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再会

演劇関連の友人というか先輩というかとにかく喋れば学びがあるなという感じの人妻と、昼飯でも食べながらおしゃべりしようや、という予定があり、待ち合わせ場所(私が決めたわけではない)に少しだけ早く到着したので、エスカレーターのほうを気にしつつ、スマホを見て待っていた。

数分後、エスカレーターをスーツ姿の中年男性と若い女性が上ってきた。男性は電話中だったのだが、女性が普通にメキシコ料理店に入っていったので、男も、このまま入っちゃって大丈夫かな?と一瞬躊躇してから結局入店。15秒後には店員に注意されたのか店から出てきた。

電話の男の声が誰かに似ているなと、思った。私は普通に心の狭い人間なので、こういう時にはだいたい「ちっ、うるせえな」と苛立つはずなのだが、あんまりそういうことを思わなかったのは、それが理由だったのだろう。そのままなんとなく男の声を聞き流しながら、スマホをいじっていて、やがて「あ、シンイチの声に似てるんだ」と思い当たる。中学高校の同級生だ。そいうえばあいつは今なにをしているのだろう、元気だろうか。

いや、声っていうか、喋り方も似てるような気がする。というか、話の進め方が同じだな。てか、あのおっさん電話中なのに動きでかいな、シンイチが電話してるところなんか見たことないけど、喋ってる時の動きもあんな感じだったよな。そういえば、もう忘れているだろうけど、学校の休み時間に昼寝してるシンイチにノリでかかと落としして起こしちゃったことあったな、あの時は本当にごめん。危険だったよね。いや、ていうか、あの電話のおっさんマジでシンイチじゃねえの?

そして、男性は電話を切る時に「またなにかありましたら〇〇までお問い合わせください」と、シンイチと同じ苗字を名乗ったのだった。これ別人だとしたら兄弟とかじゃないと説明できないレベルだよ!と思ったので、話しかけることにした。

「あのー、すみません」
「はい」
「シンイチだよね?」
「え?あ、はい」
「関村、関村」
「え?おー!」

というわけで正解でした。連絡先を交換して、じゃ近いうち飲みにでも行こう、と約束し、別れる。いやーこんなことあるんだなー、と感動しているところに待ち合わせ相手が到着。今起こった出来事を興奮気味に話しながらメキシコ料理店に入店すると、シンイチがいるテーブルの隣のテーブルに案内されてしまったのだった。思わず「違うんだ、この人妻とはそういう怪しげな関係とかじゃなくて、演劇の関係の人で…」と言い訳しそうになったが、シンイチは私と一緒にいる女性が人妻であることも、私が演劇をやっていることも知らないのだった。というか、仮に不倫関係だったとしても別にシンイチに知られて困ることなどなにもなかったのだった(いや、不倫とかしてませんよ)。


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