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相棒2 第6話「殺してくれとアイツは言った」感想

砂本3部作のラストを締め括るに相応しい神回。

ネタバレは自重しないけど、自分は記憶を消してもう1回観たいレベルなので本当に全人類観てほしい…!

【あらすじ】

作家・菅原がラジオで
「一度命を狙われてみたい」と発言。
菅原の家に切断された人間の指が入った脅迫状が届く。
右京亀山は、菅原の旧友でもある小野田に頼まれ菅原を護衛。
だが、平気で出歩く奔放な菅原に手を焼いていた。
そんな折、菅原の家に小包を装った爆弾が届き、菅原の妻・珠江が命を落としてしまう。

脚本:砂本量
監督:大井利夫

【ゲスト】

菅原英人(演:大杉漣さん)

最高のバイプレーヤー。
S15からは衣笠副総監としてレギュラーにもなって頂いたのも記憶に新しい。
鬼籍に入られたのが本当に悲しい…。

【感想】

《自由》

面白さのほぼ全てが菅原英人という人物の深さという神作!!!
考えても考えても全ての行動に意味があるようにも見えるし意味が無いようにも見えるっていう描写の数々に、それを成立させる大杉さんの芝居が超最高過ぎる。
今回は特命係なんておまけというか端役も良いところ。

今回登場した菅原英人は自由奔放傍若無人な犯罪小説家で、小野田官房長の学生時代からの親友でもある。

物語としては英人が妻である珠江さんを薬物中毒者を利用して爆殺するという単純なもの。
だが英人は"自由を得る為"に殺したと言ってはいるが、何故殺さなければいけなかったのか、何を考えて犯行に至ったのかが永遠に腑に落ちないのが面白い。

英人はマネージャーのようになり自分を束縛するようになった珠江さんを邪魔に思ったから殺したと語っている。
でもその一方で珠江さんの死で酒に溺れ
「珠江は俺の全てだったんだよ!!」と叫び
特命係に追い詰められた際に
「珠江の事は今でも愛している」とも語っている
実際に殺害当日も珠江さんにキスをしようとしたり不味いと言いながらも特製ジュースを注文したりと"愛"も垣間見える。
そうなると協力者の高林を殺したのも珠江さんの敵討ちとも考えられる。

自分で殺しておいて何を言ってるんだとも思うが、失った物を思い凹んだりショックを受けるのは人間としておかしい訳ではない。
英人が豪快なので繊細さが良い意味で隠れているだけ…。

まぁいくら愛していたと言っても、下積み時代から支え続けていた珠江さんからしたらこの仕打ちは裏切り以外の何物でも無いんだけどね。

小野田「お前、俺に何か言う事ないか?」
英人「…ありがとう」

相棒2「殺してくれとアイツは言った」より

英人の魅力を語るには小野田官房長とのシーンは外せない。
学生時代からの悪友で、珠江さんを巡って喧嘩をしたかもしれないが互いに違うタイプだからこそ良い関係を構築できていたのは想像に難く無い。
まぁ小野田の友人は他だと本多篤人くらいなので大概ロクでもない。

普段の小野田は飄々として掴みどころの無い狸親父なんだが、今回は人間味が強く出ている。
英人や特命係と楽しく酒を飲んだり、珠江さんが死んで夜風に当たりながら徒歩帰宅をしたり、英人が珠江さんを殺した事に勘付きながらそれを遠回しに告白して欲しいと願っていたり…隠そうとしても隠しきれない感情が溢れてしまっている

英人も小野田に疑われている事を分かっていてもそれを告げず、でも感謝を伝える憎みきれない真っ直ぐさ。
こんな自分と付き合ってくれてありがとう、珠江の事を糾弾しない優しさへのありがとう…色々な感謝が詰まっている。
それを聞いて疑いを捨てて友人としてタバコを貰う小野田のカッコ良さよ…。
警察官としてはここで引かずに英人と対峙すべきかもしれないが、人情に流されてしまっている。
結局2人とも友情に縋り本音でぶつからず文字通り煙に巻いてしまった。
でも糾弾しない優しさや騙してあげる優しさも一つの熱い友情なのかもしれない。

また英人は特命係に対しても
「本当に感謝している」と話している。

これは自分みたいな奴を守ろうと策を講じたり真摯に向き合ったりしてくれた事を言ってるのかもしれないが、正直結局何の感謝なのかが分からない
まぁ型にハマらず自由に生きる英人の思考を読もうというのがそもそも無理難題なのかもしれないんだけどね。

《明日は淵瀬》

右京「いつか必ず僕はアナタを落とします」
英人「楽しみに待ってますよ。それじゃ」

倉貫「先生…」

英人「どうしてだ…!!」

倉貫「だって…"殺してくれ"って言ってたから」

英人「こんな退屈な国で生き続けるくらいなら死んだ方がマシか…」

残り75秒の衝撃

初見時『相棒』で初めて鳥肌が立った。
刺された瞬間に流れる"終わりの始まり"演出も神がかってる。

物語開始時に英人が言った
「誰か俺を殺して欲しい」
最後にこの言葉が自分を殺すという皮肉な結末。
また7年後に小野田も英人と同じような形で殺されるのも因果も感じる。
まさに"明日は淵瀬"よ。

何より英人が最後に"死"を受け入れているのも印象的。
寝言で死にたがっていた話もあったので、最初から自由に生きたい気持ちよりも死にたい気持ちの方が強かったのかもしれない。

英人は40歳まで苦労して売れたけど、結局売れるまでが楽しく、いざ売れた後は次の目標が見つからない燃え尽き症候群になって退屈になったんだろうね。
それを支えてた珠江さんが退屈の象徴だと認識して殺害したって流れ。

纏めると、小説家として成功するも珠江さんの求める型通りな生き方となる。
そうなると退屈で死んだも同じ人生で不満が溜まり、そこから脱却し自由を手に入れる為に珠江さんを殺害。
だが殺害後に自分の生き甲斐は珠江さんだった事に気が付いて、今度こそ生きる目的を完全に失ってしまった。
でも逮捕され刑務所へ入る不自由だけは絶対に受け入れられないので、印税賞金化など自身への疑惑を避ける計画は続行。
万が一にも逮捕されない為かつ少しでも刺激があり退屈を減らせそうなスペインへ行く事を決める。
しかし倉貫に刺され、スペインも含めて全てが退屈だと悟り死を受け入れた。

こんな伝説的な退場をしたインパクトもだが、菅原英人は『相棒』シリーズでも数少ない特命係を完全敗北に追いやった犯人だと思う。

結局特命係は
•警護してたのに珠江さんは守れず
•姿を現した高林には逃げられた挙句殺される
•英人が犯人の証拠を出せない
•英人も目の前で殺される
うーん、これは窓際部署。

諸々英人に振り回されて後手後手になった挙句、最終的には殺されて勝ち逃げされてリベンジの機会すらない。
時間さえあれば英人の携帯を押収して高林とのメールのやり取りが確認できれば証拠として立件できるかもしれないが、令状が無い現状では渡西を止める事は出来ない。

S21「13」もだが、特命係は捜査権のある正式な業務をするとポンコツになりがち

《今回のMVP》

菅原英人

既に語り尽くしてる感はあるけど、英人しか思い付かない。
自由気ままなのにサイン会で来たキャバ嬢達よりも先に並んでた倉貫に対応したりとファンに対しては真摯に向き合ってるのは好感が持てる。
あと表現や言い回しが一々カッコいい。
「潜時有意(若い頃の苦労には意味がある)」
「人生は出来の悪い小説が如し」
「男なら煙草の匂いに慣れろ」
「明日は淵瀬」

犯人なのにこんな男になりたいと思わされる。
個人的に『相棒』歴代犯人でも1位2位を争うレベルで好きです。(良い勝負をするのは南井

次点は小野田官房長。
元想い人が死んだ悲しみや、親友が犯人である苦しみをタバコで紛らわすという人情が溢れまくっていた。

米沢さんもサイン本のおかげで英人が犯人だと突き止められた功績があるけど、捜査現場でサインをねだるのは仕事人としてNG。
サイン会に参加しましょう。

【小ネタ&雑感】

小野田「暇か?」
角田「暇じゃねぇよ」

•大小コンビが喋る貴重回
•薬物中毒者の描写が現代だとNG
•「ラリったニワトリ」というパワーワード
•切断された小指がリアルで気持ち悪い
•英人の本を亀山は100%読んでない
•米沢さんが小説好きなのはS12「右京さんの友達」でも活かされてるよね
•キャバクラに行く官房長に笑う
•お触り拒否られる官房長w
•タバコの匂いは慣れない(非喫煙者
•小野田は英人に学生時代から苦労をかけられっぱなし
•母性本能をくすぐる男ってなんだよ!!
•朝食立派過ぎて最高(食べたい
•トイレで芹沢を脅すなw
•モーニング娘を歌う英人に時代を感じる
•なんやかんや菅原と意気投合してる亀山好き
•米沢さんを友人呼びする右京さん好き
•悪人は"惡"と"女"で蹴躓く
•倉貫役の中村俊太さんは中村雅俊さんの息子

【次回】

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