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第9話 遠くでざわめきが聞こえる。 廊下に誰もいないことを確かめると、僕はそっと図書室の扉を開け、身体を滑り込ませた。 夏休み前の短縮期間は、給食を食べたらすぐに下校だ。昼休みがなく、放課後も図書室は解放されない。 けれども、鍵がかかっていないのは知っていた。だからこうして、読み終えた本を返して新しい本を借りるために、忍び込むことは初めてではなかった。 図書室は普段と違って薄暗く、空気が重い気がした。吸い込むと、みぞおちがぐっと押し込まれるような感覚
第10話 そこで目が覚めた。 詰めていた息を吐いた。横隔膜が震える。 片方の手で顔を半分覆った。暗闇の中に、愛しい人の姿が浮かんでくる。 「さくら」 名を呼んだ。とたんに、涙があふれる。 すべて終わったはずだった。 それなのに、炎はまだここにある。 激しく燃え盛るのではなく、静かに、けれどもしたたかに、僕の心を震わせている。 行き先を失った僕の心を灯している。 存在したがっている。 生きたがっている。 ああ、と声が漏れた。温か