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ようこそ殺人鬼の街へ


『殺人鬼また死亡。これで4人目』

 俺は新聞から顔を上げ、「また殺されたらしいぞ。殺人鬼」と妻に言う。だが、反応無し。妻は食器を洗っている。

 最近、この街を賑わせている連続殺人鬼殺人事件。
 ここ、西暁町は殺人事件が日本一多い街として有名だ。毎年1万人くらい殺されており、町長はもう開き直ってそういう町としてプロモーションしている。市のホームページにはおどろおどろしい文字で「ようこそ殺人鬼の街へ」と書かれている。
 そして最近、この殺人鬼だけを狙った連続殺人事件が起きていた。1人目は、ご当地キャラにもなった爆弾卿ボマー、2人目は、女性ファンの多かった殺人美容師K、次に、老人だけを襲う卑劣なヤングボーイ。そして、昨日殺されたのは…おいマジか。『映画監督』じゃねーか!やっとくたばったかこいつ。
「殺されたの、『映画監督』だってよ」俺は妻に言う。だが無視。皿のカチャカチャという音が聞こえる。
 俺はコーヒーを啜り、新聞を読み続けた。すると、ある記事に目が止まる。
『赤坂首相、再び問題発言』
 もういいよこいつは。最年少首相で期待は高かったものの、やること全て斜め上。急落した支持率を上げようと聞こえのいいことを言い、それがまた国民の怒りを買っている。この町ならこいつは100回は死んでる。

 くだらねえ。俺は新聞を閉じてテーブルに置く。そして、タバコを吸うために立ち上がった。

 だが、その時だ。

 俺は違和感に気づく。

 いつの間にか、窓が、空いている。レースのカーテンがゆらゆらと靡いている。
 俺ははっとしてキッチンを見る。妻がいない。
 俺は状況を瞬時に理解した。
 目を閉じる俺。
 五感を、全てを研ぎ澄まして俺は感じ取る。
 そして、次の瞬間!
 俺は懐からチャクラムを取り出し、テレビの裏めがけて投擲する!「うぎゃあああああ!」男の悲鳴が聞こえた。
「35年」
俺はそいつに向かって言う。

「この町で35年生きてきた。これがどういうことか教えてやるぜ」


【続く】



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