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高崎公園のちいさな花園

鈍足だけど走ることが三度の飯の次に好き、という私のお気に入りの場所は、高崎公園の奥にあるちいさな花園だ。天気の良い日のジョギングコースに組み込んで、必ず立ち寄るようにしている。

はじめて訪れたのは五月の薔薇の時期。ロックダウン真っ最中で高崎市内のいろんな施設が密を避けるために門を閉じていた。有名な前橋のバラ園も閉鎖していたように思う。

そんなとき、ふと立ち寄った高崎公園の一角でいきなり絵画のような風景に出会った。人影まばらの小さな庭は色とりどりの花が咲き乱れる夢のような空間だった。五月の爽やかなそよ風を感じながら、私は胸いっぱいに甘い薔薇の香りを吸い込んだ…。ああ、生きててよかった。喜びで心と身体が同時に満たされた。

何度も足を運ぶたびに、季節はめぐり、花の顔ぶれもどんどん入れ替わっていくが、いつでも手入れの行き届いた美しい庭であることには変わりない。この庭を作っている人はどんな緑の指を持っているプロなのかといつも感心していた。

ある休日の朝、いつも静かな花園がザワザワと賑わっていた。サンバイザーとマスクとエプロンを身につけた妙齢のおばさま方が4名ほど、腰をかがめて、懸命に草の根っこを抜いている。話しかけてみると地元の有志の方々で、まめに足を運んで手入れをしているそうだ。

コロナ騒ぎで世の中のお店が休業してても、大きな薔薇園が閉まっているときも、マスクや消毒液が売り切れてるときも、街の人の心がどんよりと曇り空になってるときも、緑の指を持つおばさまたちは、休むことなく世話をして美しい花を咲かせてきたのだ。

もしも毎日流れるニュースや身近な厄介ごとで、心が疲れてしまったら、この小さな花園を訪れて笑顔を取り戻してほしい。高崎公園の秘密の花園にはそんな癒しの魔法の力があると、私は信じている。

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