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相棒2 第8話「命の値段」感想

泣いた。

櫻井さんの社会派人情話脚本
橋本監督の初担当で繊細かつ大胆な演出
中原さんと麻丘さんの芝居を越えた芝居

これら全てが素晴らしすぎて見返す度に泣いてしまう。

【あらすじ】

神田グループ会長・神田が泥酔して人を殺したと警察に出頭してきた。
飲んでいた場所が気になった右京亀山を連れ場末の飲食店街へ。
目撃情報を得られず、疑心を深める。
神田の妻・礼子も、神田が飲む店は決まっていたと告白。
事故で息子・陽一郎を亡くしたのが原因かと心を痛めていた。
そんな中、被害者・久保田が保険会社の示談係で、陽一郎の事故担当者だったことが判明。
問い詰められた神田は、示談金に不服で久保田を殺したと自白する。

脚本:櫻井武晴
監督:橋本一

【ゲスト】

神田喜一(演:中原丈雄さん)

この時点で『相棒』2度目の別役出演。
もはや説明不要なレベルの演技力。
泣かされました。
次の別役再登場は9年後のS11「アリス」です。

辻真理子(演:麻丘めぐみ)

泣かされましたPart2。
情緒たっぷりでずっと寂しくて悲しい芝居をされている。
S20「紅茶のおいしい喫茶店」で別役再登場。

【感想】

《2億7000万円》

今回のシナリオは
異母兄弟が同じ事故で死亡。
社長令嬢の礼子を母にもつ陽一郎は3億、スナック経営の真理子を母に持つ篤志は3千万の保険金が提示される。
金額差に憤った真理子は保険屋を殺害。
息子達の父である喜一は過去に真理子を捨てた贖罪の為、真理子の代わりに出頭する。

今回は真理子と喜一の2人がメインで進む。
真理子は過去に囚われ憎しみに生き、更に篤志が死んだ事で更に落ちていく。
喜一は過去を切り捨て幸せに生きるも、陽一郎が死んだ事で捨てた筈の真理子に報いようとする。
どちらも人として理解できるからこそツラい。

何より物語が開始した時点で真理子も喜一も悲劇を避ける事が出来ないってのもツラい。

[辻真理子]
お金が欲しかったんじゃない…
ただ、自分の子供の命の値段を勝手につけられて…
それも神谷の子の10分の1だなんて…
同じ男の子供なのに…
どうして、死んでまで差をつけられなきゃいけないの…

相棒2「命の値段」より

24年前喜一に捨てられ、唯一の望みであった篤志の認知すらしてもらえなかった。
以降は憎しみを抱えながらもシングルマザーとして篤志を育てた。

そんな中で篤志を失い、更に喜一と礼子の息子である陽一郎と2億7000万円差を付けられる始末。
篤志が死後も馬鹿にされている事への怒り、自分と礼子の差を再度思い起こされる惨めさ…。
同じ男の子供なのにこれだけの差があると親子揃ってコケにされたと思っても仕方ない。
そもそも"神谷"呼びを続けているのも、礼子に対しての憎しみがあるからかもしれない。(小手鞠さんも女は女を恨むって言ってたしね

それなのに事情を知らない保険屋から
「死んだ子使ってそんなに金が欲しいかよ」
なんて言われたら衝動的にに殺害してもおかしくない。
そしてそこに憎い喜一が現れて力になりたいとか言い出したら、無理難題を突きつけたくもなる。

その要求を喜一は飲むんだが、結局真理子は24年の憎しみが勝ち、喜一を信じれず自供したのが逮捕理由というのが切ない。
喜一が約束を守り続けてる事を知った時に、ようやく彼女は報われたのかもしれない。
手遅れではあるけれど…。

自白場面での真理子がが篤志の写真を抱きしめながら悲しみに暮れる場面は麻丘さんの熱演と、トランペット主体のBGMが沁みて『相棒』でも特に切ない場面となっている。(誰かBGM曲名知ってたら教えて欲しい

右京は罰から逃れる為に24年の憎しみと篤志の死を利用したと話しているが、喜一にはそれだけの要求をしても仕方ないと個人的には思ってしまう。
というか息子が死んだから当然だけどずっと真理子さんが悲しそうで応援しちゃうんだよな…。

ラストに喜一と目が合うも何も話せなかったのは、罪を被せようとした事や彼を信じきる事ができなかった罪悪感だったのだろうか…。
少なくともこれまでの場面であった喜一への憎しみは消えているように見える。
息子を失った悲しみは消えないかもしれないが、せめて憎しみからは解放されて欲しい。

[神田喜一]
罰だと思いました
私が篤志君を認めず、だから陽一郎も亡くし…
きっと全て罰なんだと…
何故…何故このままにさせてくれなかったんです?
何故、このままに…

相棒2「命の値段」

戦犯でもあるが、それを払拭する程の覚悟と行動を見せてくれた。

24年前に真理子と礼子で二股をかけ、両名を妊娠させる種馬っぷりを発揮し、真理子を捨てるという甲斐性の無さ
しかも篤志の認知もしないっていうクソっぷり

そこから神田グループの社長として大金持ちになり幸せな家庭を築くも、息子の陽一郎は事故死。
ここで篤志を失った真理子の事に気付き、彼女を支えよう…もしくは悲しみを分かち合おうと遂に真人間として動く

真理子と篤志に報いる為に今度こそ逃げないと決め、これまで気付いたモノを全て失ってでも殺人犯の汚名を被る覚悟。
真理子が犯人で庇っている事を指摘されてもシラを切り通す優しさ。
『容疑者Xの献身』の石神も連想される。

でも結局真理子に信じてもらえず罪を被る事は出来なかった。
息子達が死に全て自分への罰だと罪悪感に押し潰されそうな中、真理子に報いるのが人生の目標になっていたのに、特命係の所為でそれすらも叶わなくなってしまった。
取調室で特命係に叫ぶ場面は喜一の怒りと悲しみが溢れ出てグッときてしまう。

[杉下右京]
貴方が自首しようと思った時、やっと彼の父親になったのではないかと
たとえそれが一瞬であっても…
もしかしたら父親になるというのに遅過ぎるという事は無いのかもしれません

相棒2「命の値段」より

いや、遅過ぎるでしょ。

喜一を励まそうという意思があるのは分かるが、篤志が生きてる間ならいざしらず、死後に父親らしい事をされても本人には何一つ伝わらない。
死後篤志に報いようと父親らしい行動をしたのは良いかもしれないが、結局は自己満足の域を出ない
こんな事を真理子さんに聞かれたら喜一も右京もまとめて殺されるレベル。

「あなたは篤志君の父親にはなれませんでした。しかしまだ真理子さんや礼子さん…そして陽一郎君や篤志君の為に動く事は出来ます。それが一番の贖罪なのではありませんか?」
これくらいの事を言って欲しかった。

24年前に逃げた罪と向き合い、それを心から償おうとする喜一の行動は評価せざるを得ない。
だから真理子と篤志を再び捨てたと自分を責めるのだけはやめて欲しいと切に願ってやまない。

そんな訳で喜一は悪人じゃ無いが、良くも悪くも大局的な考えは無く目の前の事に全力なんだろうな…。
そんな人だから目先の快楽を優先して2人の女性に中◯ししたんだろうね…。

そして今回も目の前で真理子が苦しんでたから全力で解決しようとして、息子が死に旦那は殺人で逮捕、冤罪判明で出所したと思ったら結婚前に浮気をした事が判明、今回浮気相手に報いる為に人生を棒に振ろうとしたって事が明かされた礼子さんの心労までは考えられなかった

まずはゴムを付けろ、そして官房長の爪の垢を煎じて飲め。

《今回のMVP》

亀山薫

陽一郎と篤志が似てるという事に気付き、更に真理子が保険屋を殺害した動機を無自覚で当てるという大活躍。
また花の里の雑談の中で右京の推測をほぼ全部当ててもいる。
そこにプラスして真理子に喜一が約束を守っている事を伝えたり、喜一に感情的に向き合ったりと人間的にカッコいい要素が多い。

逆に残念なのは右京さん。
真理子が殺した証拠を見つけるのではなく、騙し討ちで自供させる策しか持っておらず肝心の推理要素は全部亀山君に持っていかれる始末。

ただ、それ以上に言ってる事が支離滅裂で一貫性が無い。
真理子には喜一に罪を被せた事が篤志の死を利用していると説教し、喜一には罪を被った事で篤志の父親になれたと優しくフォローする。
ちょっと都合良過ぎる。

【小ネタ&雑感】

•再開発で無くなったけど人世横丁で飲んでみたかった…
•ニュースも観てない伊丹
•部長と参事官の間からひょっこり右京
•右京「2人で飲むと思いましたか?」→結局飲んどるやないかーい!(多分右京の奢り
•神田家デカすぎだろ
•24歳で会社を任されるって凄い
•取調室ガラス越しで伊丹と争うなw
•たまき「右京さんの事が分からない」
•水商売の女を昼間に訪ねるのは非常識
•光で両者の顔が見えないようにする演出良き
•課長勝手に特命係でテレビ観るなw
•大切な事に気付いたかと思えばその実殆ど気付いていない事に定評のある亀山
•人世横丁をマンションの上から撮るカットは橋本監督の拘りを感じる(多分今ならドローン
橋本監督のスロー演出!!

【次回】

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