新規上場まとめ マイクロ波化学(株)[2022/06/24]
沿革
2007年創業 代表取締役 吉野 巌
三井物産で化学品を担当していた氏がMBA取得後、大阪大学大学院の工学研究科でマイクロ波化学の研究をしていた共同創業者の塚原とともに設立。初期はマイクロ波を利用したバイオディーゼルの製造・販売を目指すものの、バイオディーゼル市場が拡大せず、現在のビジネスモデルへと方針転換。
事業内容
電力由来のマイクロ波技術を活用した製造プロセスを顧客に提供する。顧客の課題解決のために研究開発会社としての側面と製造プロセスを設計して反応器(化学反応を起こさせる装置)を納入するエンジニアリング会社的な側面を併せ持つ。具体的には以下の4つのフェーズでサービスを提供する。
開発段階のフェーズ1~2では、共同開発費や実証機の設計費という形で収益を得る。顧客が事業化するフェーズ3~4では、プロジェクトマネジメントフィーや設計費を計上した上で、顧客がマイクロ波プロセスを導入することによって生み出すことができたコスト削減や付加価値向上などの価値の一部、及び所有するバックグランドIPの使用料としてライセンス収入を、一時金やロイヤリティという形で計上。中長期的には事業化したパイプラインから得るロイヤリティをはじめとした継続的な収益を想定。
顧客課題にソリューションを提供すると、これが自社の技術プラットフォームの強化とこれを支える要素技術群の充実につながり、この強化された技術プラットフォームが顧客課題のソリューション力向上に貢献するという、好循環を実現可能な事業モデル。
マイクロ波技術
従来の製造プロセスでは、ガス、熱 媒、蒸気といった熱エネルギーを、空間のある場所から対象物質に移動させることによって、反応を起こそうとする伝熱プロセスが用いられている。しかし、このプロセスにおいてはエネルギー伝達が間接的なものであり、エネルギーロスが発生する。化学産業は、石油、天然ガスや石炭など総計12億 トンの化石資源を燃料(全体の約30%)や原料(全体の約70%)として使用しており、世界全体の使用量の約5%を占める。2050年までのカーボンニュートラルという目標のためにはよりクリーンかつ効率の良い製造プロセスを採用することが求められる。
こうした時代の潮流の中において、マイクロ波化学(株)が提供する技術には相当の優位性がある。
マイクロ波は、特定の物質に内部から直接かつ選択的にエネルギーを伝達できるという特徴を有しており、これにより媒体を介してのエネルギー伝達が不要となるため、必要最小限のエネルギーしか要しない。また、目的とする物質のみが共鳴する周波数のマイクロ波を照射することで、均一にエネルギー伝達することができるため、ムダ・ムラを排除し高収率・高品質を達成できる。化石資源由来の熱と圧力ではなく、電力由来のマイクロ波を使用するため、発電方法によっては更なる環境負荷の軽減が可能となる。
株主構成
マイクロ波化学(株)の特色の一つは研究開発型のスタートアップであるにも拘らず自社技術を使用した一号工場を自社で建設したことである。そうした経営判断や、コストの高い業界であることが影響してか、VCの持分比率が72.8%と高い水準になっている。
このことは「事業等のリスク」でも指摘されている。
以下、株主のVC(一部抜粋)
UTEC2号投資事業有限責任組合 19.84%
ジャフコSV4共有投資事業有限責任 組合 14.29%
PNB-INSPiRE Ethical Fund 1 投資事業有限責任組合 4.27%
OUVC1号投資事業有限責任組合 3.54%
SMBCベンチャーキャピタル2号投資 事業有限責任組合 1.18%
岩谷ベンチャーキャピタル合同会社 0.92%
SBIベンチャー企業成長支援3号投資事業有限責任組合 0.37%
SBIベンチャー企業成長支援2号投資事業有限責任組合 0.19%
SBIベンチャー企業成長支援4号投資事業有限責任組合 0.27%
SBIベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合 0.14%
経営指標
第14期(2021年3月期)の売上が前年比で約-130%となっているのは、新型感染症の影響により新規案件獲得のための営業活動が停滞し、新規引合い件数が減少(新規案件獲得数が前年の11件→9件、案件総数も23件→19件)したことによる影響。
2022年3月期においては新規案件獲得数は18件、案件総数が41件と堅調に推移している。