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国を越えた、自然の繋がり


ジョン・F・ケネディ空港から北に3時間。

朝靄が出る中、ニューヨークはキャッツキルの川へと車を走らせた。そうそう、視察のための出張だからと言って、釣りをサボるわけにはいかない。眠い目をこすりながら、暗がりのなか山を越える。

冬に差し掛かるこの地域は、息が白くなるほど十分に寒かった。


子供の頃の景色を思い出す。福島は裏磐梯。噴火によってできた山々の間に浮かぶ湖は、秋になると湖面から湯気を出す。

気温が下がった朝。夏の日差しに温められた水と、秋の冷気で冷えた空気。二つの気温差が、湖面に靄を誘う。

そんな中でボートを出すのが大好きだった。釣れたら嬉しい。しかし釣れなくても、そんな景色を見る、のではなく、湖面に漕ぎだすことで風景の中に入り込んでいくという行為が大好きだった。

アメリカにも、当たり前に夏の日差しはあり、そして秋の冷気もある。

少しずつ朝の光が山の間から照り始め、一本の線となる。太陽が、湖面に浮かぶ靄を照らす。


日本と、アメリカ。いつの間にか引かれた国、言語、文化という境界線を越えて、世界は大地と水で繋がってる。

「そうだよな、自然は全部一緒なんだ」

ブラウントラウトという、茶色の鱒を地元の川で釣った。魚は国を越えても、同じように川の中で好む場所があり、同じように季節に合わせて虫を食べ、同じように釣ることができた。

キツネが走り、水鳥が川辺に佇み、熊が親子で歩いていた。

日本の山と、同じだった。

人が引いた線。その線があたかも無いように、むしろ事実そんなことは関係なく、力強く繋がって生きる自然を太平洋を越えて感じる瞬間。

当たり前のことだけど、一瞬でもそれを感じられたことが嬉しくて、下を向いて静かに笑った。

ホテルの未来を考える。toco./Nui./Len/CITANを手がけるBackpackers' Japan代表、本間貴裕のノート。