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あの日の"Just The Two Of Us" 藤井風coverより

広いホールの暗いステージにぽつりと置かれた一台のグランドピアノ。

コツコツとかかとを鳴らして、あなたはステージの袖から歩いてくる。
スポットライトがそんなあなたを追う。

割れるような拍手の中、ステージの真ん中まで来たあなたは、深々と頭を下げる。
変わってないんだね、そんなところ。

椅子に座り一度背を伸ばし目線を上げ、ポロンと弾き始めたのは「Just The Two Of Us」

あの日、私だけのために弾いてくれたあの曲。

遠くなったあの日、初めて訪ねたあなたの部屋。

私を招き入れた途端、そっと後から目隠しをした細く長くひんやりした指。

目隠しをされあなたを後ろに感じたまま、覚束ない足取りで歩き、ストンと椅子に座らされた。

「目ぇ明けな」

そう言われて、そっと目を開けるとそこは真っ暗な部屋。

そしてピアノの前にはあなたが座っていた。

ピアノの奥にある国道に面した暗い窓際には、小さな小さなクリスマス・ツリー。

二人で見たあの雑貨屋さんにあったものだった?

まるで悪戯を始める子供のように、形良い唇からチロッと舌を出して弾き始めた曲は

「Just The Two Of Us」

嬉しそうにキラキラと。

あなたの声とピアノは、チラチラとクリスタルの囁きのような音を放ち輝きながら天井に登っていった。

手元も見ずに私を見てるけど、照れくさいからチカチカするクリスマス・ツリーを見ていた。

時々盗み見ると、あなたはすぐに目をそらしてしまう。

天使のようなふわふわの巻き毛。
そのくせくっきりとシャープな線を描く顎のライン。綺麗な並行二重に長い睫毛。
いつもきゅっと上がって微笑んでいるような口元。

なんだか恥ずかしくてまともに見れなかったあなたの横顔。

ずるいほど眩しい笑顔を私に向けながら弾き終えたあなたは、ほっとひとつ息を吐く。

そしてちょっと自分の前髪を直してからこっちを向き、今度は私の頬にかかった髪を直しながら

「どうじゃった?」って聞くけど、答えられるはずないじゃない。

赤いチェックのシャツを着てたあなた。
下はジャージだったなんて、最後の最後まで気づかなかった。

あの時、あなたとなら本当にお城を創れると信じられた。

空の上の二人だけのお城。

いまのあなたは少しうつむき加減に、同じ曲を弾いている。

綺麗にオールバックにした額からつづく、あの頃よりも痩せて少し影ができた目元と頬。美しい顎のラインを描く横顔はそのままだね。

細身の黒いパンツを履き真っ白のシャツの袖を無造作に捲りあげて、あなたは弾き歌う。

溢れる音と声はあの頃と同じようにキラキラとしているけれど、その音たちは例えようもなく優しくて、

ベルベットをそっとそっと撫でるような柔らかさで私を包む。

優しい翳りを帯びた声に私は思う。

あれから、どんな恋をしてきたの。

あの頃ふたりで夢見た美しいお城は、まだ雲の上にあるのかな。

私は広いホールの隅からあなたを見つめる。

fin.

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大好きなYou Tubeの「Just The Two Of Us」
無邪気で嬉しそうな、歌うのが楽しくて仕方ないのを隠せない風くんがそこにいます。

そして「へでもねーよ」EPに収録されている「Just The Two Of Us」
こちらを聴いたとき、ああ、たくさんの事を経て大人になった歌なんだなと、とても切なくなりました。
歌声もピアノも優しく、しっとりと柔らかい。


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