見出し画像

4月9日「嗅覚」

鼻炎と花粉症を同時に患っている人は高々と手をあげてほしい。そして、そのまま手を下ろして前に出し、僕と固い握手を交わしながら、お互いの辛さを分かち合おう。
人はそれを傷の舐め合いと揶揄するかも知れないけれど、それでも構わない。誰かと共有したいくらいの苦痛がある。

ほこりがその辺を舞っていると鼻水が止まらなくなり、くしゃみを誘発する。さらに、春が近づいた頃からは、白樺の花粉の攻撃でナイアガラの滝もいわんや、という量の鼻水が流れ出る。混ざり合えば地獄絵図。
同じ辛い思いをしてる人、結構いると思う。

僕はついでに鼻中隔湾曲ってものもあるらしく、鼻の骨が歪んでいて右の鼻が70%程常に塞がっている。調子がいい時には鼻呼吸を難なくこなせるけれど、たまに陸地にいるのに窒息しそうになることもあって危険だ。

目覚めてすぐに鼻がムズムズとするのはモーニングアタックって名前がついており、赤い缶コーヒーみたいなナイスな名前をしている。現象は全くナイスじゃない。そして鼻中隔湾曲が一番ひどいのは朝であるという感覚がある。
朝ごはんをまともに食べれないのは、寝起きのお腹がご飯を食べられる体勢になっていないからだと思っていたけれど、もしかすると鼻呼吸がしにくいから無意識に避けていたのかも知れない。
ご飯を食べながら口呼吸をするのは難しい。朝食の白湯で溺死しかけることを考えると恐怖を覚えるでしょう。

故に人よりも嗅覚が衰えている気がする。
実際に比べたことはないけれど、食べ物の匂いを嗅ぐ距離が近いと何度も言われた経験が物語っている。はしたない。けど美味しそうなものの前ではその衝動を抑えられない。
そんな状態でよくカフェの仕事なんてやってるなと自分で感心する。風味の微妙な違いを感じ取るのは鼻がものすごい大事だろうに。装備を減らしてRPGの実況プレイをしているYouTuberくらいの無茶を、何故か最初から強いられてるようなものだ。

と思っていたら、急に世の中の匂いを感じるようになった。本当にびっくりした。
朝起きて洗面所に行ったら普段はしないような、洗濯用洗剤の匂いや溜まった洗濯物の生活の匂い、顔拭きタオルの匂いを異様に感じた。
そのあと出勤してコーヒーを一口飲んだらとんでもないフレーバーが鼻を突き抜けてつ、むじ辺りから抜けていった。なんだこれは。美味さもあるが雑味もいつもよりも感じる。

こわい。
理由は全く分からない。僕の鼻が急に全治癒したのか。それなら嬉しいことこの上ない。まあでも、それはそれでこわい。

匂いがすること、鼻が通っていることはこんなに素晴らしいことなのかと感動が止まらなくて、好奇心旺盛な小学生みたく、色んなものの匂いを今日は嗅いでいた。
普段の五倍くらいは香りがして嬉しい。
何でもない鼻がついている人はこんな風な生活を毎日しているかと思うと、うらやましくてたまらない。

色盲のおじいちゃんが、色がついて見えるようになる眼鏡を家族からプレゼントされた動画を思い出した。あれとほとんど同じようなことが眠っている間に起きたのだ。
どうか頼む、明日もこの鼻のままで居続けてくれ。人生の彩りが増えたと本気で思ったのだ。一つ欠けていた五感を手に入れた感覚があったのだ。

つまりなにがいいたいか?
誰しも健康第一ということですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?