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映画は音楽のように。音楽は映画のように。スカート「波のない夏feat.adieu」

「波のない夏feat.adieu」
スカート

 映画『水深ゼロメートルから』の音楽を手がけたスカート(澤部渡)が、adieu(上白石萌歌)を客演に招き、作品のエンディングを飾った秀逸な主題歌。
 2019年、当時高校生だった中田夢花が母校、徳島市立高校演劇部のために書き下ろした渾身の脚本。山下敦弘監督によるこの映画化においても、中田がシナリオを手がけている。
 4人の女子高校生たちが、学校のプール掃除をしながら、自身の女性性の社会的ポジションを巡って、終わりなきトークを繰り広げる。とは言え、メッセージ優先のディスカッションドラマではない。出口なしの季節の終わりを前に、それぞれがそれぞれのアイデンティティで格闘する。真っ新な有り様が胸を打つ。
 女の子たちの物語を、男性監督が的確な距離から捉え、一人一人の個性と思考、饒舌と沈黙をありのままに讃える。
 舞台となる水のないプールを「波のない夏」と形容するスカートのアプローチには、抑制と豊穣が寄せては返す映画の純度を受けとめ、さらに彼方へ連れていく波動がある。
 曲の後半、adieuのソロ部分は、現在から過去への呼びかけであり、冬から夏への問いかけであり、季節と一日、終わりと始まり、個人と世界など、めくるめく対話のループが作品批評たり得ている。
 男女ともに少し鼻にかかった声質であることが、吹きっさらしのソフトクリームのようで、刹那と覚悟を同時に感じさせる。
 優しく押し寄せる。映画は音楽のように。音楽は映画のように。わずか3分5秒の軌跡=奇蹟。

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