第15話「クリスマスが楽しくないなんて、初めてや」の巻

冬休みに入り、気が抜けて私は風邪をひいていた。
いつもなら仕上がっているはずの年賀状も手付かず…
ムスコへのクリスマスプレゼントさえも買えてない…
とにかく穏やかに過ごすことにした。不安を与えないように。
「お母さん、みてみて!」と言われれば、仕事の手を止めムスコと向き合った。
「おかあさん」と何回も言うが、その先の言葉が出てこないこともあった。
できるだけ幼稚園のこと忘れさせてやりたかった。

幼稚園に行けなくなってから、幾度となく夫婦で話し合った。
悔しくて悲しくて、歯を食いしばって泣いた日もある。
誰にも助けを求められない。なら、自分たちで道を切り拓くしかない!
堕ちるとこまで堕ちたら、上を向く。私はそうゆう性格らしい。

まず、ムスコの『オトモダチが怖い』を分析してみた。
人見知りなく、年齢関係なくグイグイ話しかけるムスコ。
話が一方的なのと、内容が「アナグマについて」(この時のブーム)だから
だれとも会話成り立ってないだろなぁ…(おもしろいけど)
コミュニケーションは苦手だと思う。
年長さんから、心無いこと言われてる可能性も…
大人が間に入ってコミュニケーションの取り方を教える必要があるのかも。
少人数の学びの場で、大人がしっかりフォローできればいいのに。

あと失った自信を取り戻してあげたい。
色んな人に臆せず話しかけるのが、ムスコの良いところだと思う。
老人ホームを慰問して、めちゃめちゃ可愛がってもらおうか?
幼稚園行けないなら、紙芝居屋さんで営業回ろうか?
もう家族でバンドでも組むか!?

休園、退園、自主保育…色んな可能性を検討した。
幼稚園は入ってみないと分からない。失敗することもある。
なら、そこから違う方向を探すしかないな。

依頼していた園と我々夫婦との話し合いはクリスマスの日になった。
担任と、なぜか副園長。園長逃げたか?
まず担任に、今まで登園拒否の子はいましたか?とたずねた。
経験がないという…教師生活おそらく20年はありそうやけど、ないのかい!
このままムスコが行けない場合、園で何かしてもらえることはあるか?
「…家までお迎えにいくとか?」家近いけど、来れるんかいな。
逆に担任から「お母さん、明るめに『園楽しいから行こう♡』とは言えませんかね?」と言われ
「言えません。親も楽しいと思ってないのに、ムスコに楽しいなんて言えません!」キッパリ言った。ずいぶん、母は図太くなった。

原因はハッキリしないけど、園が怖いという思いがある。
それを見つける作業よりも、それを取り除く作業よりも
それを上回る楽しいことがあれば、ムスコの心が動くと私達は考え
ある1つの実験を提案してみた。

『クラスの様子をビデオで録画し、それを見せてやりたい』

定点観測でカメラを置いとくだけなら先生の負担も少ないはず。
クラスの子がカメラに覗き込んでくれるハプニングもあっていい。
楽しいを言葉じゃなくて映像で伝える。
目からの情報が一番効果的だという、凸凹ちゃんの特性を活かしたい。
これで園がプライバシー云々と言えば、もう退園でいいと思っていた。
即答はせず検討してもらえることとなり、話し合いの場は終了となった。

夕方四時から始まった話し合いも、帰る頃にはすっかり暗かった。
気づけば2時間近く話していた。
この時、夫と「ここで落とし所としよう」と話していた。
これ以上言っても仕方ないし、できることやってみるだけ。
誰かを憎んだり、悲しんだり、疲れた。自分達も解放しなければ。


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