「スパニッシュ・アパートメント」

スパニッシュ・アパートメント 
L'auberge espagnole(2002)       
セドリック・クラビッシュ監督

24歳のグザビエは、学生生活最後の一年を就職に有利な留学カリキュラムに参加することに決める。
恋人をパリに残し向かったのは、バルセロナ。
日差しはきつく、空はどこまでも青く、街はうるさいくらい活気にあふれてる。

同じフランス人の医師の家に泊めてもらいながら、学校に通い部屋を探す。
彼が決めたのは、国籍がバラバラな男女5人(イタリア人、 ドイツ人、 デンマーク人の男3人とイギリス人、 スペイン人の女2人)が共同生活するアパートメント。
入居のための面接もパスし、ヨーロッパの縮図のような生活に飛び込む。
にぎやかで、刺激的で、時にはぶつかり、話し込み,飲み明かす毎日。

その一方で、医師の妻アン・ソフィーの寂しさを紛らわすため、二人はバルセロナの街を歩く。
ふと押し寄せる異国にいる寂しさと気楽さ。彼は彼女と関係を持ってしまう。

スペイン語もできるようになり、レポートもこなせるようになった頃,
パリから彼女が突然彼を訪ねてきて・・・

陽気なイタリア人,真面目なドイツ人、人当たりの良いデンマーク人、地味なイギリス人、情熱的なスペイン人,そして、ロマンティックなフランス人?
学生だからできる,ハチャメチャで無責任で熱狂的な日々。
みんなで友達のために駆けずり回ったり,飲み歩いたり,
自分勝手な理由で、別れたり、寄りを戻したり。
典型的嫌われイギリス人?の弟君が,最後の最後にやってくれます。
ラスト、一年経ってフランスに戻り、希望通り公務員の職を手に入れたあと、グザビエは、「ほんとうの人生」に向かって飛び立っていきます。

「スパニッシュ・アパートメント」のグザビエの人生は「ロシアン・ドールズ」(2005)、そして「ニューヨークの巴里夫」(2013)と続き、「理想の人生」とは?という若かりし日の葛藤や疑問や夢を、ドタバタと切なさと笑いで吹き飛ばして、元気にしてくれる、そんなシリーズです。

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もう二度と戻らない日々。

ビザを取るために領事館に何度も足を運んだこと。
着いて早々荷物が出てこずものすごくあせったこと。
ユースホステルでであった子とボルドーまで行ったこと。
友達が偶然知り合った人の部屋にみんなで転がり込んだこと。
滞在許可書を取るために早朝からものすごく並んだこと。
部屋を決めるまで、何件も何件も物件を見に行ったこと。
銀行口座がなかなか開けなくて、悔しい思いをしたこと。
あちこちの学食に通ったこと。
ルーブルに年間パスで学校帰りよく立ち寄ったこと。
大家さんの畑のさくらんぼの木に登って種を飛ばしたこと。
サンクルーの森で栗拾いをしたこと。
蚤の市で掘り出し物のみつけあいっこをしたこと。
カフェで何時間も話したこと。
新年を友達の家でおなべを囲んで迎えたこと。
好きな人と一緒に手をつないでどこまでも歩いたこと。
カフェのテーブルを挟んで抱き合ったこと。
公衆電話から何度も電話したこと。
食堂で魚を焼いてすごい顔をされたこと。
インターネットカフェで夜を明かしたこと。
図書館に入るのに並んでも毎日通って勉強したこと。
口頭試問にものすごく緊張したこと。
みんなで合格祝いをしたこと。
誕生日を祝ってもらったこと。
せつない別れ方をしたこと。

留学していた時期、それは、大人になりきれなくて、試行錯誤し何かを求めていた日々でもあります。
何かを見つけたか?と問われると,
何も見つからなかったのかもしれません。
すべてを手にしてすべてを失ったような感触があります。
それでも、もし20代で、どこかに留学してみようと迷っている人がいたら,
私はきっと勧めます。
若いということは、それだけできついこともあるけど、世の中はおもっているよりずっと寛大です。
若さなんて、意味なんかなくて、ばかばかしく、無力で、当たり前と思ってやったことこそ、二度とできなくて、ちっとも当たり前じゃなくて、その時その瞬間だからできたこと。
そんな体験こそ、自分らしい生き方を見つけるきっかけになるのだと思うのです。

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