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Hotel Cactus / 泣く大人

Hotel Cactus 江国香織著

Hotel Cactus(サボテンホテル)というなのアパートに住む
数字の2 と
きゅうり と
帽子 のおはなし。

役所に勤めていて、独立独歩で、割り切れないことが嫌いで、部屋を清潔にしていて、青い毛布がないと落ち着いて眠れなくて、優柔不断な、数字の2。
ガソリンスタンドでアルバイトをしていて、体を鍛えることが大好きで、家族思いで、礼儀正しくて、曲がったことが嫌いで、ちょっと軽薄な、きゅうり。
むかし世界中を旅行していて、今は時々詩を書いていて、むさくるしくて、部屋の中はほこりをかぶった本だらけで、かめを飼っていて、ウィスキーが好きな、帽子。

なんとなく気があって、飲み物や食べ物を持ち寄って毎晩一緒に過ごす。
競馬に行ったり、同じ女性を口説いたり、きゅうりの実家に遊びにいったり。
ホテルカクタスを舞台に語られる、ささやかな友情のお話です。
読んだ後、友人に電話したくなりました。

この3人。どれもタイプではないけれど、周りを見渡すと、
あああの人「数字の2」だなあとか、この人「きゅうり」っぽいなあなんて、
分類してしまいます。

パリのアパルトマンを思わせる挿し絵が素敵。
廊下の乳母車とか、鉄の格子、薄暗い階段の感じがリアルです。

泣く大人 江国香織著

これは彼女のエッセイです。
愛犬アメリカン・コッカスパニエルの「雨」のはなしや、
レーズン・バター
アメリカ留学のこと
だんなさんとのこと
男らしさの定義
読んだ本の感想
などなど

私は彼女の価値感に憧れます。

レーズン・バターを贅沢なかたまりと呼んで、
それを愛する彼女は、きっと死んで骨になっても
その骨は「丈夫で、白く、つやつやしているはず」だから、
火葬場の人にも「贅沢な方だったんですね」といわれるに違いないと思っている。

ここで紹介されてる金子光晴の「女への弁」
「女のいふことばは、
 いかなることもゆるすべし。
 女のしでかしたあやまちに
 さまで心をさゆるなかれ。
  :
 いつ、いかなる場合にも寛容なれ。
 心ゆたかなれ。女こそは花の花。
 だが、愛のすべ知らぬ偽りの女、
 その女だけは蔑め。
 それは女であって女ではないものだ。」

彼女がほしいもの。
経済的安定(仕事)と精神的安定(男)、ある意味での「余分」、本質的な「贅沢」
月が欲しいといった、王女様のお話。
月が欲しいと思いつめて困るのは、周りでなく本人。届かないものに憧れるのは苦しい。
でも
「女なら」
憧れるエネルギーを惜しむようにだけはなりたくない、と思ったりする。

彼女の考える男らしさ女らしさは
「一般論を身に付けない」
たった一人森に生きる野生の動物のごとく、その都度自分で考える

彼女の愛用の言葉
あそこへ帰りさえすれば、安全で温かくて居心地がいいのだ。
でも駄目、自分で始めたことは最後までやり通さなくては。
一人。その心細さと、やめることもできる、という誘惑。
「でも、セイントジャックスホテルには、まだ帰れない」

とるにたらないものもの 江国香織著

旅に出るとき、自分にとって何がどうしても必要か分かる。そのとおりだと思う。
置いていけるものは、別にそれがなくても生きていけるもの。
そう考えると人は身軽だ。

でも。
でも、とるにたらないものは、それはそれでとても大切なものなのだ。
スプリンクラーや、豆ごはん、ジャムパン・・・
江国さんのとるにたらないもの、への想いが素敵だ。
だんなさんが寝る前に歌ってくれた歌とか、
アメリカの駅とか、
お風呂とか、
出かける前の時間とか、
それはそれで、どうしてもなくては生きていてもつまらないもの。

お金や身分を証明するものや、ハンカチや携帯や口紅は、確かに必要だけど、
心を温かくしてくれるものは、いつもとるに足らないものかもしれない。

でもとるに足らないもので身動きが取れなくならないように、
それはどこかにひっそり、大切にしまっておこう。
そして、なるべく身軽に、新しいとるに足らないものを見つけたい。

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