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#23-193 プレイボール

姉から突然連絡が入った。

「これからそっち行くから、送って行ってほしい」

プロ野球の試合を観に行くのに車で向かっているけれど、車が多くて駐車場にたどり着けない、とのことだった。
「うん、いいよ」
連絡があったのは16時半前。夕飯の支度もしていないのに、それ以外のことばは出てこなかった。

試合があるのは、マスカットスタジアム。我が家から車で20分かからないくらいの場所にある。近いと言えば近いけれど、わたしにとってはまぁまぁ遠い。
姉が我が家に着いたのは17時前だった。
「車がすごいんよ!無理!」
相変わらず騒がしい口調で、玄関のドアを開けた。わたしはそう言う姉の言葉に、いつも「そうなんだ」とだけ言うようにしている。応える必要もないとおもいながらも、何も言わないのも良くないとおもい、「そうなんだ」とだけは言うようにしている。元々、姉とわたしが交わす言葉は少ない。

すぐに家を出て球場に向かった。姉の友だちも一緒だった。姉と姪っこ、ママ友とその子どもを乗せて、車を走らせる。球場は見えているのに、なかなか近づかない。甥っこは熱を出してお留守番をしているらしい。一緒に観に行っている友だちは、甥っこの同級生だった。

どうにか球場が大きく見えるところまで近づいたところで、姉が言った。

「あんた、ここでUターンして帰り(なさい)。」

その言葉に違和感を持ちながらも「わかった」と言って4人をおろし、言われた通りにUターンして帰った。

「帰り、電話して。迎えに来るから」
タクシーで帰ろうとしていた姉に、わたしは言った。タクシーで帰ればいいのだけれど、球場に向かう車がこの状態だ。帰りにタクシーがつかまる保証はない。タクシー会社も断りたいくらいだろう。何より、一緒にいる友だち(子ども)が気の毒だ。尤も、ひとも車も混むことを承知で観戦に行っているだろうから、こちらが気にかける必要もないのだろうけれど。

連絡をもらって迎えに出たのは21時半前だっただろうか。「今9回表」と連絡があって出かける支度をしていたら、すぐに終わった。9回、どちらも呆気なくスリーアウトになったらしい。その程度のルールは知っている。

球場の近くになると、ものすごいひとが歩いていた。歩道に隙間が見えないほどの多さだ。そして、そこらじゅうにハザードランプを点滅させた車が停車している。
近くのコンビニで待ち合わせをしようとおもっていたけれど、近いとはいえ、歩くと近くはない。姉たちがいる場所から行きやすい場所にある、酒屋の駐車場で待たせてもらうことにした。こちらもそれほど近くもない。

それにしても、ひとがすごい。球場内の熱気がそのまま流れてきたようで、見ているだけで息苦しく感じるほどだった。わたしだったら、行かないだろう。わざわざそこへ行って野球やサッカーを見たいともおもわないけれど。
わたしがひとの多さを覚悟して行くことができるのは、ディズニーランドとディズニーシーだけだ。

しばらくして、姉たちが駐車場に着いた。姿が見えなくても、姉の騒がしい声はよく聞こえた。
「もうガチガチじゃん!これガチでひと多すぎ!」
いつも以上のテンションの高さだ。余程楽しかったのだろう。姉はわたしが使わない言葉をよく使う。

帰りは全く混むことなく、早くに家に着いた。後部座席で「お泊まりしたい、明日学校行きたくない」と言っている姪っこ。「お泊まりしてもいいけど、ママはどう言うかなぁ」というわたしの言葉に被せるように「普通に学校行けよ」と姉が言った。そりゃそうだ。
甥っこの友だちはとてもおとなしかったけれど、甥っこが一緒だったらまた違ったのかもしれない。「楽しかった」と言っていたので安心した。

阪神タイガースと横浜ベイスターズの公式戦だったようだ。ひとが多いはずだ。こんな平日の夜にこれだけのひとが動くなんて、どれほどの人気があるかよくわかる。
みんな、楽しんでいるんだな。
観戦できるようになってよかったな。

今年は、夏祭りも開催されるようだ。どれほどのひとで埋め尽くされるのか、想像しただけで帰りたい気持ちになる。地元の小さなお祭りにも行きたくない。
人ごみに行くなら、ディズニーランドに行きたい。
40周年のディズニーランドに行きたい。

「もしこの夏行くことができたら」

秘かに賭けている。

わたしのプレイボールはこれからだ。

aico.


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