Words in blue

フランス映画祭に行き始めて、今年で4回目。
最初に見たのは、Laissez-passer
次の年は、L'auberge espagnole
去年は、世界で一番不幸で幸せな私
今年は、ワーズ・イン・ブルーles mots blues
かなり長くて重い映画でした。

言葉を話そうとしない娘アンヌと、文字が書けないことを隠し続ける母クララ、耳の聞こえない子供たちにしか心を開けない教師。

「言葉」がテーマです。
ロシア語を話してしまったばかりに銃殺されたユダヤ人のクララの祖父。童話の続きを語らないまま口がきけなくなった祖母。クララは勉強を放棄し、小鳥屋で働く。そして一人でアンヌを生んで育てる。アンヌは機能的には問題ないのに口を聞こうとしない。普通の学校にはなじめず、聾唖学校へ転校する。そこでアンヌに言葉を話させようと力を貸す教師とクララは惹かれあうけれど、お互いなかなか近づくことができない。

les mots bluesという歌がこの映画のテーマを歌っています。
言葉ではなく、目で交わす思い

「この世の中で生き延びる術を学ばなくちゃ」クララはアンヌに何とか学校へ行かせたいと思う。
アンヌは言葉を話す代わりに、手話を覚え、笛を吹く。
クララは文字の練習のために、短い文をアンヌの服に縫い付ける。
アンヌは少しずつ友達を作り、世界を広げていくが、クララは他者との溝を埋められない。
「小さなころの恐怖は小さいけど、大きくなってからの恐怖は大きいんだよ」

それでも人は幸せを求めている。

一人で折り合いをつけてきた世界から、一歩前に踏み出して、誰かを必要とし、誰かに必要とされる世界へ。
その人のそばにいると、いつの間にかぐっすり眠れて、
孤独が過去があるのは自分だけじゃないといえる。

海辺の小さな電話ボックスからかける、一本の電話。
言葉を重ねたからではなく、思いを重ねたからできた信頼。
誰かに助けを求めて、誰かを助けられる安心感。


観たあとに、深い静寂が降りてきます。
心の奥の誰にも見せない、自分でも気づかないようにしている部分が、ぼんやり暖かくなる。そんな感じのする映画です。

映画祭に来る映画のいくつかは、日本でも公開されるものがあります。この映画はどうなるのかわかりませんが、明るく生きていくと必ずできる影の部分を、しっかり見つめたいときに、また観ることができたらと思いました。

(2005年映画レビューより)

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