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明日は明るい日

あれは中学生の頃。
廊下に「明日は明るい日」と、達筆な筆文字で書かれた標語のような書が飾られていた。

なるほど、そう言われてみれば確かにそうだな。

当時14歳の僕は「今日がダメでも明日は明るく行こうぜ」的な意味合いなんだろうなと、「明日」という言葉に新しい発見をしたような気持ちになって勝手に納得した。

それは当時の担任だった美術の先生が書いたもので、廊下には他にも色々な言葉が飾られていたはずだが、この言葉だけがなんとなく頭に残っていた記憶がある。

今日は夜、住んでいる地区でこども会の総会があった。今の家には住み始めてまだ半年くらいなので、同じ地区の人と顔を合わせるのはほぼ初めて。最初行くのが少し億劫だったが、話してみるとみんな良い方達ばかりで終わった時には少し距離感が縮まった気がした。

終わったのは午後8時過ぎ。辺りは真っ暗だった。会場の公民館を出ると家までおよそ30m。
自分の家の窓からは、明かりが漏れていて良い目印になった。そこで油断した。「どうせすぐそこ」と、靴もちゃんと履かず、中途半端にかかとを踏むような形で歩いていたのも良くなかった。

あまりにも道が暗かったので、スマホでライトを点けた瞬間だった。ライトに気を取られて道を踏み外した。
ヤバっ…と思った時は遅かった。
右足首がぐにゃりと曲がり体勢が崩れて、左膝から地面に倒れ込んだ。スマホもゴツンと音を立てて転がっていった。

痛ってぇ…。

厚手のズボンを履いていたが、膝は確実にケガをしている感触。ただ、後ろからは総会に出たお母さん達が歩いてきていたのもあり「さっさと立たねば」という思いしかなかった。

辺りが暗すぎて僕がコケたのは見えなかったようだ。少し後ろから聞こえるお母さん達の会話は途切れることがなかった。
慌てて立ち上がって、そそくさと家に帰った。

「イテテテ…そこでコケた」

大人になってそんなに道でコケることもない。家族に伝えると心配の声があがった。

「大丈夫、大丈夫」

幸い、ぐにゃりとやった右足首はさほど痛くない。捻挫はしていないようだ。

「ちょっと部屋で着替えてくる」

自分の部屋に戻って履いていたズボンをめくると、やはり膝からは出血。スマホは画面こそ割れていないが、色が禿げるくらいのキズがついてしまった。

ツイていないのか、この程度で済んでラッキーだったのか。とりあえず、風呂では思いっきり滲みた。

あーちくしょう。

浸かりながら浴室の天井を眺めた。

『明日は明るい日』

ふと思い出し、少し心を落ち着かせる。
中学生の頃に出会った小さな希望のような言葉が、時々今でも僕を支えてくれたりしている。

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