無責任でも、安心が欲しかったんだ
「炎をイメージするといいかもしれません」
診断をしてくれた白髪の医師はそう言った。
「炎が弱くなってきて沈静化するかなっていう時に、何かのきっかけで再燃しています。それが今の状態です」
症状が落ち着いていても、根本的な解決にまでは至っていないということを知る良いきっかけになった。
昨日から福岡入りして、今朝病院の膠原病内科を受診した。昨晩に再燃した紫斑が全身に出ているのを見せると、専門医ですらやや驚いていた。
膝下はもちろん、内腿、腕、お腹にまでそこそこの量の紫斑が確認できた。
そんな中で担当してくれた医師の診断は、これまでと変わらずやはり「IgA血管炎」。ただ、内臓に悪い影響が出ていないのが今の僕の救いだ。
今日改めて行なった検査でも、尿検査はクリア。
レントゲンも異常なし。
多少の炎症反応はあるものの、血液検査でも特に悪い数値は出なかった。
ホッとしつつも、じゃあこの体中に出ている紫斑は何なんだ、となる。毛細血管が破れて内出血を起こしているのは間違いない。
「治療方針は大きく2つあります」
医師はピースサインをするように片手を目の前に差し出した。
「1つはこのままの薬で沈静化を目指すこと。もう1つは、ステロイドという強い薬を使って沈静化させること」
ステロイドという薬は、副作用が強いことでも知られている。ただ、おそらく今使っている薬では根治は難しい気もしている。どちらかというと、個人的には今までとは違う診療の方に惹かれていた。
「ただ、ステロイドを使うと割と頻繁に病院に来てもらわないといけなくなるんですよね。宮崎からだとなかなか厳しいですよね」
医師は少し困ったように言う。
いやいや!それでもいいです。治る希望が持てるなら…
と、言いかけたところで先生から提案があった。
「僕の大学の後輩で、同門の医師が宮崎にいるんですよ。そこを紹介しましょうか」
「…え、そうなんですか?それはありがたいです」
宮崎から福岡へ紹介状をもらい、今度は福岡から宮崎へ紹介状をもらう。紹介状の逆輸入みたいだ。
頭の中では、羽の生えた紹介状が色んなところへ回っていく様子を想像していた。その間に、医師は新たな紹介状をまとめ始めていた。
「紹介するのは信頼できる医師ですから。安心してください。きっと良くなります」
医師は顔を上げて、僕の目を見てゆっくりと微笑んだ。
…あぁ。
今まで欲しかったのはこういう言葉だったのだと、その時に気付いた。
正直なところ、これから体調がどうなるかの保証はない。もちろん良くなるかもしれないし、逆に悪くなってしまう可能性だってある。
でも。
無責任でも構わない。
不安しか見えていない患者からすると、医師からの安心できる言葉が欲しいのだ。
どんな薬を処方されるよりも、希望が持てる。
ふと白衣に付けてあったネームプレートが目に入る。目の前の医師が、その病院の副院長だということをそこで初めて知った。
全てを終えて病院を出る時、気持ちが少し元気になっていた。福岡まで来て受診した甲斐はあったと、心から思えた。
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