短くまとめるためのヒントと描写の削り方

 前回の記事では、描写を濃くすることで文章を長くしていく方法について書いてみました。

 描写を濃くする方法がなんとなくわかってくると、今度はどんどん話が長くなっていくかもしれません。
 もちろん、ひたすら長く書いていくことは、何も悪いことではありません。でも時には字数制限がある企画に参加するだとか、公募に出してみるだとか、字数を気にする必要が出てくるかもしれません。

 短くまとまらない。字数がオーバーしてしまう。今度はそういう時の対処法について考えてみましょう。


対処法1 そもそも、その長さに収まる物語かどうかを考える

 前回とは逆ですね。どんなに描写を減らしても、説明主体にしても、短くまとまるはずがないストーリーというものがあります。
 前回、長編にするためには「登場人物を増やす」「舞台を広くする」「長い時間を経過させる」のいずれかの要素(場合によっては全部)が必要だと書きました。
 つまり、短くするには反対のことをすればいいのです。
 「登場人物を減らす」「舞台となる場所を限定する」「限られた時間のみで話を終わらせる」です。

 登場人物を減らすというのは、いなかったことにするという意味とは限りません。もちろん、話に不要な人物を削る方法もあります。ですが、大きな会社が舞台なのに上司も同僚もいないのは不自然、というような状況もあり得ます。
 そういう時は、話の外に追い出しましょう。もしくは、詳しい描写を避けましょう。顔や名前のない、モブキャラというやつですね。
 不在にするという方法もあります。たとえば主人公の親だとか、先生だとか。そもそもいなかったことにしてしまうと別の問題が発生するような人物は、「たまたま」不在であったことにしましょう。何度も続けば不自然ですが、一度くらいなら平気です。これだけで話が短くなります。

 舞台を減らすというのは、シーンを減らすことと似ています。これは「限られた時間のみで話を終わらせる」ことにも繋がります。
 そして、そのためには構成について考えることが必要になります。


対処法2 シーンを減らす

 構成ってなんだ? 難しい問題です。
 でもここでは複雑には考えずに、まずはその物語が成り立つために必要な要素を整理してみましょう。
(面倒なので)前回の例で挙げた話で考えてみましょう。
 この時、自分はその話で何を書きたいのかが決まっていると楽です。その小説で何を表現したいのかですね。
 主人公の自立と成長だとか、人間とアンドロイドの境目、といった比較的難しいテーマもいいでしょう。
 鬱屈した世界が描きたいでも。ひたすら少年の心情を描きたいでもいいです。美少年の憂鬱みたいにしてもかまいません。

 そしてまずはストーリーを抜き出してみましょう。

帰宅途中の僕は雨に降られる→本屋に駆け込む→雨宿りしていると、裏口で震えているアンドロイドを発見する→他人事に思えなかった僕は匿う→親に見つかる→思わずアンドロイドと逃避行→アンドロイドの事件に巻き込まれる

 前回の例は、こういうストーリーだったということにしておきましょう。(今決めました)
 これらのシーンを全て書いていけば、おそらく長編になります。アンドロイドの事件というのが複雑になればなるほど長くなりますね。
 でもこれを短くしたいと思ったら、ある側面から見た一部分だけ切り出す方法があります。特に短編、掌編の場合はこの方法が有用です。
 たとえば僕の運命を変えてしまう、アンドロイドとの出会いのシーンだけを書く。匿ったアンドロイドが見つかって逃げ出すシーンを、親への最初の反抗のシーンとして書く。
 書きたいもの(私は軸と呼んでいます)があれば、ストーリーをねじ曲げなくても短くすることは可能です。

 いや、私は長編が書きたいんだ。でもだらだらとは書きたくない。できれば読みやすくしたい。魅力的な冒頭にしたい。
 そういう場合もあるでしょう。(そういう方が多いでしょうか?)
 そんな我が儘を叶える方法があるのか? あります。小説のスタート地点を変えましょう。
 最初から書かなければならないなんてきまりはありません。
 本屋の裏口で、アンドロイドを見つけるシーンから書いてもいいでしょう。アンドロイドと一緒に逃げながら、出会いを振り返って後悔している場面から始めてもいいんです。十分長編になります。
 事件そのものが巨大で複雑なものであれば、事件に巻き込まれるところからでもかまいません。たとえば巻き込まれた事件というのが逃げ込んだ廃工場で起きれば、描く舞台を一つにすることができます。
 存在している過去を全て描く必要はありません。どこからどこまで小説として書くのかは、書き手が自由に決められます。
 その代わり、存在しているけれども描かなかった要素は、どこかに織り込む必要があります。アンドロイドと逃避行してしまった理由等ですね。この手法は、前回の「設定を挿入する」がヒントになるかと思います。
 ここを調整することで、シーンを削り、舞台となる場所を減らし、経過する時間を短くすることができます。


対処法3 最後に描写を削る

 これらのことを試していけば、ある程度は狙った字数に近づけるはずです。そこまでやってから、描写の調整をした方がたぶん簡単です。
 描写を濃くする、薄くするという方法での調整ですね。ここはまた前回の例文に登場してもらいましょう。


 今日は最悪だった。僕は俯きながら足を進める。薄汚れたスニーカーが今にも壊れそうな音を立てている。先日ニュースで流れていた、壊れたアンドロイドの断末魔みたいだ。いらなくなったものばかり押しつけられる僕は、どこにいてもそういう存在だ。つま先を睨み付けていると、アスファルトに黒い染みが生まれるのが見えた。顔を上げた僕の額に、冷たい滴が一つ落ちる。雨の匂いが広がった。今朝の晴天が嘘のように、いつの間にか空が分厚い灰色の雲に覆われている。その下を、名も知らぬ鳥が鳴きながら飛んでいった。天気予報ではそんなこと言ってなかったのに、ついてない。このところAIのストライキが増えているせいか、こういうことが多くなった。瞬きをすると、さらに大きな水滴が頬を叩く。立ち止まった僕は振り返った。ずぶ濡れで帰ると何を言われたものかわからない。水はどんな機械にも大敵だ。幸いにも通り過ぎたばかりの本屋の軒先には、誰もいなかった。大きなガラスの向こう側にも人影はなかった。家に帰らなくてもいい理由ができて、少しだけ体が軽くなる。僕は踵を返し、そこを目指した。


 情景描写、心理描写、説明を織り込んだ最後の文章です。
 シーンごと削ってしまう方法もあるでしょうが、今回はこのシーンを残す場合を考えてみましょう。
「雨」を重要な要素にしたいだとか、ラストは前を向いて歩くシーンにして対比したいだとか、このシーンを残す狙いは色々と考えられます。
(どのシーンから始めるか、どのシーンは省くかは、この「狙い」が重要となります)
 しかし物語全体からみると、ここは目立つべきシーンではありません。アンドロイドも出てきていません。読み手には、まだストーリーの動きが伝わっていない段階です。
 このままでもかまわないのですが、たとえば後の本屋の裏口でのシーンを目立たせるために少し描写を削ってみましょうか。
 もちろん、「雨が降り出したので、僕は本屋に駆け込んだ」の一文に戻してもいいのですが、このシーンを残す狙いを考えながら削ってみましょう。


 今日は最悪だった。僕は俯きながら足を進める。薄汚れたスニーカーが今にも壊れそうな音を立てている。先日ニュースで流れていた、アンドロイドの断末魔みたいだ。いらなくなったものばかり押しつけられる僕は、どこにいてもそういう存在だ。つま先を睨み付けていると、アスファルトに黒い染みが生まれるのが見えた。顔を上げた僕の額に、冷たい滴が一つ落ちる。今朝の晴天が嘘のように、いつの間にか空が分厚い灰色の雲に覆われている。天気予報ではそんなこと言ってなかったのに、ついてない。このところAIのストライキが増えているせいか、こういうことが多くなった。立ち止まった僕は振り返った。ずぶ濡れで帰ると何を言われたものかわからない。幸いにも通り過ぎたばかりの本屋の軒先には、誰もいなかった。僕は踵を返し、そこを目指した。


 どこを削ったのかわかりましたか? まずは情景描写を中心に減らしてみました。でももっと削ることができますね。どこまで行けるでしょうか。
 この時、その文を残す意味について考えると残すべきか見えてきます。


 今日は最悪だった。僕は俯きながら足を進める。(ラストとの対比)薄汚れたスニーカーが今にも壊れそうな音を立てている。先日ニュースで流れていた、アンドロイドの断末魔みたいだ。(アンドロイド登場への布石)いらなくなったものばかり押しつけられる僕は、どこにいてもそういう存在だ。(これはなくてもいいかも?)つま先を睨み付けていると、アスファルトに黒い染みが生まれるのが見えた。顔を上げた僕の額に、冷たい滴が一つ落ちる。(情景描写)今朝の晴天が嘘のように、いつの間にか空が分厚い灰色の雲に覆われている。天気予報ではそんなこと言ってなかったのに、ついてない。このところAIのストライキが増えているせいか、こういうことが多くなった。(後の事件にAIのストライキが関わるため、布石にしたい)立ち止まった僕は振り返った。ずぶ濡れで帰ると何を言われたものかわからない。(親との関係性の示唆)幸いにも通り過ぎたばかりの本屋の軒先には、誰もいなかった。僕は踵を返し、そこを目指した。(次のシーンに繋がる動き)


 こういう視点でさらに不要な部分を削り、短くしてみましょうか。


 今日は最悪だった。僕は俯きながら足を進める。薄汚れたスニーカーが今にも壊れそうな音を立てている。先日ニュースで流れていた、アンドロイドの断末魔みたいだ。つま先を睨み付けていると、アスファルトに黒い染みが生まれるのが見えた。顔を上げた僕の額に、冷たい滴が落ちる。今朝の晴天が嘘のように、分厚い灰色の雲に覆われている。天気予報ではそんなこと言ってなかったのに。このところAIのストライキが増えているせいか、こういうことが多くなった。立ち止まった僕は振り返った。ずぶ濡れで帰ると何を言われたものかわからない。幸いにも通り過ぎたばかりの本屋の軒先には、誰もいなかった。僕は踵を返し、そこを目指した。


 こうした工夫を重ねることで、字数を減らすことができます。
 あともうちょっと削れたら字数制限内なのに……。そんな場合には特に有効だと思います。

 構成の話は、またいずれもう少し詳しく書けたらいいなぁと考えてます。

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