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コミュニティのまもりかた〜犯罪とハラスメントのお話〜

今年、とあるコミュニティイベントで起きた犯罪事件とそのときの対策について書きたいと思います。
なお本件に関し、当該事件については細かくは触れません。事件を知っている方も・知らない方も、これがどんな事件で、誰が被害者か、誰が加害者となったかを詮索するのはやめてください。
本投稿はDevRel Advent Calendar 2019に寄稿しています。

とあるイベントの運営をするなかで、開催前〜開催後にかけて本事件がありました。こちらはすでに警察に相談し、当事者・警察・検察により刑事事件として対応されています。本記事では事件経過においてコミュニティ運営サイドとして協力できたこと、できなかったことを決して忘れないために、読んだ人がこの事実を受け止めてもらうために。そのひとつのプラクティスに特化して記述したいと思います。

イベント入場において

イベント受付担当者が今回加害者となった方の顔を覚えていました。そこから名前と、メールアドレスなどを警察へ提供できました。
これは本来は電子受付・電子決済だったものが、加害者自身の希望により当日直接現金決済となってしまったものです。クレジットカードを使用していればよりパーソナルな情報提供ができたかもしれません。
しかし、この特別対応のおかげで後述の本人写真の提供につながったこともあります。ただ不便さはあるかもしれないですが電子決済や、会社情報などを収集したほうがより安全だったかもしれません。今回は最低限の連絡先は回収しており、そこに偽名や虚偽はなかったです。
もし、ここに最初から悪意があり、虚偽の名前と虚偽のメールアドレスであれば、という焦燥感はありましたが、逆に他の多数の参加者同様に電子受付であれば、どのアカウントかという特定ができたかどうかはわからないので、絶対によいという方法はわかりません。
ある程度大きな会社を会場をするときに、所属会社や名刺の提出があるように、身元のわかるもの、本名を提供いただくことはとても重要だと思います。

写真撮影において

前述の通り、受付担当者が顔を覚えていたため、イベント当日の撮影写真から証拠写真を警察に引き渡すことができました。デジタル写真のプリントと、データを提供しています。

問い合わせ先において

受け取った加害者からのメールはGoogleFormsでした。メールアドレス記載項目はあったものの、それが加害者本人のものであるという証明はできませんでした。なるべく問い合わせ先はGoogleFormsではなく、メールアドレスが良いと思います。

犯罪を受けて変わったこと

運営サイドとしても言葉では言い表せないほどの、たいへんな、辛く・怖い思いをしました。法の上では判断されましたが、それだけで被害者や私たち運営チームの心労は収まりきれないです。やるせない悔しさと、絶対に犯罪を許せない気持ちだけがいまも残っています。

現在は一部緩和されていますが、その日から被害者本人向けに警察にすすめられた、加害者から被害者を守るための行動指針です。

・いつでも走って逃げられるような服装をすること
・一人で外出しないこと
・SNSで行動範囲や、人間関係が分かる投稿をしないこと
・勉強会参加の自粛、参加する場合は身分確認と荷物チェック、警備の徹底
・相手が探偵でなくても住所はばれるものと考え、一人でなるべく帰らないこと

自立した大人の人間がこれらすべてを日々緊張して守り続けるのは、大変なストレスだったと思います。精神的苦痛から、眠れない夜が続いたとも聞きました。

そして”身近で=技術系コミュニティで犯罪なんておきない”というのは自分の正常性バイアスだと思い知らされました。

忘れもしない、福岡IT講師殺害事件がおきたのも2018年と最近のことです。

海外のカンファレンスでは荷物や身分チェックが当たり前に行われているそうです。あらゆる規模でそういったことが必ず行われなくてはならなくなったら、個人的にはすこし悲しいですが、不特定多数を受け入れるからには、できる自衛をするべきだと考えます。

本記事を投稿したきっかけ

今回これを書いたきっかけは、コミュニティイベントにおけるアンチハラスメントポリシーの是非をTwitterで議論されているのを見たことがきっかけでした。アンチハラスメントポリシーがもたらす効果についてはリンク先の記事がとてもすばらしかったので、こちらをどうぞ。

アンチハラスメントポリシー議論のなかで”アンチハラスメントポリシーは不要だ、何かあったら主催が守ります”という発言をいくつか見かけました。

”なにか”の規模にもよるとは思いますが、多くのハラスメントの場面において、主観ではなく客観的な意見が必要とされます。

今回の犯罪事件については主催だけでなく、スタッフからの類まれな記憶力や、被害者本人の勇気ある行動があって犯人特定までのスムーズな情報提供をすすめることができました。
多くのイベント会場となる場所、会議室などに監視カメラはありません。このような事を立証するには、主催一人ではなく、被害者だけでもなく、より多くの人の協力を必要とします。先の記事から引用します。

アンチハラスメントポリシーは、掲げることでハラスメントを排除できる、便利な御札ではありません。 このポリシーは、ハラスメントをなくそう、少なくとも減らしたい・見逃さない、という主催者側の意志を伝え、ハラスメントを受けるかもしれないなら参加したくない、という方にも参加してもらい、一緒にハラスメントをなくしていくためのツールの一つです。

アンチハラスメントポリシーは、この一文にあるように主催だけでなくスタッフや、参加者が意識すること、またその権限をもつことは自浄作用にも、有事のときにも役に立つと強く感じました。

"ちょっとしたハラスメント" が行き過ぎた先に、犯罪が起きることもあります。

犯罪は当然のことながら、ハラスメントも絶対に許さないという確固たる意思を事前に表明することで、多数の目をもって取り組んでいくことができる可能性があると私は思っています。

守るべきものはなにか?

この犯罪事件とCoCを考えるときに、そもそも人の本性とは?というものを考えます。

そもそも技術コミュニティに来る人は性善説に基づいた、道徳観のあるひとたちがほとんどであることは間違いないと思います。わざわざセクハラするために技術コミュニティを、参加するイベントを選ぶ人はいないでしょう。

ですが、”ここに来ればこの人に会える”というのが可視化された状態にあるなかで、参加するすべてのひとたちに悪意があるかないか、主催に判断できるでしょうか。そこに数百・数千の人が会する場所でも?

何かの拍子にそのアイコンが憎しみの顔ににかわることがないと断言できるでしょうか。好意や悪意、欲望や無意識、本人の意識があろうとなかろうと、結果的にその行動が誰かを脅かしたり、ハラスメントになることは誰でも(もちろん私でも)ありえます。

コミュニティとしてCoCなどを掲げることで、コミュニティ全体の総意として努力し、正しい姿を目指す、という意思表明は、少なからず有効だと思っています。
CoCはもしかしたら、人によっては当たり前過ぎてばかにしているように感じるのかもしれません、そのくらいコストが低い行動規範だと思います。その最低限の行動規範の必要性を、真剣に考えるべきだとわたしは考えます。

考えたくもないですが、もし犯罪が起きてしまったらどうするべきかということまで考えて運営していく心配性が必要ではないでしょうか。今一度、コミュニティ運営者に問いかけたいです。

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