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#文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会(5)開催「AIと著作権に関する考え方について(素案)」の全文訳

2023年12月20日、文化審議会 著作権分科会 法制度小委員会が開催され、「AIと著作権に関する考え方について(素案)」が公開されました。

文化審議会著作権分科会法制度小委員会(第5回)
日時:令和5年12月20日(水)10:00~12:00 場所:文部科学省東館3F1特別会議室

生成AIに著作権に関して、類似性・依拠性、侵害に対する措置、責任主体、RAGやベクトル化、複数の生成物、プロンプトの分量、試行回数や、加筆修正についての判断などについてもディスカッションされています。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_05/pdf/93980701_01.pdf

AICU mediaではこの「素案」で共有されたディスカッションを大変重要なものであると考え、できるだけそのままの状態(原作)で共有することを検討いたしました。一方で、原作のPDFは項目の階層(アウトラインレベル)で読みづらく、LLMでの解釈や多言語に機械翻訳を行う上での混乱をきたしたため、AICU社解釈版を【読みやすい全文訳】として日本語から日本語への手作業の翻訳作業を行い、レベル付きで共有することといたしました。
それによると文書は大きく分けて
(1)学習・開発段階
(2)生成・利用段階
(3)生成物の著作性について
(4)その他の論点
4つの論点で構成されており、それぞれに
【「非享受目的」に該当する場合について】
【著作権者の利益を不当に害する事となる場合について】
【侵害に対する措置について】
【侵害行為の責任主体について】
【その他の論点について】
といった構成が取られておりいます。
骨子案については複数の案があり、本稿では見解を述べることは避けます。
以下にもくじを掲載しますが、レベルとしては倍角(1)(2)(3)の下にカタカナのアイウ、さらにその下のレベルに(ア)(イ)(ウ)というH5、その下の項目までレベルが存在することに注意です。

本稿の著作権に関する注意

本稿の原作は文化庁であり、AICU社はその公共性から権利を主張しないこととします。本稿は文化審議会における議事録の素案であり今後改訂される可能性が高く、誤りもしくは修正指摘に対する対応は必須とせず、正確性については保証しません。また他形式への変換、翻訳等についても同様にこの方針(公共性による著作権の例外)といたしたく存じます。一方でこの議論の過程を保存しておくことは日本国民および世界の生成AIにおける法的会社の過程の共有はその社会における相互理解に貢献できる可能性があります。生成AIの先端に関わる皆様に貢献できれば幸いです。

https://www.bunka.go.jp/jiyuriyo/index.html

なお原稿のGoogleDocs/Word形式のファイルの入手をご希望の場合は、AICU社までお問い合わせください。 https://corp.aicu.ai/contact


AI と著作権に関する考え方について(素案)

※本資料は、公開時点において議論・検討中である AI と著作権に関する論点整理の項目立て及び記載内容案の概要を示すものであり、今後の議論を踏まえて変更される可能性がある。

1.はじめに

(略)

2.検討の前提として

○AI と著作権の問題を考えるにあたっては、既存の著作権法の考え方との整合性を考慮した上で検討することが必要であり、特に、AI についての議論が、人が AI を使わずに行う創作活動についての考え方と矛盾しないように留意する必要がある。そのため、特に以下の点については、AI と著作権について検討する前提として確認することとする。
① 著作権法で保護される著作物の範囲(著作権法第2条第1項第1号(以下、著作権法の各条文に言及する場合には、「法第〇条」という。)の定義)
② 著作権法で保護される利益
③ 権利制限規定の考え方(保護と利用・新たな創作の自由とのバランス)
④ 日本の著作権法が適用される範囲(生成 AI の学習・開発及び生成・利用の各段階についての考え方)
○AI と著作権の関係において、特に法第 30 条の4を中心に、以下の点を踏まえた議論が必要であり、確認することとする。
① 制定に至る背景と経緯
② 対象となる利用行為(AI に限定したものではないことの確認)
③ 非享受目的の理解(情報解析について・他の目的が併存する場合について)
④ 権利制限規定は技術的対応による学習回避を否定するものではないこと


3.生成 AI の技術的な背景について(略)


4.関係者からの様々な懸念の声について(略)


5.各論点について

○著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成 AI に関する懸念点について、以下のとおり論点が整理できるのではないか。〔 〕内は骨子案の項目との対応関係

(1)学習・開発段階

ア 検討の前提〔骨子案:(1)ア〕
(ア)平成 30 年改正の趣旨
○近時の AI 開発においては、著作物を含む大量のデータを用いた深層学習等の手法が広く用いられており、この学習用データの収集・加工等の場面において、既存の著作物の利用が生じ得る。こうした AI 開発のための学習を含む、情報解析の用に供するための著作物の利用に関しては、法第 30 条の4において権利制限規定が設けられている(同条第2号)。
○同条を含む「柔軟な権利制限規定」を創設した平成 30 年改正の趣旨としては、技術革新により大量の情報を収集し、利用することが可能となる中で、イノベーション創出等の促進に資するものとして、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて個々の許諾を不要とすることがあったといえる(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第 30 条の4,第 47 条の4及び第 47 条の5関係)」(令和元年 10 月 24 日)(以下「基本的な考え方」という。)1頁) 。
○また、法第 30 条の4 は、このような「柔軟な権利制限規定」 の中でも特に、著作権者の利益を通常害しないといえる場合を対象とするものである(「基本的な考え方」6頁) 。
○そのため、同条の要件を解釈するに当たっては、このような平成 30 年改正の趣旨や、同条の規定の趣旨を踏まえて解釈する必要がある。
(イ)議論の背景
○近時の生成 AI 技術の進展は著しく、また、その普及は事業者にとどまらず一般市民の間にも広く進んでいる。このような状況の中で、法第 30 条の4の適用範囲等の、同条の解釈が具体的に問われる場面も増加していることから、現時点では、特に生成 AI に関する同条の適用範囲等について、再整理を図ることが必要である。
○この点に関して、法第 30 条の 4 は生成 AI のみならず、技術革新に伴う著作物 の新たな利用態様に柔軟に対応できる権利制限規定として設けられたものであり、例えば、生成 AI 以外の AI(認識、識別、人の判断支援等を行う AI)を開発する学習のための著作物の利用、技術開発・実用化試験のための著作物の利用、プログラムのリバース・エンジニアリング等の行為も権利制限の対象とするものである。
○そのため、再整理を行うに当たっては、上記のように様々な技術革新に伴う著作物の新たな利用態様が不測の悪影響を受けないよう留意しつつ、生成 AI 特有の事情について議論することが必要である。

【「非享受目的」に該当する場合について】

イ「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について
〔骨子案:(1) イ、キ〕
(ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて
○法第30 条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。
○そのため、AI 学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第 30 条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。
(イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について
○他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第30 条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享
受させることを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる [1]。
○そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場合であっても、この非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第 30 条の4は適用されない [2]。
○生成 AI に関して、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が想定される。
▶ファインチューニングのうち、意図的に、学習データをそのまま出力させることを目的としたものを行うため、著作物の複製等を行う場合。
(例)いわゆる「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合
▶AI 学習のために用いた学習データを出力させる意図は有していないが、既存のデータベースや Web 上に掲載されたデータの全部又は一部を、生成 AI を用いて出力させることを目的として、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の、著作物の複製等を行う場合。
(例)以下のような検索拡張生成(RAG)のうち、生成に際して著作物の一部を出力させることを目的としたもの(なお、RAG については後掲(1)ウも参照)
インターネット検索エンジンであって、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとにインターネット上の情報を検索し、その結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
企業・団体等が、単語や文章の形で入力された検索クエリをもとに企業・団体等の内部で蓄積されたデータを検索できるシステムを構築し、当該システムが、検索の結果をもとに文章の形で回答を生成するもの
○これに対して、「学習データをそのまま出力させる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データの影響を強く受けた生成物が出力される
ようなファインチューニングを行うため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作物の表現上の本質的特徴を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存すると考えられる。
○近時は、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能とする行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。このような場合、当該作品群は、表現に至らないアイデアのレベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまらず表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。
○なお、生成・利用段階において、AI が学習した著作物に類似した生成物が生成される事例があったとしても、通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における享受目的の存在を推認することまではできず、法第 30 条の4の適用は 直ちに否定されるものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物に類似した生成物の生成が頻発するといった事情は、開発・学 習段階における享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる。
ウ 検索拡張生成(RAG)等について〔骨子案:(1)ウ、(2)コ〕
○検索拡張生成(RAG)その他の、生成 AI によって著作物を含む対象データを検索し、その結果の要約等を行って回答を生成するもの(以下「RAG 等」という。)
については、生成に際して既存の著作物の一部を出力するものであることから、その開発のために行う著作物の複製等は、非享受目的の利用行為とはいえず、法第 30 条の4は適用されないと考えられる。
○他方で、RAG 等による回答の生成に際して既存の著作物を利用することについては、法第 47 条の5第1項第1号又は第2号の適用があることが考えられる。た
だし、この点に関しては、法第 47 条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、 当該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認められることに留意する必要がある。RAG 等による生成に際して、こ の「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を利用する場合は、法第 47 条の5第 1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得て利用する必要があると考え られる。
○また、RAG 等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為とし
て、権利制限規定の適用を受けることが考えられる。

【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】

エ  著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について〔骨子案:(1)エ〕
(ア)法第 30 条の4ただし書の解釈に関する考え方について
○法第 30 条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途 並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、
この限りでない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。
○この点に関して、本ただし書は、法第 30 条の4本文に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない
場合」に該当する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討することが必要と考えられる。
○また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかと
いう観点から検討することが必要と考えられる。
(イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて
○本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当に害することとなるか否かは、法第 30 条の4に基づいて利用される当該著作物について判断されるべきものと考えられる。
(例)AI 学習のための学習データとして複製等された著作物
○作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認められない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害とはならない。また、既存の著作物とアイデア等が類似するが、表現として異なる生成物が市場において取引されたとしても、これによって直ち に当該既存の著作物の取引機会が失われるなど、市場において競合する関係とは ならないと考えられる。
○そのため、著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることにより、自らの市場が圧迫されるかもしれないという
抽象的なおそれのみでは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しないと考えられる。
○なお、この点に関しては、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品である著作物のみを学習データとしてファインチューニングを行う場合、当該作品群が、当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、表現のレベルにおいても、当該作品群には、これに共通する表現上の本質的特徴があると評価できる場合もあると考えられることに配意すべきである。
(ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について
○本ただし書に該当すると考えられる例としては、「基本的な考え方 」(9頁)において、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が販売されている場合に,当該データベースを情報解析目的で複製等する
行為」が既に示されている。
○この点に関して、上記の例で示されている「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」としては、DVD 等の記録媒体に記録して提供されるもののみならず、インターネット上でファイルのダウンロードを可能とすることや、データの取得を可能とする API(Application Programming Interface)の提供などにより、オンラインでデータが提供されるものも含まれ得ると考えられる。
○また、「当該データベースを(……)複製等する行為」に関しては、データベースの著作権は、データベースの全体ではなくその一部分のみが利用される場合であっても、当該一部分でも著作物としての価値が認められる部分が利用されれば、その部分についても及ぶ(加戸守行『著作権法逐条講義 七訂新版』(公益社団法人著作権情報センター、2021 年)142 頁)とされている。
○これを踏まえると、例えば、インターネット上で、データベースの著作物から情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できる API が有償で提供されている場合において、当該 API を有償で利用することなく、当該データベースに含まれる一定の情報のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、法第 30 条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる 3。
(エ)学習のための複製等を防止する技術的な措置を回避した複製について〔骨子案:
(1)コ〕


○AI 学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こうした措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者やウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。
(例)ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述によって、AI 学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
(例)ID・パスワード等を用いた認証によって、ウェブサイト内へのアクセスを制限する措置
○このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として
販売する際に、当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられている例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)[4]。
○そのため、このような技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合、この措置を回避して行う AI 学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通常、法第 30 条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと考えられる。
○なお、このような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置が、従来、「技術的保護手段」又は「技術的利用制限手段」に該当すると考えられてきたものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。

(オ)海賊版等の権利侵害複製物を AI 学習のため複製することについて
○インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI 学習のた
め学習データの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多いと考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS 等において個人のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの等まで様々なものが含まれる。
○このため、AI 学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複
製物が含まれている場合もあり得る。
○他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁に
おいては、権利者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。
○AI 開発事業者や AI サービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際して、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長するものとならないよう 十分配慮した上でこれを行うことが求められる。
○また、後掲(2)キのとおり、生成・利用段階で既存の著作物の著作権侵害が生じた場合、AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者も、当該侵害行為の主体と
して責任を負う場合があり得る。ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきものであり、仮にこのような行為があった場合は、当該 AI 開発事業者や AI サービス提供事業者が、これにより開発された生成 AI により生じる著作権侵害について、その関与の程度に照らして、規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる(AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)。

【侵害に対する措置について】

オ AI 学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置について〔骨子案:(1)オ〕

○享受目的が併存する、又はただし書に該当する等の理由で法第 30 条の4が適用されず、他の権利制限規定も適用されない場合、権利者からの許諾が得られない
限り、AI 学習のための複製は著作権侵害となる。
○この場合、AI 学習のための複製を行った者が受け得る措置としては、損害賠償請求(民法第 709 条)、侵害行為の差止請求(法第 112 条第1項)、将来の侵害行
為の予防措置の請求(同条第2項)、刑事罰(法第 119 条)等が規定されている。
○なお、損害賠償請求についてはその要件として故意又は過失の存在が、刑事罰については故意の存在が必要となる。
カ AI 学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範囲について〔骨子案:(1)カ〕
(ア)将来の AI 学習に用いられる学習用データセットからの除去の請求について
○AI 学習に際して著作権侵害が生じた際は、上記(1)オのとおり、AI 学習のための複製を行った者に対し、侵害行為の差止請求(法第 112 条第1項)及び将来
の侵害行為の予防措置の請求(同条第2項)が考えられる。
○このうち、将来の侵害行為の予防措置の請求は、将来において侵害行為が生じる蓋然性が高いといえる場合に、あらかじめこれを防止する措置を請求できるとするものである。そのため、著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来において AI 学習に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場合は、当該 AI 学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去が、将来の侵害行為の予防措置の請求として認められ得ると考えられる。
(イ)学習済みモデルの廃棄請求について
○法第 112 条第2項では、侵害の停止又は予防に必要な措置としての廃棄請求の対象となるものとして「侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」が規定されている。
○AI 学習により作成された学習済モデルは、通常、学習に用いられた著作物の複製物とはいえず、「侵害の行為を組成した物」又は「侵害の行為によつて作成された物」には該当しないと考えられる。また、通常、AI 学習により作成された学習済モデルは、学習データである著作物と類似しないものを生成することができると考えられることから、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」にも該当しないと考えられる。そのため、AI 学習により作成された学習済モデルについての廃棄請求は、通常、認められないものと考えられる。
○他方で、当該学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態にある等の場合 5は、学習データである著作物の本質的特徴が当該学習済モデルに残存しているとして、法的には、当該学習済モデルが学習データである著作物の複製物であると評価される場合も考えられ、このような場合は、「侵害の行為を組成した物」又は「侵害の行為によつて作成された物」として、当該学習済モデルの廃棄請求が認められる場合もあり得る。また、この場合は、当該学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物の生成(すなわち複製権侵害を構成する複製)に専ら供されたとして「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」として廃棄請求が認められる場合もあり得る 6。

【その他の論点について】

キ AI 学習における、法第 30 条の4に規定する「必要と認められる限度」について〔骨子案:(1)ク〕
○法第30 条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基づく権利制限の要件とされている。
○この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、AI 学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められる限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。
ク AI 学習を拒絶する著作権者の意思表示について〔骨子案:(1)ケ〕
○著作権法上の権利制限規定は、①著作物利用の性質からして著作権が及ぶものとすることが妥当でないもの、②公益上の理由から著作権を制限することが必要
と認められるもの、③他の権利との調整のため著作権を制限する必要のあるもの、
④社会慣行として行われており著作権を制限しても著作権者の経済的利益を不当 に害しないと認められるものなどについて、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許諾なく著作物を利用できることとするものである。
○このような権利制限規定の立法趣旨からすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ自体をもって、権利制限規定の対象から除外されると解釈することは困難である。また、AI 学習のための学習データの収集は、クローラ等のプログラムによって機械的に行われる例が多いことからすると、当該プログラムにおいて機械的に判別できない方法による意思表示があることをもって権利制限規定の対象から除外してしまうと、学習データの収集を行う者にとって不測の著作権侵害を生じさせる懸念がある。そのため、こうした意思表示があることのみをもって、法第 30 条の4ただし書に該当するとは考えられない。
○他方で、このような AI 学習を拒絶する著作権者の意思表示が、機械可読な方法で表示されている場合、上記の不測の著作権侵害を生じさせる懸念は低減される。
また、このような場合、上記エ(エ)のとおり、AI 学習のための著作物の複製等 を防止する技術的な措置が講じられており、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定 があることが推認される場合、この措置を回避して行う AI 学習のための複製等は、当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、通 常、法第 30 条の4ただし書に該当し、同条による権利制限の対象とはならないと 考えられる。
ケ 法 30 条の4以外の権利制限規定の適用について〔骨子案:(1)サ〕
○著作権法上の権利制限規定としては、上記の法第 30 条の4及び第 47 条の5のほか、法第2章第3節第5款において複数の規定が設けられている。
○この点に関して、AI 学習のための著作物の複製等については、上記の法第 30 条の4及び第 47 条の5以外にも、当該複製等を対象とする権利制限規定が適用され
る場合であれば、権利者の許諾を得ることなく適法に行うことができる。
○適用があり得ると考えられる権利制限規定としては、具体的には、私的使用目 的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)
が考えられる。
○そのため、例えば、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において AI 学習のために使用する目的で行う場合、AI 学習のための学習データの収集に伴う複製は、法第 30 条の4の適用の有無に関わりなく、権利者の許諾を得ることなく適法に行うことができると考えられる。
○なお、このように私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)に基づいて AI 学習のための学習データの収集に伴う複製を行った場合は、法第 30 条の4に基づいて複製を行った場合と異なり、収集した学習データを AI 学習のためのデータセットとして第三者に譲渡したり、公衆送信したりする行為には法第 30 条第1項の権利制限規定は適用されない。このように、それぞれの権利制限規定において、権利者の許諾を得ることなく可能とされている行為が異なることには留意する必要がある [7]。

(2)生成・利用段階

ア 検討の前提
○生成AI により生成物を出力し、その生成物を利用する段階(以下、「生成・利用段階」という。)では、生成物の生成行為(著作権法における複製等)と、生成物
のインターネットを介した送信などの利用行為(著作権法における複製、公衆送信等)について、既存の著作物の著作権侵害となる可能性があり、この場合においては、従前の人間が AI を使わずに行う創作活動の際の著作権侵害の要件と同様に考える必要がある。
○従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされている。
○現在、生成 AI を利用した創作活動においては、開発の際に、AI 利用者が知り得なかった著作物を含む大量のデータを用いている生成 AI を利用する場合もあり、
このような利用は、AI 利用者が認識し得ない著作物に基づいたものを生成する可能性もある。
○このように、AI 利用者が、自らが知りえない環境で開発された生成 AI を創作活動に使っていることなど、人間が AI を使わずに行う創作活動と異なる点も踏まえ、生成・利用段階における著作権侵害について、侵害が認められる場合の考え方や侵害に対する差止請求や損害賠償請求、刑事罰といった受け得る措置、責任主体の考え方などについて整理する必要がある。

【著作権侵害の有無の考え方について】

イ 著作権侵害の有無の考え方について
○従前の裁判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成 AI を利用した場合にこれらが認められる場合については、以下のように考えられる。
(ア)類似性の考え方について〔骨子案:(2)ク〕
○AI 生成物と既存の著作物との類似性の判断については、生成AI をどのように利用したかといった制作過程ではなく、生成物そのものが既存の著作物に類似していると認められるかのみを判断すれば良いものであることから、原則として、人間が AI を使わずに創作したものと同様に考えられる[8]。
(イ)依拠性の考え方について〔骨子案:(2)ア、イ〕
○依拠性の判断については、従来の裁判例では、ある作品が、既存の著作物に類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。
○一方、生成 AI の場合、その開発のために利用された著作物を、生成 AI の利用 者が認識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。
○そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成 AIによる生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。
① AI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合
・生成 AI をした場合であっても、AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しており、生成 AI を利用してこれと類似したものを生成させた場合は、依拠性が認められ、AI 利用者による著作権侵害が成立すると考えられる。
(例)Image to Image(画像を生成 AI に指示として入力し、生成物として画像を得る行為) のように、既存の著作物そのものや、その題号などの特定の固有名詞を入力する場合
・この点に関して、従来の裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へのアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性の程度の高さ等の間接事実により、既存の著作物の表現内容を知っていたことが推認されてきた。
・このような従来の裁判例を踏まえると、生成 AI が利用された場合であっても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性や、既存著作物への高度な類似性があること等を立証すれば、依拠性があると推認されることとなる。
②AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物が含まれる場合
・AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当 該生成 AI の開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、 当該生成 AI を利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵 害は成立しないと考えられる。
・一方、AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生成 AI の開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成 AI を利用し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと認められ、著作権侵害になりうると考えられる。
・ただし、このような場合であっても、当該生成 AI について、開発・学習段階において学習に用いられた著作物が、生成・利用段階において生成されないような技術的な措置が講じられているといえること等、当該生成 AIが、学習に用いられた著作物をそのまま生成する状態になっていないといえる事情がある場合には、AI 利用者において当該事情を反証することにより、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考えられる。
・なお、生成 AI の開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、AI 利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成 AI を開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合があることについては留意が必要である。
ウ 依拠性に関する AI 利用者の反証と学習データについて〔骨子案:(2)イ〕
○上記の場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの反証の必要が生じることとなるが、上記のイ②で確認したように、生成 AI を利用し生成された生成物が既存の著作物に類似していた場合であって、当該生成 AI の開発に当該著作物を用いていた場合は、依拠性が認められる可能性が高いと考えれることから、被疑侵害者の側が依拠性を否定するためには、当該既存著作物が学習データに含まれていないこと等を反証する必要がある。

【侵害に対する措置について】

エ 侵害に対する措置について〔骨子案:(2)ウ〕
○著作権侵害が認められた場合、侵害者が受け得る措置としては、差止請求、損害賠償請求及び著作権侵害に基づく刑事罰が考えられる。
○差止請求については、故意及び過失の有無を問わず可能とされている。これに対して、損害賠償請求については侵害者に故意又は過失が認められることが必要
であり、また、刑事罰が科せられるためには、侵害者に故意が認められることが必要である。
○そのうえで、侵害に対する措置としては、以下のように考えられる。
○AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合は、通常、著作権侵害についての故意又は過失は認められず、このような場合において著作権
侵害が認められたとしても、受け得る措置は、差止請求に留まると考えられる。
○もっとも、AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合でも、AI 利用者に対しては、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額等の不当利得の返還が認められることがあり得ると考えられる。
オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について
○生成・利用段階においては、生成と利用の場面それぞれで故意又は過失の有無について判断は異なり得ると考えられる。また、生成時の複製については権利制限規定の範囲内であったとしても、生成物の譲渡や公衆送信といった利用時には、権利制限規定の範囲を超える行為として、著作権侵害となる場合があるため留意 が必要である。
カ 差止請求として取り得る措置について〔骨子案:(2)エ〕
○生成 AI による生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る著作物等の権利者は、生成 AI を利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能 と考えられる。この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。
○また、生成 AI の開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置として、侵害物を生成した生成 AI の開発に用いられたデータセットがその後も AI 開発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。
○また、侵害物を生成した生成 AI について、当該生成 AI による生成によって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、生成 AI の開発事業者に対して、当該生成 AI による著作権侵害の予防に必要な措置を請求することができると考えられる。
○この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしないといった措置、あるいは、②当該生成 AI の学習に用いられた著作物の類似物を生成しないといった措置等の、生成 AI に対する技術的な制限を付す方法などが考えられる[9]。

【侵害行為の責任主体について】

キ 侵害行為の責任主体について〔骨子案:(2)オ〕
○従来の裁判例上、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的責任論)。
○そこで、AI 生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においても、物理的な行為主体である AI 利用者のみならず、生成 AI の開発や、生成 AI を用いたサービス提供を行う事業者が、著作権侵害の行為主体として責任を負う場合があると考えられる。
○この点に関して、具体的には、以下のように考えられる。
① ある特定の生成 AI を用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
② 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成する可能性を認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する技術的な手段を施していない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。
③ 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を生成することを防止する技術的な手段を施している場合、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。
④ 当該生成 AI が、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、 AI 利用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI にプロンプト入力するなどの指示を行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低くなるものと考えられる。

【その他の論点】

ク 生成指示のための生成 AI への著作物の入力について〔骨子案:(2)カ〕
○生成 AI に対して生成の指示をする際は、プロンプトと呼ばれる複数の単語又は文章や、画像等を生成 AI に入力する場合があり、入力に当たっては、著作物の複製等が生じる場合がある。
○この生成 AI に対する入力は、生成物の生成のため、入力されたプロンプトを情報解析するものであるため、これに伴う著作物の複製等については、法第 30 条の4の適用が考えられる。
○ただし、生成 AI に対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる目的で当該著作物を入力する行為は、生成 AI による情報解析に用いる目的の他、入力した著作物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法第 30 条の4は適用されないと考えられる。
ケ 権利制限規定の適用について〔骨子案:(2)キ〕
〇生成 AI の生成・利用段階においては、生成指示のための既存の著作物の複製等
(プロンプト入力)や、既存の著作物に類似した生成物の生成、出力された既存の著作物に類似する生成物の利用といった場面で、既存の著作物を利用することがあり得る。これらの場合については、権利制限規定が適用され、権利者の許諾なく行うことができる場合があると考えられる。
〇 具体的には、私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)がある。また、企業・団体等の内部において、生成物を生成することについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条の 3)の適用が考えられる。
〇 なお、特に、生成 AI による生成・利用段階については、生成段階と、利用段階の利用行為それぞれについて、権利制限規定の適用を検討する必要があり、その一方で権利制限規定が適用される場合でも、他方では適用の範囲外となり、著作権者の許諾が必要となる場合も想定される。そのため、それぞれの利用行為について、権利制限規定の適用の有無を検討することが必要である。
コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について〔骨子案:(2)ケ〕
〇 生成 AI の生成物の侵害の有無の判断に当たって必要な要件である依拠性の有無については、上記イ(イ)のとおり、当該生成 AI の開発・学習段階で侵害の行為に係る著作物を学習していた場合には認められると考える。
〇 このような立証のため、事業者に対し、法第 114 条の 3(書類の提出等)や、民事訴訟法上の文書提出命令(同法第 223 条第1項)、文書送付嘱託(同法第 226 条)等に基づき、当該生成 AI の開発・学習段階で用いたデータの開示を求めることができる場合もあるが、依拠性の立証においては、データの開示を求めるまでもなく、高度の類似性があることなどでも認められ得る。

(3)生成物の著作物性について

ア 整理することの意義・実益について〔骨子案:(3)ア〕
○AI 生成物の著作物性の整理については、AI 生成物が著作権法による保護を受けるのかといった観点より、生成 AI を活用したビジネスモデルの検討に影響を与えうるほか、AI 生成物を利用する際に著作権者に許諾をとる必要があるのかといった判断に影響を与えうるものであり、その意義や実益はあると考える。
○なお、ある作品において、生成 AI を利用し作成されたものであることを示すウォーターマークが付されているなど、生成 AI を利用し作成されたものであることが明らかであることや、作品の一部について著作物性が否定される要素があったとしても、本整理による著作物性の有無についての考え方が、当該作品全体の著作物性の有無についての考え方に影響するわけではないことに留意する必要がある。


イ 生成 AI に対する指示の具体性と AI 生成物の著作物性との関係について〔骨子案:(3)イ〕
○著作権法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する裁判例等に照らせば、生成 AI に対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該 AI 生成物に著作物性は認められないと考えられる。
○また、AI 生成物の著作物性は、個々のAI 生成物について個別具体的な事例に応じて判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、著作物性の判断するに当たっては、以下の①~④に示すような要素があると考えられる。
① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容
AI 生成物を生成するに当たって、表現と同程度の詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方で、長大な指示であったとしても表現に至らない指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。
② 生成の試行回数
試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。
③ 複数の生成物からの選択
単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。
④生成後の加筆・修正
人間が、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分について の著作物性には影響しないと考えられる。
ウ 著作物性がないものに対する保護〔骨子案:(3)ウ〕
○著作物性がないものであったとしても、判例上、その複製や利用が、営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると考えられる。


(4) その他の論点について

○学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。
○また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第 30 条の4の趣旨を踏まえると、AI 開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、対価還元の手段として、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考えられる。
○他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進することについても検討が必要であると考えられる。
○なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為については、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうかなど、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。


6.最後に (略)


以下は脚注(読みづらいため移動)

[1] なお、法第 30 条の4に規定する「享受」の対象について、同条では上記のとおり「当該著作物」と規定していることから、表現された思想又は感情の享受目的の有無が問題となるのは、同条による権利制限の対象となる当該著作物(例:AI 学習のため複製等される学習用データ)についてであり、これ以外の他の著作物について享受目的の有無が問題となるものではない。そのため、例えば、AI 学習を行う者が、生成 AI による生成物を観賞して楽しむ等の目的を有していたとしても、これによって開 発・学習段階における法第 30 条の4の適用が否定されるものではないと考えられる。
[2] この点に関しては、事業者が侵害物の生成を抑止するための技術的手段を講じている場合、事業者の行うAI 学習のための複製が、非享受目的であることを推認させる事情となる、といった意見があった。
[3] 具体例としては、学術論文の出版社が論文データについてテキスト・データマイニング用ライセンス及び API を提供している事例や、新聞社が記事データについて同様のライセンス及び API を提供している事例等がある。
[4] 具体例としては、The New York Times(米国)が自社記事を掲載するウェブサイトの robots.txt においてAI 学習データ収集用クローラをブロックし、別途、テキスト・データマイニング用ライセンス及び API を提供している事例や、Financial Times、The Guardian(いずれも英国)が同様の取組を行っている事例、Axel Springer(ドイツ)が傘下メディアの記事を掲載するウェブサイトの robots.txtにおいてAI 学習データ収集用クローラをブロックし、別途、OpenAI(米国)に対して AI 学習及び AI による要約等の生成に関する記事データのライセンスを提供している事例等がある。
[5] 上記(1)イのように、学習データである著作物に表現された思想又は感情を享受する目的が併存しているといえる場合、このような目的の下で行われた AI 学習により作成された学習済モデルは、特 に、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態となっており、「侵害の行為によつて作成された物」等として、当該学習済モデルの廃棄請求が認められる場合も多くあると考えられる。
[6] AI 学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習に用いられた特定の著作物による学習済モデルへの影響を取り除く措置を請求することは、その技術的な実現可能性や、技術的に可能としてもこれに要する時間的・費用的負担の重さ等(例えば特定の学習データを学習用データセットから除去した状態で再度学習済モデルの作成を行う場合、当初の学習と同程度の時間的・費用的負担が生じると考えられる。)から、通常、このような措置の請求は認められないと考えられる。
[7] 法第 30 条の4においては、非享受目的の利用であること等の同条の要件を満たす限り、譲渡や公衆送信を含め、いかなる方法でも著作物を利用できることとされている。これに対して、法第 30 条第1項においては、対象となる利用行為が複製に限定されている。
[8] 類似性は従来、創作的表現の類似について判断されてきたが、表現とアイデアの区別は容易ではな く、AI による創作が容易になった現状においては、現状における技術の進展にあわせて、判断する必要があるという意見もあった。
[9] この点に関しては、著作権侵害の差止請求又は侵害の予防に必要な措置の請求を行う場合には、訴訟実務上、差止請求の対象の特定や、予防に必要なものとして求める措置の特定といった、請求の具体的な特定方法については課題があるといった意見があった。


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