#23-243 満月の夜に。
女性にはわかってもらえるだろうか。
生理前になると、生理がちゃんとくるかどうか心配で不安になってしまうことがある、ということを。
わたしにも、そんなことがあった。絶対にあってはならないことだけれど、そんな心配をしなければならない事態になった。不安で不安で仕方がなくて、知識のないわたしは、何度もインターネットで「生理前」と「妊娠超初期」というワードで、症状の違いを検索をしていた。生理前に、いつもたいして症状がなかったわたしには、殆ど参考にならなかった。
基礎体温をつけていない。それほどまでに気にかけていなくても、くるときはくるし、こないときはこない。妊娠を望んでいたこともない。生理不順なわけではないけれど、あまり等間隔でくる方ではなく、わたしが子どもを妊娠したとわかったときには、周りに驚かれたほどだ。そのときには不安なんてものはもちろんなくて、生理がきていなかったことも気にしていなかったし、妊娠していたことだって気づくのはとても遅かった。あのとき、もし姉が妊娠していなかったら、わたしはいつまで経ってもきっと気づかないで過ごしていたのだろうとおもう。それくらい、じぶんの身体や体調のことには無関心でもあった。
だけど、そうではないこともある。結果的に心配のまま終わった、あのときの「生理がきた」安心感は、妊娠がわかったときよりも嬉しいものだった。大丈夫だと信じたくても、どうしても不安になる。どうにもできない。誰にも言えず、ひとりで苦しむしかない。いつもならきてほしくないあいつ(生理)を、これほどまでに待ち望むことはないだろう。
そんなひとが、きっといる。
今も、不安に苦しんでいるひとが。
どうか、無事でいてくれますように。
そんな不安や苦しみが、
この世から消え去りますように。
すすむは、とても気難しいひとだった。わたしが一緒に働いていた約2年の間、ほとんどの時間を機嫌が悪そうな顔で過ごしていた印象だ。顔がそう見えるだけで、実際は機嫌が悪いわけではなかったかもしれない。人相の問題。(失礼)
コーヒーがすきで、給湯室で一緒になったときは何かしらの話をしていた。愚痴を聞いたり、愚痴を聞いたり、愚痴を言ってるのを宥めたり。
簡単にはじぶんを曲げない性格なので、気に入らないことは気に入らないし、気に入らないことは認めないし、気に入らないひとにはそれなりの対応をしていた。そして、それがなかなかに手がかかった。気に入らないひととは、お互いが気に入らないものだから、言い合いになることが多く、その間に「こら!」とわたしが入ることがあった。(派遣なのに)「〇〇さんにそんなこと言えるの、有満さんくらいだよ」と、所長にも言われていた。お前が言えよ、と誰もがおもっていたことだろう。わたしは本人に言ったかもしれない。この所長に、今日連絡してみたら「今朝に有満のことが頭に浮かんだんよ」と返信があった。わたしって、やっぱりちょっとすごいかも。「有満」は気に入らないけれど。わたしたちはそんな仲じゃない。
見ていておもしろいくらい、すすむはすすむだった。わたしはそんなすすむがきらいになれなかったし、すすむもわたしには気を許してくれていたのか、わたしの言うことはたいてい聞いてくれていた。というか、ミスが多く(内緒)、いつもそのミスを見つけるのがわたしだったので、わたしには何も言えなかったのだろう。そんなこともないか。
彼もわたしを認めてくれていたひとりだった。わたしがいない場所でも、「あいつはよう働く」「優秀じゃ」と話してくれていたらしい。「あいつ」って言うな。
働いているときから、いつもわたしの体調を気遣ってくれていた。「働きすぎだ」と心配してくれていたのだ。今もそれは変わらない。すすむは、やさしい。
今日も、すすむはすすむだった。
車から降りてきたところから、すすむ過ぎて笑えた。嬉しかった。相変わらずの不機嫌顔で、安心した。段差につまづいても表情ひとつ変えず、軽くステップを踏んだだけのように歩いていた。一緒に働いていた友人に送ろうと、登場シーンを盗撮していたので、この動画でしばらく笑えそうだ。みなさまにお見せできなくて残念だ。席について外したイヤホンに「え、それ補聴器?」と聞くと、「相変わらず失礼なやつじゃのぉ」と言って、笑いそうで笑わない懐かしい表情を見せてくれた。まゆが緩まない。さすがである。
「自分の人生を大切にな!」
帰ったあと、そうメッセージをくれた。
「すすむもな!」
とは返さなかったじぶんを褒めたい。
いや、返した方がよかったのかもしれない。
古希のお祝いには、大きなお酒を贈ろう。
8月の終わり。
どう足掻いても、終わるものは終わる。
そしてまた始まる。
満月の夜に、わたしは。
aico.
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