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【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~(全9話)+あとがき

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「犯人はあなただ!」「さあ、聖杯を取り出せ」「紫式部になりたい!」限界まで潜ったその先にある、指先に触れたものをつかみ取れ。あなたは書くために生まれてきたのだから。
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【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第2話

   第2話 「あのぉ……愛馬センパイ、ちょっといいですか?」  定時まであと五分を切ったところ。開いたパソコン画面は単なるカモフラージュで、明日提出することになっているデータはもう保存済み。心の中ではカウントダウンの準備が始まっている。  時計が定時を知らせれば、ゲートを開けられた競走馬のようにロッカーに向かい、真っ直ぐに家に帰るだけだ。  それなのに、このタイミングで後輩から声をかけられるとは、嫌な予感しかしない。ましてこの後輩は、ハッキリ言って仕事ができない。

【短編小説】徒労の人 ~なぜ書くのか~ 第9話(最終回)

   第9話(最終回) 「愛馬センパイ、ちょっといいですかぁ……?」  昼休み残り五分。パーテーションに囲まれた誰もいない会議室で、靴を脱ぎくつろいだ格好で本を読んでいると、後輩のリナが入ってきた。 「あー、お邪魔してごめんなさい、読書中でしたか」 「いや、別にいいよ。どうしたの」  本を閉じて脇へ置いた。今度は一体、どんなミスをやらかしたっていうんでしょ。 「なに読んでるんですかぁ?」  珍しくリナがそう言って、本の装丁に目を走らせる。 「『ディアトロフ峠の真相』