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解説。

 惣一は奈津子がまだ三才の頃から結婚したいと考えていた。それからずっと思い続けて二十一才で想いを遂げた。駆け落ちした末に結婚し、幸せに暮らしている。
 このふたりの怒涛の恋愛劇は、亮二の娘と江木澤の息子の物語として考えていた。が、亮二は子供が出来ないという設定だったので、此方の話になったのである。
 という訳で、もし亮二に子供が居たら、と会話を書いてみた。
 こんな親子、傍迷惑だろうなあ。清世も大変だろう。ふたりして言動が同じなので、喋っていることの大半が断片的で漫才のようである。一応、名前は育子としてあった。命名理由は育てるから、という簡単なものだった。亮二が名前を考えるならばこの程度だ。
 三十七才の時に出来た子供だったので、閎一とは七つ違う。つまり、亮二と清世が入籍したのは育子が出来たからなのであった。結局出来ちゃった結婚だったのである。入籍であれだけ驚かれたのだから、これならもっと吃驚されただろう。
 育子の告白に驚いて云った「ぎゃびーん、ライアル」は、英国の作家、ギャビン・ライアルのこと。『深夜プラスワン』はその著作で、伝説的とも云えるハードボイルド小説。
「答えは」「イエース」というのは、CBCで放送された長寿番組『天才クイズ』で、子供ふたり組が丸バツの帽子で回答し、質問の答えがあっていたら「イエス」、間違っていたら「ノー」と博士の着ぐるみが云うことになっていた。この博士の着ぐるみは、はじめのうちはごつごつ可愛げがなかったが、時代が変わると愛嬌のあるものになった。
 亮二がよく云う「もう遅いんや」は、『男女7人夏物語』で明石家さんまが云う科白。観ていないので知らなかったが、「もう遅いねや」と云っているらしい。これで共演した大竹しのぶと結婚したのだが、離婚している。知り合った頃はしのぶにはまだ旦那が居たが、癌を患い、死ぬ間際にさんまへ妻を託したそうな。子供はいまるとにちか。123と揃っていると云っていた。
 およしになってティーチャーは、おニャン子クラブの歌。これが題名なのかどうかは知らない。阿波踊りを別の意味かと訊ねているのは、「泡踊り」のことを云っているのだろう。どんな教育をしているのだ。
「姉さん、事件です」というのは、ドラマ『HOTEL』の主人公が、勤務するホテルで何かあると姉に手紙を出し、そう書いていた。が、このドラマも観ていない。
 図書センター所員の鑑と云っているが、当然この頃は本社で部長職についている。猫も飼っているので救心を落ちたままにしておいてはいかんだろう。
 ビックリハウスはサブカルチャーを代表する雑誌。萩原朔実はその編集長。
 育子は時代劇のような口振りでソファーに座る亮二の前に膝をついて告白を始めたので、ずっとその体勢だった。亮二が立ち上がって部屋を出ようとした時もそうしていたから、清世と話している時は離れた処からだった。で、「当てられたー」と云ったら、清世の肩を抱いていた亮二は腕を伸ばし銃で撃つ真似をして、それを躱す振りをした育子が「外したぜ」と応えているのである。
 それを受けて、座り込んで床を拳で叩きながら「ちきしょう」と云ったので、清世が呆れて「いい加減にして下さい」と口を挟んだ。
 阿呆な父娘である。しかも顔がそっくりだった。
 閎一は江木澤の息子だけあって真面目だが、堅苦しいというほどではない。なにしろ亮二に懐くくらいだから。自分に無い部分のある育子が好きになったのであろう。この会話の時、閎一は大学四年で陽南大学の薬学部に在籍している。あと二年通うことになるのだが、薬剤師にはならず製薬会社の研究員になった。
 江木澤よりも背が高く、一八三センチ。亮二より三センチほど高い。育子は一五八センチとぴったり標準。父親に似て細く体が弱い。閎一とは十八になってから結婚するが、妊娠しても自然な出産は出来ず、帝王切開だった。そのお陰で更に体が弱くなったものの、性格が明るいので家庭が暗くなることはなかった。
 という辺りまで考えていた。話にすれば面白くなったかも知れない。

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