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第4話「商店街の出会い」

銀に諭された 2 匹は、翌朝公園を出る決心をする。出発前に、銀に言われたこともあり片 耳を探していると、トイレの陰に片耳の姿があった。恐怖心は残っていたが、思い切って会 いに行った。
「片耳さん、昨日は本当にごめんなさい。」ガリも続けて「本当にごめんなさい。」 「僕たち、ルールの事も知らずに、好き勝手に遊んでいたことをどうか許してください。」 「今日、僕たちはこの公園から出ていきます。」「今までありがとうございます。」 とタマが言った。
片耳は、目を細めて優しい顔をして聞いていた。 「そうかい、じゃ、許してやるよ。昨日は、怖がらせて悪かったな。」 「これから、色々あるだろうけど、みんなそうして一人前になっていくんだ。」 「子供のうちは、2 匹で力を合わせ助け合って生きていきな。」 「これをやるよ。」そう言って、とっておきの小魚のおやつを分けてくれた。
公園は、住宅街のはずれにあった。小学校や幼稚園も近くにあり、子供たちが多く遊びに 来ていた。すぐ近くに大きな川も流れていた。川岸に入れないように高いフェンスもしてあ ったが、猫が通れるぐらいの隙間がある。川の反対側は、工業地帯になっていて大きな煙突 が何本もたっている。川沿いには道路があり、昼間は車の通行が多かった。
2 匹はフェンスをくぐって土手に上った。川の向こうの工場を見ながら「ケンさんの、新 しい家はあの工場の方だよね。」とガリが言った。タマも黙ってうなずいた。 しばらく黙って川の向こうを眺めていた。「そろそろ行こうか」とタマが言った。
2 匹は、川に沿って川下に向かった。川下は町の中心街で大きな商店街やショッピングセン ターなどがあり、人も車の通行も多かった。食べ物も豊富にあるが、危険もいっぱいである ところだった。
「お二人さん、昨日は大変だったね。」とカラスが空から声をかけてきた。 カラスの寝ている木の下で、昨日の夜の騒ぎがあったので、聞かれていたらしい。 「二人とも殺されてしまうかと心配したよ。」と言って、空から降りてきた。
公園の近くには、飼い犬はいるが野良犬はいない。しかし町はずれの川原には、野良犬が いるから用心しなよと教えてくれた。それに、街中には犬や猫の細かい縄張りが一杯あり争 いが絶えない。油断しないようにと教えてくれた。
「じゃ、また会おう。」と言って飛び立っていた。 昨日のこともあったので、二匹は用心しながら川下へと進んでいった。 町に近づくと河原の草むらから赤い大きな目が、二匹をじっつと睨んでいた。

ガリがそれにいち早く気付いて「タマ逃げよう。」と声をかけ一目散にフェンスをくぐり 道側に飛び出した。タマもその後を追った。赤い大きな目は、草むらから出てこなかった。
「キキ、キーー」 飛び出した勢いで、タマは危うく車に轢かれそうになったが、間一髪交わせた。 車はクラクションを鳴らしながら、通り過ぎた。 「ふ~。」とため息が出た。「危なかった。」とガリが言った。 道路を渡り、町の商店街の中に向かった。
商店街の中でも 2 匹を追いかける視線を感じた。タマは、逃げてばかりではいけないと
思い切ってその視線の方に歩いて行った。視線は、縄張りを守る猫のものであった。 「こんにちは、ボクたちはただの通りすがりです。ガリとタマと申します。」 とガリが挨拶すると、塀の横から茶色の猫が出てきた。 「そうかい、俺は飼い猫のトムだ。この店の周辺が俺の縄張りだから、こうして警戒して
いた。脅かしてすまなかったな。」 トムは最近この辺りに野良犬の群れがうろつき始めて、物騒なことになっていると言っ
た。今日の月夜の晩に、この事態に備えた猫の集会がある、この辺りに縄張りを持つ猫がす べて集まってくるから、皆に紹介してやるから一緒に来るようにと言われた。行く先々で縄 張り争いに巻き込まれないようにとのトムの気遣いであった。それまでは、歩き回らないで この辺でおとなしくしていろと言った。
「それはありがとうございます。ぜひ連れて行ってください。」タマとガリは声をそろえ てお礼を言った。」
やがて夜になり星が出て、きれいな月も見えるようになった。
深夜トムは 2 匹を連れて広場に来た。広場にはすでに、人影はなくひっそりと静まって いた。よく見ると少し間隔を置いて、黒い影がうずくまってあちこちにあった。トムも同じ ようにうずくまるように 2 匹に言った。しばらくするうちに黒いうずくまりがあちこちに 増えてきた。もう、20 以上あるように思えた。
その中の一つが立ち上がって広場の真ん中に進み出た。それを合図のように、ほかの陰も 真ん中近くに集まってきた。最初に進み出た茶色の縞模様の猫、ハナはクリーニング店のメス の飼い猫で体も大きかった。「皆も集まっているようなので、そろそろ始めるよ。」と切り出 した。「散髪屋のシマに 3 匹の赤ちゃんが生まれたけど、どこかに連れていかれてシマは 落ち込んでしまって今日は欠席している。」「それと、皆も聞いているかもしれないけど、トムの 所にタマとガリが来た。公園から来たらしい。縄張り荒しじゃないから、手荒なことはしな いでね。銀姉さんからも、くれぐれもよろしくとお願いされてる。」
トムは 2 匹にハナの所に行って、皆に挨拶するようにと促した。 タマとガリは、緊張しながら広場に進みハナに頭を下げてから皆の方を見て

「よろしくお願いします。タマと申します。」「ガリと申します。」 黒い影は一斉に軽くうなずいたように見えた。
「よし、お前たちは下がってよい。」 「次にこの前、マサ爺さんが野良犬の集団に襲われて瀕死の重傷を負った事件だが、その傷 が元でマサ爺さんは歩けなくなってしまった。」
「最近、この辺りには 5~6 匹の野良犬の集団がうろついているみたい。見つけても、近寄 ったり威嚇したりしないですぐに逃げるように。悪賢いやつらで、うまく誘い込んで集団で 襲ってくるから用心するように。」 「人間たちも、このことに気付いていて排除を検討しているようなので、もう少しの我慢だよ。我々では、どうしようもないからね。」 「後、タマとガリの面倒をしばらくトムが見る。」そこでトムが立ち上がってハナの横に来 て「そういうわけで、俺がお世話係だからよろしく。」とあいさつして後はお互いの様子を 語りあった後に集会はお開きになった。
その翌日から、トムは 2 匹を連れて商店街を案内してくれた。ここは、誰かれの縄張りだ とか丁寧に教えてくれた。
夕方、店じまいをしているかまぼこ屋の前を通りかかった時 「おや、トム珍しいね。お客さん連れかい?」 「じゃ、今日は特別に大きいのを上げようね。」と言って、店番のおばさんがかまぼこを投 げてくれた。トムはそれをガリとタマに分けてくれた。それは、それは、おいしくてほっぺ たがとろけそうになった。 「こんな、おいしいもの食べたことない。」「おいしすぎる」などと言いながら 2 匹は夢中で 食べた。 「よく聞きな。お店の前を通るのも時間と店番の人の組み合わせが大事なんだ。猫が大嫌い な犬派の人には、追っ払われるからな。それと、店じまい時は売れ残った商品の片づけでお やつやおかずをくれることも多いからその時を逃さないようにな。」とトムは2匹に教えた。 タマとガリはしばらくこの商店街でお世話になることにした。 川の草むらから睨んでいた赤い大きな目の正体は誰なのか、タマの心の隅に恐怖の感覚と ともに残り続けていた。

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