暗い雨と羅生門
日曜日、日も暮れた頃外に出ると雨が降っていた。アスファルトが羊羹のように艶を帯びるこの雨の感じは、あれだ。
『羅生門』だ。
このいわずと知れた名作が好きで、何度も咀嚼している。
言葉の響きひとつひとつにぞくぞくするし、学生の頃に読んで、人間の本質はこういうことだ、と腑に落ちた。
どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑(いとま)はない。
生きるためにはやむをえぬ。だれもが自分を必死に守っている。きれいごとだけでは生きていけない。
だからといって、まったく厭世的になっているわけではない。むしろ、なにも期待しないというスタンスでいれば、ちょっとした親切が心の底からありがたく思える。すぐ、泣きそうになってしまうくらい。
不平不満が口からこぼれるのは、他人への期待を膨らませすぎているのだ。
外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
下人の行方は、誰も知らない。
自分の行方は、自分で決める。たとえ、まっ暗闇でも。
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