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頼るってワガママだと思ってた


いっつもそう


小さい頃、抱きしめてほしいと、言えなかった。


お母さんがおいで、と階段の下で手を広げてくれる。手すりを持って足を進めようとしたら、目の端は何か動くものを捉える。


私に向けられた腕に、私よりはやく弟が飛び込んでいた。僕かわいいでしょ!と言わんばかりに。


心の底から、自分は愛されて当然の存在だと知っていて真っ先に撫でられにいく弟を、羨ましいと、妬ましいと思いながら傍観するだけだった。



見ていられなくて、不貞腐れて踵を返す。


「頼るってワガママなこと」


その思い込みが始まったのはいつからだろう。


きっかけなんてもう思い出せないけど、嫌われるのが嫌だった。

でも、そのまんまの私なんて見てくれないから、私を見てほしくて、地味な嫌がらせいっぱいして死ぬほど怒られたね。


頼るって、
自分ではできないことを、できる人に頼むこと?

頼るって、
自分では頑張ればできる、でも死ぬほど疲れることに助けを求めること?

頼るって、
甘えたいって、1人じゃできないことを甘やかして!って示すこと?





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迎えに来て!



私の地元は雪が降る。中2の時は70cm積もった。
70cmは「よく降る年」だ。

朝は遅刻しそうだったから泣きながら学校まで送ってほしいと頼んだ。
自転車も一緒に雪に埋まったから登校できるはずもない。

こんなに降ると思って朝起きてないし、ただでさえ冬は布団から出れないからだ。
遅刻するとベソをかきながら車に乗り込む。



でも帰りに「お迎えに来て」って頼むことができなかった。

近所の人が部分的に雪かきしてくれている。
道の真ん中は足跡があって、それを辿れば帰れなくはなかった。
腰までの高さがある雪に囲まれながら、徒歩20分の距離を1時間かけて帰る。

田舎の冬の夜は、大した時間でもないのに真っ暗だ。

ここまで雪が降ると、積もった雪がかき氷みたいで、足跡がついていない綺麗なところを掬ってすこし口に含む そんな初冬の頃の嬉しさはもう思い出せない

時々車が通ると、ライトに照らされて一気に一面の白が浮かび上がる。眩しい白さが憎たらしい。


長靴は膝下までしか高さがないから遠慮なく雪が入り込む。
制服のタイツも、足の指も、入り込んだ雪が体温で溶けてぐしゃぐしゃだ。
諦めながら、靴の中の小さな川を引き摺って帰る。


足の指が霜焼けになって痒い、長靴を脱いだら指先が冷たく、赤くなっていることは容易に想像がつく。


朝は忙しかったから防水の手袋を探す時間がなくて、布の手袋を掴んで出てきてしまった。濡れた手袋が手に貼り付いてかじかんで、傘が上手く持てない。
手袋を道路に捨てて帰りたいのをぐっと堪えて足を進めた。




家に帰って重いドアを開けると、一気に暖かな空気が雪崩れ込んでくる。
リビングでは弟が、生クリームとチョコレートで作られた温かいココアを飲んでいる。母に迎えを頼んで、私より随分と早く家についていたらしい。

母はキッチンから、なんで連絡してこなかったの?と語気を荒げる。




頑張れば1人で帰れたからだ。




頑張ればできるのに頼むのってワガママじゃないの?

いつもはお姉ちゃんだから我慢しなさいって理不尽に言うくせに。


そんなこと言えもしないから、身体を温めるために風呂場に向かう。
言いたいことは言えない癖に余計なことばかり口から出る。



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助けて!



私はブラック企業と縁があるらしい。

ピカピカの新卒カードはジョーカーで、ババ抜きに失敗した私はそれからも1人でババを引き続けた。


今年の7月、また会社を辞めた。
限界だった はやくお前に辞めてほしいという空気を感じながら働き続けるのは。



もう無理だった。
私は割と真面目な部類の人間だと思う、嫌なことでも、ある程度我慢して「言うことを聞ける」
それは簡単に捨てられる駒にちょうどいいらしい。


嫌だ、どうでもいい他人に使い捨てにされる人生は、それですり減らすのはもう嫌だ!!!、!




こうして死んでいくんだろうか。

知ってる、白い会社から求められるような実力なんてなくて、地道に続けた努力もなくて、見る目がないのだって、全部馬鹿な自分のせいだ。

履歴書の経歴は真っ黒なのに私は空っぽのまま。


痛いほど分かっているけど、働かない脳みそで選んだ会社は「ブラック企業で働いたことを笑顔で評価してくれる」会社ばっかりで同じことを繰り返した。


友達に助けてほしいと言った。
もう、繰り返したくないんだと。
幸せになりたいと。

私をよく知る友達は一緒になって適職を考えてくれた。
応募する会社の募集要項を一緒に見て、ヤバそうな会社を足切りしてくれた。


お前は、かわいいし、真面目だし、優しい
いいところを私たちはいっぱい知ってる、もっと幸せになるべきだ、とそう言って。

ババ抜きって、1人でやらなきゃいけないと思ってた。これってジョーカーだと思う?って聞くことは、どうやらズルじゃないらしい。





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感情のゴミ箱になって!




はるさんに、ドロドロした感情をぶつけてみた。

もっと楽しい私でいたいこと、でもドロドロした感情が渦巻いてること、それをどうしたらいいか分からない、と。


「不安なことはな、聞いたらええねん」


そういえば、はるさんは私によく聞いてくれるな、と思い出す。

こういうLINEは嫌?とかほんとに小さいことでも。


僅かな相手の反応を見て分かってしまう人だって聞いてるなんて。
相手の気持ちを読み取れない私が1人で抱え込んでたの馬鹿みたいだ。



「自分の中で、相手はこれをされたら嫌かなってぐるぐる考えてるだけの時間、無駄やろ」



そりゃそうだ


その言葉を思い出しながら、その日はるさんの作る空間で不安に思ったことと、それを受けて1つお願いがある、とLINEした。

嫌な気持ちになったのは私自身の問題なことも知っていた。それを人を使って解決するのなんていいのかな、なんて思いながら。

通知音が聞こえてスマホを取り出す。




「ok」



2文字だ!!!!!
たったの2文字でその日ぐるぐる考えてたことは解決された。
私は嫌だったと、伝えるだけではるさんには指先1つ、0.5秒で消してしまえる
そんなに重い話ではなかったんだ!!


ブラック企業に殺されかけるまでいかなくても、日常の小さなことでも、私の嫌だって思ったこと聞いてって、どうすればいいか一緒に考えてって、頼っていい、そしてそれは案外「相手にとって負担」じゃなかったりするんだ。



頼るって、、頼れるって、嬉しい



2022/08/30


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