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パクチーを完全に克服

おれは基本的にはなんでも喜んで食べる、そのへんに落ちてるおまんじゅうでも積極的に拾って食べるくらいには好き嫌いがない、たいへんな健啖家で通っておりますけれどもね。ただその中でも苦手としているものが3つありまして、それがミョウガ、パクチー、ゆずの3つです。

この世界にはあったほうが良い食べ物と、なくても困らない食べ物と、それからないほうがいい食べ物の3種類があると思っています。例えば、とんかつなんかはあったほうが良い食べ物ですね。ミョウガはなくても困らない食べ物で、パクチーとゆずはないほうがいい食べ物であると考えるほどには苦手です。

ただこれらの3つは好きな人はめっちゃ好きじゃないですか、苦手である旨を告げると「こんなにもおいしいものが食べられないなんてお前というやつはなんて勿体ない人間なんだ」くらいのことは言ってきますよね。ちょっとこちらにマウントを取っているような感じがして、毎々うるせーなボケがお前みたいなのがいるからこんなものが食卓に並んでしまうんだよ、とつい悪態をつきたくなってしまいますが、さすがに私もいい大人ですんで、目の前に提供されたときは、特にミョウガなんかはこれをおいしく食べられるのが小粋な大人の生き方なのだと自分に言い聞かせながら食べています。ミョウガを好んで食べられる人って大人だな、と思いませんか?そうでもないですか?

ゆずが苦手なことについては珍しがられることが多いんですが、おれがゆずを苦手に思うようになったのは明確な原体験があるんです。小学生のころ、毎年冬至の時季になると両親がゆずをどこかから大量にもらってきてお風呂に投入していたんです。ゆず風呂というやつですね。ただ我が家は、他の家がどのくらい入れているかは分からないですが明らかに入れすぎじゃね?と思うほどには投入されていたのです。実質ゆずの果汁に浸かっていると言っても過言ではないほどには浴室中にゆずの香りが充満していました。

ゆず風呂の醍醐味はなんといってもあの身体がポカポカする感覚なんだと思うんですが、我が家のゆず風呂は入れすぎていたせいか、もうなんか身体がチクチクするんです。よく銭湯に電気風呂ってありますが、あれと錯覚するくらいにはチクチクとしたんです。電気風呂っていうのは、要は体に害のない程度の感電ですよね。おれはゆずのことをどのくらい嫌いかの尺度で表す際、よく「感電と同じくらい嫌い」という言葉を使います。それは電気風呂と錯覚するほどのゆず風呂に入れられた経験によるものと言ってよいでしょうね。

おれの身体をチクチクとさせるのはこの黄色い実だと気が付いたとき、もう坊主憎けりゃのやつで食べるのも嫌になってしまったということなんですけれども、実家で鍋料理にゆずが入っていたらもう気持ち的にはちゃぶ台ひっくり返す星一徹の感じですよね。大人になってからは宴席でゆずが入っているのに気が付いてもそれなりにうまくかわせるようになりましたが、一方、ゆず胡椒やゆずのポン酢、それからごっくん馬路村のようなゆずの加工品は大人になってから出会っておいしく好んで食べるので、だんだんおれは本当にゆずが苦手なのか揺らぎ始めているのが最近の感じです。

さて、それからパクチーについて、おれはエスニック料理が大好きでよく行くのですが、20代半ばくらいまではいつも抜いてもらっていました。パクチーって入れたらもうパクチーの味しかしなくなるじゃないですか。ただ東南アジア系の料理などをパクチー抜きで食べることに対して常に若干の後ろめたさを覚えていたといいますか、パクチーを抜いた状態でおれは果たしてエスニック料理が好きだと胸を張って言えるのだろうか、パクチーを入れてこそ本場の味なのではないかと思っておりましたから、20代半ばごろを境に少しずつ克服に向けて、少量を入れるところからスタートしていったのです。

それでもなかなかおいしいと思えず、エスニック料理店に行くたびに相変わらず過激派パクチー好きによるマウントを浴びながら今日に至っていたんですが、先日このnoteにもたびたび登場するスペシャルフレンドことスズキがこのごろバインミーにハマっているようで、最近はもはやバインミーのお店を見つけたらたとえ和食が食べたい日であっても、半ば自動的にお店に入るようになってしまったなどと、あまりにも熱っぽく言うので彼女に連れられてバインミーを食べてみることにしたのです。このバインミーというものにはたいていパクチーが入っているらしいんですが、当然スズキはパクチーが大好きで、もうパクチーだけが入ったサラダでも全然食べられちゃうとか言っていたので、おれはなにそれマジでキショいなと思いながら聞いていたんですが、ひとまず克服活動の一環でバインミーにパクチーを入れてみたんです。

それで食べたバインミーがめちゃくちゃおいしかった!バインミーってバゲットの中にいろんな具が詰まっているので食べ進めるうちに具があちこち迷子になってしまいがちなんですが、つまり具がまばらになりがちなのですが明らかにパクチーがいるところが特においしい。本場風に味付けされた"なます"のような物やらピクルスなんかが入っていて、当然それ自体もおいしいんですが、パクチーが入ることによってそれらの良さが一層際立っている!

おれはもともとパクチーの協調性のなさが気に入らなかったんです。繰り返しになりますがパクチーって入れたらもう全部パクチーの味になるじゃないですか。例えるならそう、あることをきっかけにグレてしまってあんなに大好きだったバスケ部にも顔を出さなくなり悪い友達と付き合うようになってしまった、少しでも街や学校などで目が合うと「なーに見てやがんだコラァ!!」と因縁をつけてくる感じの不良少年のような、学校の不穏分子のような、なんかそんな感じじゃないですか。

ただ適材適所と言いますか、バインミーは未知の食べ物だったもので現地風に味付けがされた具とともに食べると、そういうものとして総合的に受け入れることができる。なんならめっちゃうまい。バインミーっていうかもうパクチーがうまい。最早パクチーがいないとこのチームが成り立たないくらい、バインミーにおける重要なポジションを確立している。大好きだったバスケへの愛情を思い出し、改心してポイントゲッターとして全国の舞台で活躍するまでに成長する感じといいますか、これはもう完全に三井寿のことを言っているわけですけれども。

パクチーってバインミーにおける三井寿だったんですね!と気が付いてスズキにその旨伝えたところ、「ずっと何言ってんの?さっきから全然分かんないんだけど」と一蹴されました。なんでだよ分かれよ。ともあれ、パクチーは完全に克服しました。ただしバインミーに入っている場合のみ。そんな感じです。


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