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『DOGMAN』 第1話 里山のオオカミ

オオカミ男って知ってますよね?
そうです。満月を見ると人間になるオオカミです。
とある山奥で、オオカミ人間が、オオカミの群れで生活することに嫌気がさしてきた話です。

「俺、オオカミとしてやっていく自信ないな。」
オオカミ男の『リャン』は、満月の光の差す、眺望の良い高い崖のてっぺんで、そう呟いた。

「バカモン!」
リャンは次の瞬間、後頭部に衝撃を食らった。
後ろに立っていたのは、父の『ナーダ』だった。
ナーダもまた、オオカミ男である。

「何をたわけたことを言っておる。お前はオオカミたちを率いるオオカミ界のトップじゃぞ。お前がそんなんでどうする!?」
ナーダは、リャンの不甲斐なさに怒っていた。
しかし、リャンも黙っていなかった。

「うるせぇ!俺はオオカミが嫌いだ!オオカミ男なんて中途半端な奴も嫌いだ!俺ははっきり言って、人間になりたい!」
そう言って次の言葉を投げようとした時、それを妨げるようにナーダは言った。
「何をバカなことを言っている。お前は満月の夜にしか人間になれないのだぞ。しかも我が種族は満月の夜に人間になれたとしても、体は人間で、顔はオオカミのままだ。人間社会でやっていくには絶望の極みだ。」
ナーダがそうリャンに悟るように語りかけていると、リャンは反抗した。
「やってみないとわからないじゃないか!俺はとにかく、この里山を出る!」

そう言ってリャンは、啖呵を切るようにその場を去り、今夜にも人間界に出ることを決めた。

勢い任せに荷物をまとめ、スーツを身にまとったリャンは、山を下り、人間界の街へと向かっていった。

山を下ると、そこはネオンの光る人間界の街並み。
「・・・この柵を超えれば、俺は人間の一員ってわけだ。」

やはり、街に出るとこの夜中なので、人影は見えない。
しかし、山奥で生活していた頃とは比べものない街の明るさで、リャンは目が眩んでいた。
眩しい。頭がクラクラして、めまいがする。少し休みたい。

そう思って、レンガ調の建物の横に座り込んで、目を瞑って目を休めていると・・・

「ハァ〜イ!お兄さん、酔っ払ってるの?犬のお面かぶって寝てるなんて。」
赤いタイトワンピースを着た若い女性が話しかけてきた。
人間のメスだ。俺は今中途半端に人間だが、人間のメスも悪くない、と思った。
しかも、犬を連れている。我が種族の劣化版だ。良く言うペットってやつか。人間に飼われるなんて、落ちぶれたモンだな。
・・・しかし、こいつもまた色気があってなかなかいいな。この犬もメスだな。

「酔っ払ってなどいない。俺はお面などかぶっていない。」
「え?!なに?!そういうキャラ?なに?それどういう遊び?面白そうじゃん!」

バカバカしくなってきて、俺はその場を去ろうと思って、再び歩き出したが、なにやら女がついてくる。
「ねぇ、お兄さん変わってるね!なかなか面白いよ、それ。イケてるかも。」

俺は無視して、振り切ろうと歩き出したが、しつこく追いかけてくる。
俺はこの人間のメスより、連れているメス犬の方が気になっているが、何か勘違いされているので、めんどくさいので次行こうと思っている。

随分歩いた。これだけ歩いたかいあってか、メスどもも遂には諦めてどこかへいってしまった。
俺は今、人間界の街にいる。そう思えるだけで、心の底から感動が湧き出してきた。
人間といったら、まず酒かな?そう思って、古ぼけた居酒屋に入ることにした。

「いらっしゃ〜い!・・・ありゃ?!なんでぃ、犬の仮面なんかかぶって。」
いちいち対応していると、日が明けてしまう。こんなことに時間を費やしている場合ではない。
「日本酒が飲みたい。出してくれ。」
カウンターに座って、そうオヤジに言うと、なにやらニヤケながら酒を出す準備を始めた。
「お待ち。」
目の前に、コップに注がれた水のようなものが出てきた。
・・・これが日本酒か。
匂いを嗅ぐと鼻がツ〜ンとする。人間はこんなものを好んで飲んでいるのか。信じられん。
しかし、俺もこうなっては人間だ。人間らしいことをしてみようじゃないか。

そう思って、クイっと日本酒を飲み干した。
グォッ!喉が熱い!
・・・だが、少し甘みがあって、味はそんなに悪くないな。

「お前さん、仮面のまんま飲めるんだな!最近の技術は進歩したもんだ!」

無視貫徹だ。
「オヤジ、もういっぱいくれ。」
俺は、山からなにも飲まず食わずで下ってきた。だから喉が渇いている。
このちょっと変わった水で、喉を潤したい。

喉の渇きに任せて、日本酒を飲み続けた。すると、なにやら笑いが止まらなくなってきて、周りのものが全て、なにを見ても可笑しくて、オヤジの分厚いクチビルも、可笑しく見えてたまらなくなって大笑いしていた。

「あ、ワンちゃんだ!」

・・・ん?
眩しい。

「このワンちゃん、捨て犬かな?ねぇ、ママー!」

俺は気がつくと、ゴミ袋の山の中で寝ていたことに気づいた。
うっ!頭が痛い!
これが二日酔いというやつか!

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