍代となります。これからも良い短編小説を提供できるよう、山田とえみるさんへの投資として感謝しつつ使わせていただきます!(*´ω`*)