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上村裕香『ほくほくおいも党』 雑感その5

◆活動家二世・エントリーメソッド(2)

前回につづいて、活動家二世のエントリー過程について。

<活動家二世/外部注入・地域型>

『ほくほくおいも党』とは関係ありません。

父に言われて、放課後、岩崎さんのところに行った。岩崎さんがいたのは党の県委員会が借りている事務所で、外壁がひび割れた要塞みたいな三階建ての建物だった。
……彼と会うのは中学生のころ参加した民青の集まり以来だった。…

千秋が入党の勧誘をうけるときも、最初から父が登場したわけではなく、はじめはオーソドックスな手法で勧誘が開始される。

親の活動家仲間やその周辺に勧められて民青に入るーーこのタイプの人たちが二世のなかでいちばん多いとわたしは思っている。スタンダードである。

親が地域支部(居住地域を舞台として活動する党員でつくられる支部。例えば左京地区北白川A支部とか)に所属しており、その支部会議の場で対象者がピックアップされ、その地域に対応する民青組織の班長(例えば左京高野地域班とか)などが子に声をかけるパターンである。

福岡のある地区では、病院の党支部とその病院のある居住支部が無署名論文 [青年・学生党員の志をはげまし「理性と人間性」が生きる党活動を(赤旗1994.1.23)]を討議し、両支部の党員の子弟数人を民青同盟に紹介して民青同盟に迎えいれ、新たに高校班を確立しました。…

(日本共産党全国青年・学生部長会議への報告・金子逸青年・学生局長/『前衛』1994.12)

たとえば、地域の党支部の会議で以下のような会話がかわされるのである。
「今田さんの真子ちゃんもう高校生だけど民青どうかな?」
「うーん。まあ、ええけど。せやけど私が言うてもあの子ぜったい聞かへんと思うわ」
「じゃあ民青のXさんに紹介して彼女から話してもらおう。Xさんと真子ちゃんはお互い顔知ってるよね。二人が小学生のころ、今田さんとXさんのお母さんが新婦人のバスツアーに二人連れて行っていっしょにバーベキューとか食べた仲だし」
「あの子、ええかげんやから会議とかしまいに行かんようになると思うわ。それでもいいんやったら」
てな具合だだろう。

『ほくいも』とは関係ありません

親にひとこと言って了解をもらったうえで実行されることが多いはずだ。後述するような考えの党員も一定数いるのでトラブル回避のため、あるいは仁義を切る的な意味で、親の事前了承を貰うのが常識となっているだろう。
このパターンで民青加盟そして党員になった人たちを「活動家二世/外部注入・地域型」と名付けておこう。

千秋は結局、岩崎さんでは陥落せず、オーソドックス「外部注入・地域型」タイプになりそこねた。
そして「活動家二世/外部注入・直系尊属型」となるのだが、このタイプは「活動家二世/外部注入・傍系血族型」とあわせ最後に説明する。


<活動家二世/自然成長・親帝環境型>
次に、親からも親の活動家仲間からも入党も民青加盟も勧められなかったのに、どこかで入党してしまう人である。
労働者階級の階級的意識や役割を、外部注入なしに自然成長で自覚してしまうという点で、レーニン『何をなすべきか』って何それ?的な彼・彼女たちである。
(注)レーニンの「外部注入」「自然成長」とは違うデタラメな意味で使っています。

「自然成長・親帝環境型」は、党員である親が子どもの民青加盟を好ましく思わず活動家仲間からわが子を民青に誘う提案がなされても絶対に許さない環境で発生する。
これは民青の活動にかまけて受験勉強などをおろそかにすることへの危機意識などからくる。
宮本顕治がこう言っている。

こんど打ち出された民青の高校班の活動改善というものは、ひじょうに画期的なものです。民青の同志の報告をきくと、党の地方機関の常任活動家で高校生の息子が民青にはいろうとすると、これをひじょうにためらう傾向があるということです。というのは、民青にはいったら勉強できなくなるんじゃないか、共産党の選挙活動にすぐかり出されるのではないか、という不安が親としてあるわけです。

(1977.4日本共産党「参院選での前進と機関紙などの党勢拡大のための大運動推進」全国会議・
宮本顕治委員長の発言/『前衛』1977.6臨時増刊)

そういう子は高校1年の4月ころ、親から、民青とは何かという説明も一切なく「ここらへんの民青、勉強できへんようになった奴ぎょーさんおる!」と有無を言わさない親からの絶対主義的・帝国主義的圧力をかけられる。
宗教絡みなら「ヘンな宗教に近づきなや。なんでかゆうたら・・・」と懇切丁寧に説明してくれるのに、民青に関してはそんな説明は一切なされない。質問すら許されない迫力で宣告されるのだ。子は親の意を汲んで、親の前では触れてはいけないのだと直感的に悟り、その理由を尋ねないであげるのだ。

<活動家二世/自然成長・厳密環境型>
親帝環境型の変種として厳密環境型がある。
厳密環境タイプは、親などが自分の子に民青や党に勧めると、加盟や入党の正当性にキズがつくという考えを親が持っている環境で発生する。

民青の目的や党の綱領に同意し本人の意思にもとづいて加盟・入党するべきなのに、血縁者(親)やその関係人・地縁者(親の活動家仲間)から勧誘されると、これまでのしがらみやこれからの人間関係を考量・忖度してしまうため、そういう不純な動機が紛れ込むやり方は断固認められない、とするものである。

人間社会はそんなに単純に割り切れるものではないことも承知のうえで、自分の子にだけは厳密なる意味におけるマニフェスト(主体的意思表明)環境を求めようとするのである。
この厳マニ主義的言辞は、親帝主義的言辞(勉強しなくなるから民青はいるな)があまりにも無茶であることを親としても自覚している時、それを隠すために弄される場合もあるので注意したい。

<活動家二世/自然成長・放置環境型>
自然成長・放置環境型は、党員である親が職場支部の所属で、そもそも自分の子に民青を勧めようという発想が希薄である場合やそのきっかけがない環境に多い。

なぜそうなるのかは、党のタテ割り組織体制を知る必要がある。
職場支部とは、企業や工場など職場やその労働組合が活動の舞台である党員で組織される支部のことだ。
例えば、Aさんは兵庫・三菱伊丹X工場支部のメンバーで、仮に自宅が大阪市大正区だったとしよう。この場合、大正区を管轄する党組織(大阪・木津川南地区委員会)にはAさんが党員であることは原則として伝達されない。

そのため、木津川南地区の地域支部にはAさんは赤旗日刊紙読者にしか見えず(Aさん自らが党員だと告げる場合を除く)、Aさんに高校生の子どもがいるという情報も地域支部の党員が集金の時の雑談などで努力してようやく把握できるもので、その子を民青に誘うにも非党員に見えるAさんにひとこえかける必要があり、なかなか簡単ではないのである。

この子らは、民青加入の対象者としてリストアップされる前提すら欠いているので、共産党的には灯台下暗し=射程外放置環境下にいるのである。

『ほくいも』とは関係ありません

自然成長組は、おおよそこれら3種の環境から発生するが、成長の仕方には2タイプある。
第一のタイプ、「自走式自然成長組」は、家の赤旗日刊紙を読んだり、高二の夏休みの親のいないヒマな時間にそっち系の本をちょっとかじってみたら、マルクスから現代経済学の基礎理論、綱領路線、個々の政策までが論理一貫性をもつ、森羅万象の科学体系として屹立しているように見え、学校で習ういろいろな教科までがマルクス主義によって統一的・有機的に再構成できる…あたりまで感じ取ってしまったりする。ヤケシミだらけの50年問題資料集なんかもあったりして、いろいろあるけどまあいいんじゃないですかという気分になってしまうのである。
こういう人たちは高校卒業後、きっかけさえあれば簡単に入党してしまう。もちろん親の所属する地域支部とは異なる支部に属すべきことくらい心得ている。

第二のタイプである「追尾式自然成長組」は、もっぱら親の実際の活動を見てそれに共感してしまうタイプである。
日本共産党発行の月刊誌『女性のひろば』で、親が共産党員である女性党員たちの座談会が行われた記事から引用しよう。

…父の方はちょうど共産党が分裂して混乱した時期だったのでほとんど家に帰らない生活でした。…そんな生活の中で印象に残っているのは、母が入党した時のことです。そのころ八畳一間に住んでいたので、会議などがあると、私は机の前に座って終わるまでじっと壁を見ながら、聞くともなしに聞いていたんですね。
…母は自分の地位を捨てて働く人たちのために活動している父をもっと理解したいということで入ったようでした。だから、私もなんとなく共産党は正しいという感じはしていましたね。
でも、私の両親は…子どもにどんな活動をしているのかを話してくれるということはあまりありませんでした。"親の背中を見て育った"というかんじかしら…。

(「座談会・共産党員の子どもでよかった!」『女性のひろば』1988.5月号)

つづく
つづきは、「活動家二世/外部注入・直系尊属型」とか


『ほくほくおいも党』単行本は、オンラインで発売してましたが完売していて再版の予定はないようです。
が、商業誌で連載予定とのこと。未読の方はそれを待ちましょう。

商業出版ではムリだと言われ続けていた本作ですが、奇跡的に小学館「STORY BOX」で4月号(3月10日掲載)から半年ほど連載予定です(わたしが原稿を落とさなければ)。BCCKSでもSTORY BOXでも、ぜひお読みいただければ幸いです!


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