第17話「君は幼児生活団をしってるかい?」の巻

ムスコが幼稚園に行けなくなった時、なんとなく『#自主保育』をインスタで検索してみた。その時、なんだか惹き付けられたのが「幼児生活団」だった。

この時得られた情報は、校舎があって、通うのは週1~2回。生活団で学んだことを、日常で実践する。学びは日常の中にある。お昼ご飯はお弁当ではなく、団員(子ども)の母親で作るという。

週1~2回なら、なんとか頑張れば家から通うことの出きる場所。思いきって体験を申し込んだのだった。

三学期になり二度目の土曜日。雪になりそうなくらい寒い日だった。あらかじめ用意周到に調べた時間でバスと電車を乗り継いで家族三人で向かった。家から約一時間半。これをムスコと通うのはできるだろうか?と不安になったのを覚えている。

バスから降り、校舎を目指す。歩道のない道が少々怖かったのと、初めての場所に向かう不安と寒さで緊張していた。けれど校舎を見つけた瞬間、自分達好みの少しレトロな建物に気分が高揚した。

受付を済まし中に入ると50~60才くらいの優しそうなおばさまが数人いらした。指導者だった。とても柔らかい感じでホッとしたのを覚えている。

始まるまで教室をうろうろ。ムスコと同い年くらいの子が指導者と一緒にジュウシマツのお世話をしていた。この年でお世話を任せるなんて、勇気がいるな。私だったら口うるさく言っちゃいそう。

生活団に通っている子の服も、なんだかイマドキじゃない。すこしレトロなワンピースの女の子、男の子のシャツのボタンが大きい。自分で着脱できるよう工夫してるようだ。

授業が始まり、自分達で出席をとる。お当番さんが来ているこの子頭をポンポンとさわりながら人数を数えた。そして今日のやることを告げた。自分達で育てたじゃがいもを、お昼ごはんにしてもらうよう調理室にお願いしていた。

その後、ピアノに合わせて体操したり、絵を描いたり、工作したり…その度に指導者達が準備をするが、幼稚園の先生と違ってほとんど口出ししていなかった。色々メモしていたり写真を撮っていた。あとで保護者に報告するのだろうか?あと、子ども達を『○○さん』と呼んでいた。『子ども』ではなく、ひとりの人間として敬意を払っているんだと思った。

ムスコの反応はというと、体操は参加せず机の下に入り込み寝転んで様子をみていた。
好きな楽器を順番に取りに行く時は、目敏いムスコは赤いタンバリンが触りたく順番が待てず飛びついた。
親は「ムスコ!おちつけ!順番だよ!」と注意したら、指導者の1人が「大丈夫ですよ」と声をかけてくれた。ここでは口出しせず、見守るんだな…そんな優しい空気を感じた。
工作で作ったミニ凧を二階の講堂で挙げましょう!と移動となった。
その時、調理室が見え、お母さん達がお昼ご飯を作っていた。白い割烹着、あたたかい湯気、何かが焼けるいい匂い。すこし幸せな気分になる。
この『学ぶ場でいい匂いがする』という環境が、私たち夫婦の中ですごく気に入った。

幼児生活団、こんな世界があるんだ。
こんな風にひとりひとりをじっくり見つめてくれる場所があるんだ。
みんなと一緒にやりたくないことも受け入れてくれるんだ。
大人と子どもの境界線がない場所があるんだ。

もし今の幼稚園がダメなら、幼児生活団に行きたいな。
親も覚悟がいるな。通園時間や給食作り…でも、頑張る価値はあるな。
この【他にも道がある】ということが、我々の心にすこし余裕を与えてくれた。

お弁当持参だったけど、給食もおすそ分けしてもらえた。
この日の献立は「鶏ひき肉と野菜の松笠焼き」「野菜の甘酢和え」「白飯」、そして「蒸しじゃがいも」だった。

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