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AIは教員の仕事を楽にできるか


「教員の試験問題補助AI」についての検討

AI-Dでは、事業構築をメソッド化していくために、各分野における事業内容のアイデアや思い当たる「ペイン」をリスト化し、実現性の高いものはどれか、メンバー間で議論を重ねています。今回はその中から、学校の先生が試験問題を作成することを補助するAIについて検討した際のお話です。

着想のきっかけ

アイデアのきっかけは、メンバーの1名が、小学校教諭である友人から「毎年テスト問題を作成するのがかなり手間だけど、コピペもできないし仕方なく作っている」という話を聞いたということでした。これをペインと設定し、「範囲を指定したらテスト問題をよしなに作成してくれるAI」で解決するという案が産まれました。ビジネスモデルとしては、教員が月額500円等の形で個人でサブスクするものを想定し、約42万人いるといわれる小学校教員の人数を鑑みるとマーケットサイズは十分あり、学校で蓄積したデータを塾に販売するような展開も考えらえるのでは、と議論が盛り上がりました。

先行事例

先行事例調査の結果、日本事務器株式会社が運営する「Phollyフォリー」というサービスがあることが分かりました。授業前のお知らせや資料配布、授業後のレポート課題、アンケート回収など教員と学生の間のコミュニケーションのための機能を抱負に備えている学習支援システムです。AI-Dはどちらかというとフルラインナップのサービスを作りこむより、アジャイル型アプローチで特定のペインに対し短納期で結果を出す開発を得意とするため、問題作成に特化する等、もっとピンポイントなサービスでマーケットインすることで、先行サービスとも共存できるようなイメージを持っていました。

GPTでシミューレーション

ブレインストーミングの最中、弊社代表の倉橋が、小学5年生を想定してAIに問題作成を指示した結果が以下となります。

  • 問題1:2つの数の和が35で、その差が15です。それぞれの数は何でしょうか?(5点)

  • 問題2:1000 ÷ 25 = ?(5点)

  • 問題3:直角三角形の斜辺が10cm、もう一辺が6cmの場合、残りの辺の長さは?(5点)

  • 問題4:1リットルのジュースを4等分して、それぞれの容器に入れます。1つの容器に入るジュースの量は?(5点)

  • 問題5:3人の友達が昼食を買うためにレストランに行きました。1人あたりの食費が25ドルで、彼らは合計で75ドル支払いました。何人分の食事を買ったのですか?(5点)

  • 問題6:2/5を10で割ると?(5点)

  • 問題7:円の直径が14センチメートルの場合、その円の半径は?(5点)

  • 問題8:3の倍数かつ4の倍数である最小の数は?(5点)

  • 問題9:36 ÷ 4 ÷ 3 = ?(5点)

  • 問題10:5人の子供が均等にリンゴを分けて食べました。リンゴが25個あった場合、1人あたり何個のリンゴを食べましたか?(5点)

  • 問題11:40%の増加率で80ドルの商品の価格はいくらになりますか?(5点)

  • 問題12:2つの数の積が144で、その差が6です。それぞれの数は何でしょうか?(5点)

  • 問題13:50 ÷ 2 ÷ 5 = ?(5点)

  • 問題14:1マイルは何キロメートルですか?(5点)

  • 問題15:200 × 0.25 = ?(5点)

  • 問題16:4/5を100で割ると?(5点)

  • 問題17:正方形の一辺の長さが6センチメートルの場合、その正方形の面積は?(5点)

  • 問題18:2人が互いに異なる速さで同じ方向に走っています。1人は1時間で10キロメートル進み、もう1人は1時間で15キロメートル進みます。2人が最初に離れていた距離は何キロメートルですか?(5点)

  • 問題19:1時間あたりのマイル数が60マイルの速さで運転すると、3時間後には何マイル進むでしょうか?(5点)

  • 問題20:半径が6センチメートルの円の面積は?(5点)

いかがでしょうか。このくらいの内容であればすぐに作成でき、プロンプトを改良すれば内容もブラッシュアップされるということです。ただ、問題分を作るだけで果たして課金してもらえるのか、という肌感を知るために、現役の小学校の先生へのヒアリングを実施しました。

現役教員へのヒアリング

ヒアリングの結論としては、テストやプリントの自動作成ツールは少なくとも小学校ではニーズは弱く、導入ハードルもかなり高そうだということが分かりました。中学校や高校の先生であれば、まだ可能性があるかもしれません。以下、ヒアリング内容の抜粋です。

  • 学校ではどういったポジションでどういった業務をされていらっしゃるのでしょうか?- 担当は持っていないが、いろんな学年のいろんな授業を受け持っている。

  • テスト問題はどのように作成していますか?コスト意識はありますか? - 小学校は市販のテストを活用している。 テストよりも授業のためのプリントを作ることの方が大変だが、独自の問題ではなく、著作権フリーのプリント集から抜粋したりもする。 そのため、小学校ではあんまりテストやプリントを作る工数に対して課題感がない。中学校・高校とかの方がニーズがあるかも?

  • ツール導入の際は、学校単位で検討するのでしょうか。もしくは先生個人で気に入ったアプリやサービスを自己負担で使うこともありますか。- 小学校は生徒向けに、ドリルパークというデジタル教材がある。 他には、さくら連絡網というデジタル連絡網を使っているが、学校単位で新しいDXツールを導入する頻度は低いし、今のものに慣れるので精一杯。 仕事のために個人で課金するというのは、個人的には考えにくい。

  • テスト問題作成以外で、AIでこんなことしてくれたら良いな、と思う場面はありますか。- 授業で生徒たちからの質問にうまく答えられないときに、自分のサポート役になってくれるようなAIがあれば助かる。なんでも答えてくれるキャラクターロボットみたいな、バーチャル副担任。

まとめ

近い関係の知り合いからペインの着想を得た「教員の試験問題補助AI」ですが、年代が違う別の教員にヒアリングした結果は、残念ながらニーズが弱いという回答となりました。toCサービスのPMF(プロダクトマーケットフィット)のためには、「たった一人を熱狂させる」ことが重要なステップだといわれますが、小学校の現場ではペーパーワークの負担よりも、もっと違うところにペインがあるという実感のこもったお話を伺うことができ、一旦このアイデアはお蔵入りとなりました。

逆説的ですが、徹底的にN1に絞り込むからこそ強い独自性と便益=「プロダクトアイデア」を生み出せるのであって、絞り込まないから平均的で最大公約数的な企画しか打てず、鳴かず飛ばずの結果になるのです。一人に注目するからこそ、他の人にも響く可能性の高い、強い「アイデア」の手がかりを得られます。

顧客起点マーケティング

これにめげずに、AI-Dは世の中の様々なペインについて考え抜き、AIで人々の暮らしをより豊かにするべく商品開発を進めていきます。教育現場で課題をお持ちの方、教育のDX推進で協業をご検討の方からのご連絡をお待ちしています。

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