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仙人狩り

 強化コンクリートと防弾厚ガラスで囲まれた、真っ白の空間。何もなく、だだっ広いこの部屋の中央に、ぽつん、とらっきょう壺が置いてある。
 それは明らかに異質だった。大きさがドラム缶ほどあり、たまに蓋がカタ、と内側から少し持ち上がるが、またすぐに閉じる。液体が入っているのかチャプ…と波の跳ねる音がする。
 俺は父の袖を強く握りしめた。
 父は「すごいだろう?」と自慢げに微笑む。
「らっきょう酢には体を柔軟にするビノドキシンが多量に含まれている。人間をらっきょう漬けにし、仙人を作る。お前のアイデアだよ。」
父は興奮し、反応式の説明を始めるが、俺の頭には入ってこない。俺は怖かった。俺はひたすら、目の前の壺を見つめていた。
 するとその時、再び蓋がカタ、と持ち上がった。俺はそれを見ていた。
 そして―――中身と目が合った。


*   *   * 


「逃げろー!」「や、やめ、ぐぎゃぁ!」「こいつら!腕が!伸びるぞ!」「火だ!火だ!」「うああああ!」

 調布に突如現れた仙人たちは、街を蹂躙し、人々を殺し、一夜にして人口が半分にまで減る。

「クソ親父が…!今どこにいやがる?」
 俺はブレード型の罪冴を敵の体内から引き抜く。足元に転がる老人の死体。緑の血液で、ぐにゃぐにゃに伸びきった腕や足…。毎度思うがそういう深海生物みたいだ。
 俺は能力を解除する。罪冴は消え、右手が戻ってきた。体内に戻った罪冴は、右肩甲骨あたりを通過して脊髄に沿って下半身の方へ流れていった。
 俺は辺りを見渡す。
 街が燃えている。学校のグラウンドに、子供の死体が落ちている。
 目の前で蹂躙される調布市。悔しさと、罪の意識が込み上げ俺を責め立てた。フラッシュバックする過去の記憶。これを忘れるな。俺はこの惨状を心に刻みつける。

「仙人どもは1人残らずあの世へ送る。俺がやるんだ。必ず…!」

 また、悲鳴が聞こえた。俺はすぐに駆け出した。俺の名前は二階堂刀也。贖罪のために、俺は戦う。



【続く】

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