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『DOGMAN』 第11話 2度目の満月


「チェリーをよろしくお願いします・・・だって。」

まぁちゃん家に帰ると、チェリーと段ボールの中に入っていた手紙をゆうくんに見せた。
「かわいい!見せて見せて!」
「ダメだよ、まぁちゃん。まだ生まれたばかりなんだから、そっとしてあげないと。僕が世話する!」
「ゆうくん、ちゃんとお世話できる?」
「ママ、僕やるよ。しっかり育てる。」

チェリーはゆうくんに託した。

しかし、こう自宅と職場を行き来しているだけの生活も飽きてくるな。
「あたし、リャンにエサあげてくるー。」

今日は満月か・・・。ん?満月?

「ぐ、グオォォォおお・・・!」
「リャン?どうしたの?お腹が痛いの?」

しまった!まぁちゃんに変身するところを見られる!

「どうしたの?まぁちゃん。リャンがどうかしたの?」

ゆうくんもきた!万事休すだ・・・!!
俺が犬でない、化け物だと知られたら、街中が大騒ぎになるぞ・・・!
そうしたら、人間界にも暮らしていけない・・・。まぁちゃんの家にもいられない・・・!

「グオォォォォォッッ!!」

「・・・?」
「リャン?」

「・・・。」
「・・・わ、わん。」

「大丈夫?」

「わ・・・わん、つー・・・じゃなかった、わん。」

「なんともないみたい。」
「な〜んだ、まぁちゃん。リャンも驚かせないでよ。」

「わわわ、わいん。」

「エサ、置いておくからね。」
「あ、うん・・・。じゃなかった、わん。」

「大人しくしてるのよ。」

「わえふん。」

「ばいばい。」

「・・・」

・・・よし!!!!!
人間になった体を犬小屋の中に隠し、顔だけ出すことによって、全くバレなかった!!!
俺って天才だなー!!

せっかくの満月だ。
スーツに着替えて、人間界を楽しもうじゃないか。

リャンは、スーツに着替えた。浮かれて、誰かに見られていることにも気付かずに・・・。

「あれ・・・、リャン・・・?」

早速街へ繰り出した。
久しぶりの人間界の夜の街並みだな。存分に楽しもう。

「あら〜!この前のお兄さんじゃん!また会ったね!」
あ!里山を降りてきて一番最初に会ったタイトなワンピースを着たお姉さんだ!
「キャン!キャン!」
「あら、ベティも興奮しちゃって!」

このセクシーな犬に歓迎されると、嬉しくなってしまうな・・・。
「ねぇ、どう?今夜一緒に一杯どうかしら?」

「む・・・。俺はあまり酒は慣れていない。だからあまり飲めないが・・・。」

「そんなの気にしないの!行くわよ!」

この女と居酒屋で飲むことになった。

「へい、らっしゃ〜い。お!この前の犬の仮面の兄さんじゃねえか!」
「あら、店主さん、このお兄さんのこと知ってるの?」
「おう!お前さん、最近プラネタリウムで働いてるって聞いたぞ!何やら子供に大人気らしいじゃねぇか!」

いかん。いかんせん、この容貌だから、どうやら街では目立っているようだ。
「俺、この街で金稼いで、格闘技ジムを作りたいんだ。」
「かっこいいじゃない!すごくいいと思うわ。」
「お前さん、格闘技なんかに興味あるのか?あまりそういうタイプに見えないけどなぁ。」
「でも見て!ほら!結構たくましい体してるわよ。」

俺の腹をツンツンつついてくる。あまり気軽に触らないでほしい。
「格闘技、やったことあるの?」

「俺・・・、昔からじいちゃんに鍛えられてて、以前、大陸を越えて一人修行の旅に出たことがあるんだ。」
「へー。すごーい。さすらいの格闘家ってやつ?」
「そこまで大したものじゃないけど、どこまで自分の力が通用するか、試したかったんだ。」
「かっこいいじゃん。あたし、エイコっていうの。あなたが格闘技ジムの師範になったら、あたしの友達だって自慢するから、ちゃんと覚えといてよね。」

ちょっと嬉しかった。
人間界で、オオカミ男がここまで受け入れてもらえるなんて思ってもみなかった。
「ありがとう。」

「あたしさ、アパレルの店経営してるのよね。だから、あなたのジムの道着、うちで作るわよ。」
「お前さん、よかったな。早速お得意先ができたじゃねぇか。」

酒がうまい。こんなに酒って、うまいもんだったのか。
「約束の一杯だ。今夜はありがとう。俺、もう少し一人で街をぶらつきたいから、ここでお別れだ。」
「えー?!もうちょっと飲んで行きなさいよ。」
「悪い。ありがとな。また会おう。」

俺は居酒屋を後にした。

この前みたいな失敗はせんぞ。人間でいられて、街をぶらつけるチャンスなんて、そうそうないんだから。

いい気持ちになってふらついていると、突然の殺気に気づいた!
「バキッ!!」

一瞬の隙をついて、鉛のようなものが頭を狙ってすっ飛んできたが、俺は瞬時の判断でガードした!
「バケモノめ!」

「むっ!!お前は!?・・・アキさん?!」
「なんだと?!なぜ私の名前を知っている・・・!?」

「お前は・・・アキさん?アキ・デストロイヤーなのか?」
「オオカミ男め!人間を欺きに、人間界にやってきたか!!」

「お・・・落ち着いてくれ!アキさん!俺は人間を欺きにきたつもりはない!こんなところでケンカしたら、ひと騒動になる!」

「・・・、・・・!!・・・。」

周りは、なんだなんだと野次馬が集まってきている。

俺はとりあえず、アキさんの腕を引っ張り、狭い住宅街の道のりを縫うように駆け抜けて、野次馬を撒いた。

街灯の並ぶ静かな住宅街。

「いつぶりだろうね。何年経っただろうか。リャンピン。」

「お・・・俺は今ここでは、リャンとしてやっている。リャンと呼んでくれないか。」

「リャン?リャンて言ったら、まぁちゃん家の犬の名前じゃないか!まさか、あなたが・・・!」

「頼む!秘密にしといてくれないか?これがバレたら、まぁちゃん達と一緒に暮らせなくなる・・・。」

「・・・何か事情がありそうね。わかったわ。話なら聞くけど・・・。」

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