見出し画像

ジャックとベティ

 彼は恋を知らなかった。
 彼女は恋に恋していた。
 そうしてふたりは出会った。
 街角の交差点で。
 駅前の三叉路で。
 コンビニエンス・ストアの横で。
 地下街の、噎せかえるフランス式薄焼きパンケーキ屋の匂いの中で。

 そしてふたりは破滅した。

 恋を知らぬ者は恋を恐れ、
 恋に恋する者はそれを幻想し、
 喰い違う魂の彷徨いに答えはなかった。

 交差点の赤信号。
 三叉路の渋滞。
 コンビニエンス・ストアの惰性。
 フランス式薄焼きパンケーキの甘たるい匂い。

 すべてが停滞し、
 すべてが混乱し、
 すべてが慣れあって、
 ふたりに吐き気をもよおわせた。

 何処で間違ったのだろうか。
 最初から目眩ましの中に居たのだろうか。
 ふたりには判らない。
 昨日は闇に消え、明日は靄にかすみ、今日はとりとめがない。

 やめればよかった?
 じかんをもどして?
 いち、に、さんで、
 ふりだしにもどる。

  2001年 某月


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?