ガールフレンドの死
君が死んだと知った夜、
ぼくは決して泣いたりしなかった。
こらえたのではなく、
涙も出ぬほど悲しみが深かったという訳でもない。
君が死んだと知った夜、
ぼくは泣くことが出來なかった。
随分高そうな棺の中に横たわる君。
あゝ、なんて優しげに見えるんだろう(勿論、それは景気よく飾られた綺麗な花と棺の上等さの分だけなんだけれどね)。
生きていた時は女王様気取りで、周囲のものを睥睨し、何もかも思い通りにしていたね。
午下がりの図書館で、ぼくに平手打ちを喰らわせた。
君は覚えていたかな。いや、覚えている訳がないね。
貸し出し係りの女の子が吃驚して此方を見ていた。
あの時、
ぼくは死んでしまいたいほど恥ずかしかった。
でも、死んだのは君だったね。今更って氣もするけど。
ねえ、君はいつの間にそんな綺麗になったの。
葬儀屋の化粧がよっぽど上手だったのかな。
今の君なら、もう一度おつき合いを願いたいくらいだよ。
棺が運び出される。
やっぱり涙くらいは見せないといけないのかな。
でも氣にすることなんかないよね。
だって、参列者はぼくひとり(牧師は聖書しか見てなかったしね)。
あんなにたくさん居た君の取り巻きは何処へ行っちゃったの?
南極探検でもしているの?
でも、ぼくにしてみれば、この閑散とした葬儀は君にぴったりな氣がするよ。
君の心の中には自分しか居なくって——ほら、あの頃だって、ぼくのことなんかまるで見えてなかったじゃないか。
教会の外は土砂降りだ。
一張羅のスーツを着て來るんじゃなかった。
ねえ、ひとつ氣になることがあるんだけど、君、クリニーング代くらいは出してくれるのかい?
(1991年)
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