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相棒 第5話「目撃者」感想

10歳の殺人犯

俺のnote読んでくれてる方は既に視聴済だと思うしそもそも20年前の作品なのでネタバレとかも気にしないっていうのもあるけど、そもそもこの話の感想を書くに当たってはここを避ける事はできない。

今をトキメク人気俳優染谷将太さんがゲストというお宝回っていうのもあるが、それ以上ににエゲツない大問題作。


【あらすじ】

小学校教師・平良がボウガンで胸を刺され殺された。
偶然、第一発見者となった小野田からこっそり通報を受けた右京は捜査を開始。目撃者の生徒・から話を聞く。
図書室でひとり難しい本を読む守によると、本屋へ行く途中、ボウガンを手にした鉄工所の“ろくでなし”と平良が会っているところを目撃したという。
“ろくでなし”とは「いい年して親のすねをかじっている馬鹿息子」の佐々木。これまでにも下校途中の生徒たちをボウガンで脅かし喜んでいたらしい。

【感想】

《異邦人》

作中で手塚守が読んでいた『異邦人』
ぶっちゃけ私も薫ちゃん状態でちんぷんかんぷんでしたのでネットでどんな内容かを調べました。

①青年ムルソーは暑い日に母親が死ぬも葬式で涙すら流さず手続きを終え、翌日に海へ行き偶然出会った同僚(女性)とHをする
②ムルソーは友人と友人彼女と浮気相手とその仲間達との諍いに巻き込まれてしまう
③太陽が照りつける暑い日、水を求めてムルソーが泉へ行くと昨日諍いをした連中の1人がおり、剣を持ち構えてくる
④ムルソーは汗がまぶたに流れ、太陽と刃で反射した光のちらつき以外見えなくなった
ムルソーは持っていた拳銃で相手を殺害
⑥検察は母葬式の態度からムルソーは異常で殺害も計画的と主張し、判事も死刑判決を下す
⑦ムルソーは動機を聞かれるも「太陽が眩しかったから」としか答えなかった

諸々割愛してるので詳しくは本を読んでほしい。
ただ手塚君の言う通り、確かにムルソーは正直で自分の心に嘘をつけずそれが行動と言動に出てしまう人物なんだと思う。
やってはいけない事を衝動的にやってしまうっていうのは犯罪者に限らず人間の衝動としてあると思うし、そこを膨らませた人物なのかと思う。

そういった人物だからこそ、暑くて状況判断が鈍って突発的に殺してしまった事も嘘なく「太陽のせい」だと言い張れるのだと思う。
そしてこの感性は少なくとも1940年代当時は理解されない事から文化社会が違う『異邦人』と喩えられたんだと思う。

では今回の手塚守は『異邦人』であったのかと考えると疑問が残る。
親もおらず親戚からも冷遇されていた自分に唯一優しくしてくれた京子先生を襲った平良に対しての義憤、常に自分達子供を脅かして楽しんでいた"ろくでなし"…この2つを消す事ができれば京子先生だけでなく世の中はもう少し良くなるっていう衝動的でもない善意からくる計画殺人でもあった。

じゃあ全く『異邦人』で無いかというとそうでもない。
「クズ(平良)を殺すのはクズ(ろくでなし)の方が良い」
と言ってるが、自分ですらそんな彼等と同類のクズとして見ている節がある。
家でも迫害され学校でも同級生から避けられてもいる描写も少ないながらあるのでそんな自己評価を出してしまうんだと思った。
ムルソーのような理解が難しい正直者とは全く違う方向性で彼もまた学校というコミュニティでは『異邦人』だったのかもしれない。

《杉下右京の敗北》 

[杉下右京]
僕だってもう止めたい!!
したり顔で推理を披露するなんてマネは、したくてしている訳ではありません…
しかし…僕は真実を追求しない訳にはいかない

S1-5「目撃者」より

杉下右京は人間として真実を追求する事からは逃れられない。
しかし同時に
「真実であれば人はそれを受け入れて前へ進む事ができる」
という強い信念に基づいた覚悟を持ってそれを実行している。

しかし今回の犯人は頭が良いとはいえ10歳の少年。
児童相談所から家庭裁判所で審判を受ける事は理解していても、それは殺人を犯したリスクであり罪と罰とは考えていない。
命と向き合っていない。

小説版で杉下右京の心境が描かれており
「自分は犯人を逮捕する事はできたが、彼の心は救えなかった」
と完全敗北を断言している。

こっから20年様々な事件に相対してきたが、今回はぶっちぎりのイレギュラー案件なので仕方ないとは思うけどね…

でも敗北した右京さんより何より1番可哀想なのは京子先生。
同僚の先生からは性的暴行をされかけるわ
変わってるけど可愛がってる生徒が自分の為に殺人を犯すわ
その生徒の将来を今後ずっと考える事になるわ
職を失って実家に帰る事になるわ
この人が何の罪を犯したのでしょうか?

それを踏まえて終盤のシーンを観ると右京さんが京子先生は教育者かつ手塚が慕ってる事を理由に全部丸投げしてるようにも見える。

《今回のMVP》

亀山薫
《平成の切り裂きジャック》浅倉禄郎

この親友コンビしかないね。

杉下右京が真相を明らかにしてもなお救えず溢れてしまった部分を『相棒』の亀山が拾い上げるっていう理想の動きをかましてくれます。

殺人犯だと判明し右京も視聴者も"子供"とは見れなくなってしまっている中で、スグに手塚に駆け寄る京子先生と、抱っこして浅倉の元へ連れて行く亀山君の2人だけは彼をまだ子供として接するのが本当に良いです。

浅倉は
「元は母を愛していた少年が思春期のストレスで母殺しを計画したら偶然完全犯罪になってしまい、以後はその罪悪感で母と同じ境遇の女性を殺さなくてはならなくなった。なので心の奥底では誰かに終わらせて欲しいと思っている。」
という業と十字架を背負った人物だと思っており、ムーブはともかく内心は決してサイコパスではない。(と、私は思っている

そんな彼が手塚を徹底的に脅して自分と同じ道に来ないようにっていう究極の反面教師として最初で最後の指導をしたっていうのが熱い。
しかも事前説明なく亀山の少しの話と真剣さで事を理解して立ち回ってくれる有能さ。
この有能さの1%でも自分の事件で活かされていれば…

最後に『異邦人』から"子供"に戻り涙を流した手塚。
今はまだ自分がやった殺人がどのようなものなのかを理解したに過ぎないが、ここから更生して罪に向き合っていくかをいつか描いて欲しい。
亀山も戻るseason21以降で更生した手塚が再登場する事を切に願います。

【小ネタ&雑感】

•孫を可愛がる官房長良き良き
•ヤですねぇとトクメイの言葉遊びに輿水節を感じる
•知人とは知ってる人by右京
•ボウガンで撃たれる役の亀山
•出世せず緻密さに欠ける刑事伊丹
•"ろくでなし"は後の仮面ライダー轟鬼
•自称一通りの海外文学を読破している亀山君
•"ろくでなし"を公務執行妨害での別件逮捕を勧める右京さん
•花の里にきた官房長
•官房長の孫は3年生と1年生と幼稚園(いつか出てくれ!
•4つの穴に気付いてる官房長かっけぇ
•令状なしの捜査を小学生に怒られる右京さん
•手塚君が唯一激昂する京子先生への濡れ衣
•人の足の甲を踏む事に定評のある美和子さん •もう少し京子先生と手塚の交流を描いてほしかった
•現実での日本での最年少殺人犯は2歳(殺意は無さそうだけど

【次回】


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