第20話「そして彼は華麗なる変身を遂げる」の巻

早いもので2月に入った。
最初の週末、祖母(私の母)が泊まりがけで、マゴに会いに来る一週間前のこと。
お正月は会ってないので、お年玉代わりにオモチャをかってもらう約束だった。
どんなオモチャがいいかな?とヨドバシカメラへ下見に行く。
シンカリオン?プラレール?ポケモン?
雑誌「幼稚園」のおもちゃプレゼントのページを暗記するまで見ていたムスコ。
なんと彼が選んだのは『仮面ライダーゼロワン 変身ベルト』の豪華なヤツ!税込¥8200!!

まじかー!?仮面ライダー観たことないやん?一人で幼稚園行って欲しいレベルの値段やで?
けれど、私は待っていた。
これくらい高いレベルの要求を!!!

登園拒否が始まってからの濃密な日々の中で、気づいたことがある。
ムスコが私に要求した場合、私の要求も飲んでくれるのだ。
ムスコが「お母さん、これやって~」とお願いしてきたら、私の「じゃあ、お片付けしてくれる?」はスンナリ受け入れてくれる。

何度も確認した。
ムスコは変身ベルトのために頑張る決心をしたのだった。
心の傷も回復してきた証拠かもしれない。


月曜日を迎えた。
ムスコは制服は着なかったけど、ベレー帽だけはかぶって園に行った。
もう頭の中は変身ベルトの事でいっぱいのようだ。会う人、会う人、変身のポーズを見せていた。
『ベルトパワーおそるべし…』
無理やりじゃないし、大丈夫だろうと思った。
山を越えたな、そんな感じだった。


火曜日も一人で行けた。
ベレー帽とリュックもして登園した!
元気に走って園に向かう後ろ姿に、胸が熱くなった。
夫にも見せたくて、写真を撮った。
何でもない写真かもしれないが、一生忘れることのない一枚になった。

ところが、私の咳が一向に治らない。
咳き込み過ぎて吐きそう…
週末お祖母ちゃんが来るので、早く治さねば!と焦る。


水曜日、私の体調不良で休ませた。
送迎する気力が無かった。
アニメ【映像研には手を出すな!】をひたすら見て、気分を上げた。


木曜日も、一人で大丈夫だった。
ずいぶん自信をもったようで、その夜、自ら「つぎはせーふく(制服)きるよ」と言っていた。
すごい進歩だ。


金曜日は、休んだ。
一人で行けたから、オールオッケーと思っちゃダメだな…
かかりつけの小児科に薬をもらいに行く。
焦るな、焦るな。焦るな、私。
あんなに母から離れたがらなかったのに、一人で行ける日ができたばかりなんだ。


この頃は、「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客のニュースが日々報道されていた。新型コロナウィルスが私達の生活をこんなにも脅かすとはまだ思ってなかった。
ただマスクが手に入りにくくなっていた。


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