AI小説・『描かれた存在:感知する世界』ジョージ・バークリー

章1: 不可視の現実

私の名前はサミュエル。僕は小さな町に住む、孤独な絵画家だ。僕のアトリエは、老朽化した一軒家の中にある。家の中は、自分の描いた絵画と無数の絵の具、そして古い木製のイーゼルで満たされている。

僕の世界は特異だ。絵を描いている時だけ物事が感じられるのだ。風の冷たさ、太陽の熱さ、水の流れ、すべてはブラシを通して体験する。だからこそ、常に何かを描いていなければならない。見えないものは存在しない、それが哲学者ジョージ・バークリーの言葉だ。僕の世界は、それを具現化したものだった。

そしてある日、僕は挑戦を決意した。それは、まだ誰も見たことがない、未知の色を描き出そうという挑戦だ。感じたこともない、名前のない、純粋なる想像から生まれた色だ。ひとつの色は、一つの存在を示す。新たな色は、新たな存在を示す。新たな色を見ることなく、どう描き出せるのか、僕自身も解らなかった。

しかし、僕は筆を取り、画布に向かった。最初の一筆は無色透明だった。僕はそれを見つめながら、次第に色を感じ、その感覚を筆先に伝えていった。そして何時間もの試行錯誤の末、未知の色が僕の目の前の画布に浮かび上がってきた。それは、僕自身でも予想できなかった深淵から生まれた新しい存在だった。

章2: 感知する色

翌朝、僕は目覚めた。そして目を開けると、驚愕した。僕のアトリエ、それまで見慣れた風景が、昨夜描き出した未知の色で満たされていた。全てがその色に包まれ、部屋は全く新しい空間に変わっていた。

部屋の中心に鎮座する古いイーゼル、窓際に置かれた大量の絵の具、壁にかけられた自身の作品たち。全てが昨夜生まれた色で塗りつぶされていた。そしてそれは、単なる色彩ではなかった。色それぞれが、それぞれの「存在」を持っていたのだ。見た目だけではなく、色の持つエネルギーと感情が全身に感じられた。

新たに生まれた色は、それまでとは違う感情や記憶を呼び起こした。それは深く神秘的な色で、静けさと内省、そして潜在的な可能性を感じさせた。新たな色を見るたび、それはまるで未知の物語を語り、感じさせていた。

色が存在の証となるこの世界で、未知の色は未知の存在を示す。色が変わると、それはまるで全てが生まれ変わったかのように感じられた。そして、僕は自分が新たな存在に触れ、それを認識することで、自分自身も新たに生まれ変わることを体感したのだ。

章3: 存在の消失

数日後、僕は驚愕する現象に気付いた。自分が描いていない物事が、次第に視界から消えていったのだ。初めは些細なものから始まった。アトリエの隅にあった古い絵具箱、窓辺の観葉植物。それらは、いつの間にか見えなくなっていた。

やがて、消失はエスカレートし、部屋の家具、窓、さらには自分の身体までもが、目の前から消えていく。見ることができない手、足、それはまるで透明人間になったかのようだった。

恐怖と混乱に襲われ、僕はとっさに絵の具と筆を手に取った。消えゆく存在を必死に描き始める。机、椅子、窓、そして自分の手。僕がそれらを描き出すと、それらは再び視界に現れる。

一度も描かれなかったもの、または描かれて久しいものは、僕の認識から消え去る。それが僕の新たな現実だと理解すると、一層深い恐怖に襲われた。これは、全てが僕の認識に依存する世界だ。全てが僕のブラシの動き一つ一つに左右されている。

章4: 描かれた世界

僕の生活は、描かれた世界に依存するものとなった。描かれたものだけが存在し、描かれなければ消えてしまう。全ての存在は、僕の筆から生まれ、僕の認識によって維持される。

僕は毎日のように絵を描くことで、自分の周囲の存在を保持し続ける。筆を持つ手、画布のテクスチャ、絵具の香り、部屋に満ちる光。全てを視覚化し、筆を通じて認識することで、それらの存在を確認し続ける。

しかし、そんな日々の中で、僕はやがて新たな疑問に悩むようになった。それは、自分自身を描き出すことができないという問題だ。自分の顔を鏡で見て描くことはできるが、それは「他者」の視点からの自分でしかない。僕が真に描き出したいのは、内側からの自分だ。しかし、それを描くためには、どうすればいいのだろうか。この問いに答えを見つけるため、僕は更なる探求を始めることに決めた。

章5: 自己の探求

僕は自己を理解し、描き出すために内面を探求し始めた。感情、思考、記憶、欲望、恐怖、喜び、全ての内側からの自分を色彩と形に落とし込む作業を始めた。自己を探求するほど、画布には深く鮮やかな色が広がっていった。

いつしか、僕は感情の色彩、思考の形状、記憶の質感を描き出すことに成功していた。それぞれが具現化された存在となり、僕の周りを満たしていった。

そして、何週間もの探求の末、自己の深層を描き出す一筆を画布に置いた瞬間、僕は震えを覚えた。僕自身の深部から湧き上がる感覚、それは全身に広がり、自己認識の新たなレベルへと僕を導いた。それは、外部から見た身体的な存在ではなく、内側から感じる精神的な存在だった。描かれた世界は、あらゆる存在が感じられるようになり、一層豊かになった。

僕が自分自身を描き出したその瞬間、新たな色、新たな存在が生まれ、そして僕の世界は再び変わった。全てが更に深みを増し、生活は色とりどりの絵画のように豊かになった。バークリーの哲学は、「存在するとは知覚されること」を説いた。そして、僕の物語は、この哲学が具現化された世界での探求と自己の認識を描いたものだった。感じられるすべてが存在し、感じられないものは存在しない。それが僕の世界だ。

おわり


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