相棒22 第9話「男の花道」感想

やっぱり短編の輿水脚本は面白い！
輿水さんの通常回はS19「死神はまだか」から考えると約3年ぶり。
相変わらず事件の設定が軽妙洒脱というか良い意味でひねくれてるなぁと感じる。

【あらすじ】

暴力団幹部を一般人が殺害!?
報復の危機に特命係立ち向かう

弓生という青年実業家が、闇金トラブルでヤクザと揉め、組の№２を絞め殺す事件が発生。
問題の組は、武闘派として知られる広域指定暴力団『扶桑武蔵桜』。
その組長である桑田圓丈は、正義に目覚める前の内村と昵懇の仲にあり、特命係とも浅からぬ因縁を持つ人物。
警察は弓生への報復を警戒し、実際、組の若い衆は暴発寸前だったが、トップである桑田はなぜか静観を決め込んでいた。
そんな中、検察は弓生の正当防衛を認め、無罪放免を申し渡す。
結果、弓生は警察の保護下から離れることに。
それを知った内村は、右京と薫に、弓生の身辺警護を指示。
ボディーガードとして弓生に張り付くことになった右京と薫だったが、その矢先、桑田の子分から思い掛けない提案がもたらされる。

警察、検察、暴力団…絡み合う思惑
危険な護衛を押しつけられた特命係が
予想もしなかった事態に直面する！

脚本：輿水泰弘
監督：橋本一

【ゲスト】

桑田圓丈(演：大石吾朗)

弓生崇智(演：赤ペン瀧川)

『相棒』番宣生配信MCでお馴染みの瀧川さんが2度目の出演。
ある意味『相棒』に最も貢献してる俳優さん。
前回の出演は偽ダークナイト種村という個人的絶許案件だったので、今回2度目の逮捕。
ただ森本レオさんや袴田さん、当然今回の瀧川さんなど重要回のゲストが別役再登場はあまり望む所ではない。
ここは申し訳ないけど『相棒』オタクのジレンマなんだよなぁ…。

【感想】

《極道の終焉》

今回の事件はいわゆる"お礼参り"。
若頭(組のNo.2)を殺された暴力団員が、殺した一般人へ復讐を働こうとするもの。
それを察知している警察と裏をかこうとするヤクザとの攻防や、そもそも殺した一般人も一般人で不審な点あるという面白の層が二段構えになっていて満足度が高い。

そもそもヤクザの成り立ちは戦後の混乱で闇市など警察の手が回らない場所での自警団から始まり、バブル時は地上げで儲けたり、そしていつしか金を稼ぐ為なら違法行為も辞さない危険な組織となっていった。

ただ海外マフィアの日本進出を防いでいたという実績もあり、今日まで日本の治安が安定しているのも彼等が防波堤になってくれたからという必要悪であった側面も確かにある。(もちろん善意ではなくシノギを奪われない為だが)

また創作モノのヤクザはVシネを始め不器用だが熱く仁義を通す漢(おとこ)として描写される事が多い。
今回の桑田組長率いる扶桑武蔵桜も例に漏れず、そういった善玉に近い極道として描写されていたと思う。

S19「超新生」では貧乏人からは奪わず金持ち相手にしか商売をしなかったり、抗争に巻き込まれた部長や特命係に気遣ったり、今回も遺体を返却した部長へ感謝を伝えたり、組員が妻子に迷惑をかけないよう実家に帰らせたり、失礼なマスコミ(美和子)に対しても普通に接していたり…などなど人間として最低限の仁義は通していたと思う。

ただ裏を返せば金持ち相手なら詐欺をしても良い、敵討ちならカタギを殺しても良い…みたいな歪さが確かにある。

そういった中で今回のテーマは"令和においてのヤクザ"。
歪で気持ち悪いが任侠魂や仁義を持ったヤクザは現代社会をどのように生きていくのかって話。
S18「ブラックアウト」でも暴対法が強化されて殆どの人権を失ったヤクザが暴走したり、今期の「冷血」でも1人組長が和菓子を売ってシノギを稼いでいたりともはや貧乏なイメージすらある。
この流れが止まる事は無いと思うので、今後ヤクザは緩やかだが確実に衰退していく事は想像に難く無い。

更に今回鬼丸は被害者ではあるが、一般人である弓生に攻撃され死んだ。
本当に怖かったら弓生は攻撃なんて考えすら持てないし、葬式にも行けないはず。
なのでそもそも弓生だけでなく鬼丸含めてヤクザに対して畏怖の感情が一般人から圧倒的に減ってしまった。
最近は高齢化問題で事件を起こせず、事件を起こしたとしても出禁のキャバクラに嫌がらせをしたとかクソダサい案件しかない。
そうなると鬼丸の顛末は暴対法で弱体化したヤクザの成れの果てを暗示しているのかもしれない。

だが崖っぷちのヤクザにも彼等なりの意地がある。

ヤクザを続けられなくても組を解散させてでも仇を討つ。
この潔さは素直に評価しても良いと思う。
極道にとって組員は家族同然で、そんな中で長男とも呼ぶべき若頭が殺されたら復讐したくなる気持ちも分からないでもない。
車も買えず家も借りれず銀行にも行けずカードも借りれず、奪われるだけの俺達からアニキまで奪うとは許せないって感情もあるかもしれない。

ただ当然理解は出来るが擁護は出来ない。
身内として哀しむのは良いし、正当防衛という判決に納得出来ないのも良い。
でも今回は搾取していた一般人に反撃されて死んだんだろ？
そもそものスタートはヤクザ側にあるんだから弓生を恨んで仇討ちに走るのは筋が通らない。

だからこそ桑田組長は途中までは虎鉄や虎太郎に「早まるな」と言い続けたんだと思うし、いざ仇討ちを決めると筋が通らない事も理解して解散を決めたんだと思う。

ただ覚悟を決めても仇は討てなかった…。
全てを失った桑田元組長が留置場に進む姿(サムネ参照)には哀愁すらある。
歪であれど筋を通そうとしたヤクザの最後の花道にしては余りにも味気ない。
そしてこの味気ない後ろ姿こそが"令和のヤクザ"を象徴してるように思える。

桑田のせめてもの救いは弓生が殺人罪で裁かれる可能性があるって事くらい。
まぁそれも階検事が立件してくれる怪しいもんだけどね。

因みに右京さんが弓生の殺意を証明する推理ロジックは今期で1番面白かったまである。
ナイフが落ちてる所から弓生が刺殺に動こうとしたのを見破ったり、ナイフ指紋を鬼丸につけて殺害を隠そうとしたりっていうのは尺は短いながらも納得感しかない。
そんな弓生でも殺した事に罪悪感はあり、心臓マッサージをしたり葬式に行ったり社員に迷惑がかからないようにしたりと良い意味で等身大の普通の人間って感じがして好感も持てる。
そのうえで殺人で逮捕しようとしてる輿水脚本の杉下右京は最高だね！

こんな感じで全体的に面白かったんだが、合わせて不満点もあって
桑田組長を含め組員と鬼丸の描写が無さすぎる！
鬼丸を殺された怨恨を桑田組長が汲み取るって構成なら鬼丸が子分を可愛がってる場面は必須。
欲を言えば桑田組長は鬼丸の両親も知ってるっぽかったので二人の絆エピソードも欲しかった。
脳内補完もするけど、それに頼らないでくれ！

《今回のMVP》

新トリオ•THE•捜一

満場一致でこのトリオ！
右京さんが事前待機させていたとはいえ、見事に桑田の腕を撃ち抜いて弓生の命を救った。(撃った角度考えると神業よ
芹沢と出雲は過去に撃たれた事があるので、撃つ側に回ったとしても拳銃に対して恐怖心はあると思う。

伊丹が今回やけに「拳銃持てて嬉しい！」みたいなキャラブレ感のある雰囲気を出していたので、もしかしたら後輩２人を鼓舞する気持ちがあったのかもしれない。
そのおかげかどうかは分からないが、全員見事に発砲。
警察側がバンバン撃ちまくるアクション刑事ドラマは若干苦手だけど、『相棒』は滅多な事じゃ撃ったりしないので逆に貴重な気持ちにもなる。

ただ地味に引っかかるのは右京さんは人を高確率で殺してしまう拳銃を嫌っているので、今回暴力団絡みで危険とはいえ捜査一課に頼むかなって事。
まぁ今回狙われていたのが自分ではなく弓生だから拳銃を容認したって事なのかね。
S21「１３」でも捜査一課大活躍だったし、輿水さん今捜査一課にハマってる感じかな？

次点は内村部長。
デュープロセスを大事にして、ヤクザであろうとも適切な対応を行い、また命を狙われる一般人に捜査一課だけじゃなく特命係も警護に付けるという手厚さっぷり。
まぁ結局死んじゃうんだけどね…。
本当に惜しい人を亡くした…。
合掌。
そしてお帰り、内村部長。

逆に戦犯は照生。
内村(正義)を殺した罪は重い…。
3年ぶりに内村(悪)が復活しちゃったのは長い目で見ても大ダメージ。
部長が正義だからこそ面白い会話劇や展開もあったので、もっとその展開を見たかったな…。

あと余談だけど今回角田課長のブラック感に驚いた。
ヤクザに対して厳しい態度を取るのはいつも通りなんだけど、若い浅戸部長に対して結構塩対応。
「長年現場にいる俺の方が東京ヤクザの事詳しいけどね」っていうマウントを感じる。
個人的には年齢差関係なく、上と下は協力して欲しい所なので今後再登場あれば仲良くしてもらいたい。
まぁ課長がカッコいいからOKなんですけどね！

【小ネタ&雑感】

•鬼丸を"もみあげ"ってＸでイジってた
•何度か登場してるもみあげが死んだ…
•ちょこっと冠城登場
•取調室からの撮影に橋本監督味を感じる
•虎太郎って「超新生」でボコられてた人だよね
•課長は三下じゃねぇぞ
•盃＜養子縁組
•右京さんと組長は面識なくね
•挑発して先に手を出させてから逮捕って警察もエゲツないよな
•暴力団員が軽自動車に乗る時代
•犬ギザカワユス
•階さん久々の登場！(「復活」以来？
•階はヤクザに恨みでもあるの？
•手渡し金平糖って元ネタあるのかね
•ヤクザからは礼ですら断る部長カッコ良い
•マスコミに追われるより刑務所の方がマシ説
•「分かりやすくて好っきゃで薫ちゃん」の夫婦の絆感最高
•天誅ハチマキ何だよww
•元ヤクザの住職とかいそう
•香典も暴力団資金になるからNGなんだ
•このお寺めっちゃ豪華だけど撮影場所知りたい
•虎鉄は両親の家を相続したのかな？(両親と縁切りしてないのか
•拳銃は"距離×正確さ＝威力"(るろ剣好き
•ヤクザには時効が無いから永遠に追われる
•美和子さんキモが座り過ぎてるけど亀山って名乗るのはリスクよ
•イヤホンしてる右京さんにデカい声で話しかける亀山君に介護味を感じる
•小手鞠さんは裏社会に近い場所にいたからヤクザ理解も深いな
•『相棒』屈指の適当な部長2度目の死
•S9「暴発」の時は刑事部と組対は良い関係だったのにな
•股間に拳銃隠してた石嶺小五郎という奴がいてな
•亀山君、仮にも葬式だし喪服は無理でもスーツは着よう
•組長死んでないのに枕元に立つなw
•看板も"古轍"に戻ってる！

【次回】