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第10話 音を立てないようにそっと玄関を開け、細い隙間から滑り込んだ。リビングからテレビの音がする。 足音がしないように廊下を進み、自室へ逃げ込む。息をひそめてじっとしていると、窓の外が薄暗くなってきた。灯りをつけるわけにいかず、暗く静かな部屋で、なにかのモーター音に耳を澄ませる。 ふと古い記憶が脳裏に浮かんだ。子供の頃、祖父の形見の懐中時計を勝手に持ち出して落とし、表面のガラスに傷をつけてしまった。 叱られるのが怖くて、押し入れに隠れた。寡黙な父がどのよ