【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第2話
第2話
「あのぉ……愛馬センパイ、ちょっといいですか?」
定時まであと五分を切ったところ。開いたパソコン画面は単なるカモフラージュで、明日提出することになっているデータはもう保存済み。心の中ではカウントダウンの準備が始まっている。
時計が定時を知らせれば、ゲートを開けられた競走馬のようにロッカーに向かい、真っ直ぐに家に帰るだけだ。
それなのに、このタイミングで後輩から声をかけられるとは、嫌な予感しかしない。ましてこの後輩は、ハッキリ言って仕事ができない。