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生成AI半導体ブームの終わりの始まり

絶好調のAIデータ・センター事業とその核となるAI半導体事業の終わりの始まりについてお話します。


終わりの見えないAI半導体ブーム

四半期決算マジック

NVIDIAの四半期決算が出るたびに市場は熱狂しています。NVIDIAもぬかりはないので毎四半期ごとに上方修正できる数字を作ってくると思います。
話によればHopperの納期は18ヶ月から数週間に短縮されたようです。大量の受注残があるので当分売上は安泰です。


Blackwellへの移行

年内には新GPUのBlackwellファミリーの商用出荷が本格化します。Blackwellははっきり言って単なる半導体ではなく、AIデータセンター・ソリューションです。Hopperを昨年来金に糸目をつけず買ってきた大IT企業なら同額以上をBlackwellに投資しなければ意味がありません。30倍の性能があり、開発から運用を含めたライフサイクルコストが圧倒的に有利だからです。このため2025年以後もAI半導体、AIデータセンター・ソリューションにおけるNVIDIAの圧倒的優勢は揺るがないです。
NVIDIAの売上の9割弱がAIデータセンター事業セグメントです。その4割は巨大IT企業です。彼らが買い続ける限りNVIDIAは安泰です。売上マージン78%と伝えられているので作った5倍近くの値段で販売しています。これは儲かります。生成AI開発に賭ける企業はそもそもNVIDIAのGPUを大量に持っていないと一流のAI人材に逃げられてしまします。高くても買うしかありません。

終わりの始まり

永遠に続く繁栄はない

GoogleやAmazonの衰える日は来ないと思っていました。生成AIはどんな企業をも追い詰める可能性がある破壊的イノベーションの恐ろしさを改めて示しました。

NVIDIAの2つの死角

米国計算機学会の論文にNVIDIAのビジネスモデルに関するものがありました。
ハードの普及がソフトを生み、ソフトの量がハードの需要を呼ぶはずみ車の状態になっている、とMichael Cusumano教授は言っています([Cusumano])。これはPCにおけるIntelとMicrosoftの関係です。NVIDIAは生成AIにおけるintelとMicrosoftを一人二役でこなす企業です。

考えられる死角は2つです:

  • 生成AI開発競争が終わること

  • NVIDIAのCUDAに代わるOSSの開発基盤環境ができること

2つの死角の詳細

生成AI開発戦争の終わり

OpenAIは昨年秋にレッドチーム制度を作りました。赤いチームという意味です。ストップをかけるチームという意味だと考えます。これはリリース前の生成AIを専門家の立場からチェックするものです。AIの知識は必須ではないそうです。
2024年4月からレッドチームにGPT-5が渡されたのようです。GPT-4はGPT-3.5よりはるかに優れていました。Sam AltmanはGPT-5は同様にGPT-4より優れていると発言していました。GPT-5は驚くべき性能を持っていると予想されています。
OpenAIは5月終わりに安全とセキュリティ委員会を発足させました。このプレスリリースの中でOpenAIは次のフロンティアモデルの開発を始めたと述べています。GPT-5開発は終わりかけていますから、これはその次のモデルを指していると思われます([TheAIGRID])。このモデルは2025年にリリースされる可能性があります。
はたしてこのモデルを見ても他社は開発を続けられるでしょうか。
いくらでも性能を上げることはできます。でも人間を超えたら1割超えようが2割超えようが関係なくなります。GoogleやAmazonは諦めないでしょうが、買う勢いは弱まると思います。

CUDA一強の終わり

CUDA独占を打破できるのはOSSだけです。OpenAIが2021年にPythonベースでリリースしたTritonなどがその例です([Cusumano])。もちろん、OpenAIは動画の生成AIなど、やることがたくさんあります。CUDAの独占を破るのは優先度が低いです。かなり時間はかかると思います。

おまけ:データ不足

GPT-3の訓練に使われたデータは570GBです。最新のBlackwellスーパーコンピュータ(Blackwell GPUを密結合でラックに組み上げたもの)は170TBpsの帯域をもっています。この帯域をフルに使うデータを人間の力で作り上げるのは無理があります。
OpenAIが勝ち切らなくても、そもそもAIデータセンターに入力する質の高いデータがそんなに大量にないという問題もあります。こちらは謎ですが、多分、人間ではなく生成AIに訓練データを生成させて凌ぐのだと予想します。

むすび

CUDAが圧倒的にソフトウェア技術者に支持されている限りNVIDIAの覇権は続くと思っていました。CUDA代替もないわけではないようです。また、生成AI競争も永遠にホットというわけでもないと思います。まずは夏なのかはたまた米大統領選挙の後なのか、GPT-5を待ちたいと思います。

参考文献

  • [Cusumano] Nvidia at the Center of the Generative AI Ecosystem—For Now , CACM, Michael Cusumano https://cacm.acm.org/opinion/nvidia-at-the-center-of-the-generative-ai-ecosystem-for-now/ 2024年

  • [mpost] GPT-5 安全性テストとレッドチーム化により、モデルの発売が2024年夏以降に遅れる可能性がある https://mpost.io/ja/gpt-5-safety-testing-and-red-teaming-could-delay-the-models-release-beyond-summer-2024/ 2024年

  • [TheAIGRID] OpenAI's NEW MODEL, LLM'S Beat WallStreet , Google Takes The LEAD, Googles Major AI Mistake! https://www.youtube.com/watch?v=h9a9JDU-xLc TheAIGRID 2024年 18m45s


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