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週刊少年ジャンプ編集部の対応の物足りなさ

「社会的責任」に言及するなら、それ相応の厚みのあるコメントを出さないと逆に薄っぺらさが際立つよね、って話。

発端の事件

☑︎ 週刊『少年ジャンプ』連載の『アクタージュ act-age』の原作担当"マツキタツヤ"こと松木達哉容疑者が未成年への強制猥褻で逮捕
☑︎ 集英社は同漫画の連載終了発表

ニュースの記事

松木容疑者は8月8日、東京・中野区の路上で10代少女の胸を触ったとして、強制わいせつの容疑で警視庁に逮捕されていた。
同作は2018年1月に連載がスタート。天才的な演技力を持つ女子高生・夜凪景が俳優オーデションを勝ち進み、役者として成長していく姿が描かれている。コミックスの売り上げは累計300万部超。2022年には舞台化も決定しており、夜凪景役の女優をオーデションで発掘する予定だった。

該当の漫画は原作担当と作画担当が分かれ、舞台化も予定されていた為、容疑者の逮捕によって各所に波及しています。
新刊既刊問わずコミックの出荷停止も行われる為、損害金額も大きくなっています。

週刊少年ジャンプ編集部の対応

☑︎ 8/10に連載終了、17日には出荷停止、返金のお知らせ
☑︎ 24日作画担当の宇佐崎しろ先生がコメントを発表
☑︎ 同日に週刊少年ジャンプ編集部も宇佐崎先生をサポートするコメントを発表

時系列に公式のお知らせを並べました。

逮捕の知らせを受けて8月8日時点の編集部の声明

この時点では対応が何も決まっていない為、対応を協議する旨のみが書かれています。

2日後の連載終了の声明

『アクタージュ act-age』連載終了に関するお知らせ
去る8月8日、『アクタージュ act-age』の原作担当であるマツキタツヤ氏が逮捕されました。
編集部ではこの事態を非常に重く受けとめて、事実確認のうえ、作画担当の宇佐崎しろ先生と話し合いを持ちました。その結果、『アクタージュ act-age』の連載をこのまま継続することはできないと判断いたしました。 8月11日 (火)発売の「週刊少年ジャンプ 36・37 合併号」の掲載をもって、連載終了といたします。
これまで多くの読者の皆様に応援していただいた作品をこのような形で終了することになり、編集部としても非常に残念でなりません。しかしながら、事件の内容と、「週刊少年ジャンプ」の社会的責任の大きさを深刻に受け止め、このような決断に至りました。 ご心配、ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
編集部はもとより、宇佐崎先生は断腸の思いをなさっていますが、 先生をサポートし、また作品を作っていけるよう励んでまいります。 なお、コミックス等の関連刊行物やイベント等各種企画につきましては、関係各所とも協議のうえ、決まり次第お知らせいたします。

各方面の予想通り、漫画は連載中止。読者へのお詫びと宇佐崎先生へのサポートを行っていく旨が書いてあります。

出荷停止のお知らせ

宇佐崎先生のコメント

先日8月8日、私宇佐崎しろが作画を担当する漫画作品『アクタージュ act-age』の原作担当であるマツキタツヤ氏が、女子中学生への猥褻行為、性犯罪の容疑で逮捕・勾留されました。
まず被害に遭われた方とそのご家族の皆様に心よりお見舞い申し上げます。大きなショックと恐怖の中、声を上げ、ご自身の尊厳を傷つけられたことに対する怒りを捨てなかったことは、本当に勇気ある行為だと思います。 まだ司法の判断は下されていませんが、被害に遭われた方の届出によって事件化され、逮 捕・勾留という手続がとられたという事実を、重く受け止めたいと思います。
私は、今回の事件に伴う『アクタージュ』連載終了、及び企画や単行本、グッズ等への対応について、ジャンプ編集部の決定を全面的に受け入れています。
性犯罪によって受けた傷は自然に癒えるものではありません。この先も似た身なりの人と すれ違うたびに体が強張り、早足になり、夜道を歩くことに恐怖を覚え、被害に遭われた方の人生に本来必要なかったはずの緊張と恐怖をもたらします。 『アクタージュ』という作品そのものを見ることによってそれらが誘発されたり、苦痛を 与える原因になる可能性を考慮して、作品の終了は妥当だと判断しました。
そして作品を愛してくださっているファンの皆様へお願いがございます。 いつも『アクタージュ』を応援いただきありがとうございます。この度は道半ばで作品を終わらせることになってしまい、皆様と同じく私もとても残念に思っています。
しかし作品を惜しむ声が被害に遭われた方に対しての重圧となることは、絶対に避けるべ きことです。 当然のことですが、作品が終了するのは被害に遭われた方のせいではありません。被害に遭われた方が声を上げたこと、苦痛を我慢して痴漢行為や性犯罪に対して泣き寝入りしなかったことは決して間違いではありません。正しいことが正しく行われた結果です。 その勇気と行動を軽視したり、貶めたり、辱めるような言葉でさらに傷つけることは、あ ってはならないことだと思います。
漫画に救われて生きている方々、作品を生きがいにしていただいていたファンの皆様の気持ちもよくわかります。私も漫画に救われて生きています。やりきれない気持ちでいっぱいです。ですがその愛を間違った方向に暴力として向けるのは絶対にやめてください。どうかしっかり考え、様々な視点を持ち、根拠のない情報に惑わされず、何を言うべきか、言わないべきかを選択してください。
最後に、被害に遭われた方の心のケアがしっかりとなされ、今後の人生で二度と同じような思いをすることなく、心穏やかに過ごせることを願っております。

被害者の方に寄り添う様なコメントを発表。

宇佐崎先生に対して発表された編集部の声明

本日、『アクタージュ act-age』作画担当の宇佐崎しろ先生が、原作担当のマツキタツヤ氏が逮捕された件および連載終了等の一連の対応について、ご自身のお考えをツイッター上で発表されました。
先生が、被害に遭われた方に対して二度と同じような思いをしてほしくない、とおっしゃったことについては、編集部も同じ思いです。私たちはこうした先生のお考えを真摯に受け止め、今後の宇佐崎しろ先生の活動を全力で支えていきたいと思います。

あくまで「読者へ向けて」、宇佐崎先生をサポートしていく意向を改めて示したものです。

週刊少年ジャンプ編集部の対応が炎上したポイント

☑︎ 編集部の社会的責任に対して言及しつつも、姿勢が読者と取引先にしか向いていない
☑︎ 最初のお知らせから出荷停止までの間に、被害者に寄り添うコメントが一切ない
☑︎ 宇佐崎先生のコメントに対応して声明を出した為、単にタダ乗りしただけとイメージ付けられた

週刊少年ジャンプ編集部のお知らせから、一部抜粋してみました。

事件の内容と、「週刊少年ジャンプ」の社会的責任の大きさを深刻に受け止め、このような決断に至りました。 ご心配、ご迷惑をおかけしましたこと、心よりお詫び申し上げます。
先生が、被害に遭われた方に対して二度と同じような思いをしてほしくない、とおっしゃったことについては、編集部も同じ思いです。

被害者に関しての言及はなく、あくまでも読者(と関係取引先)に向けてのお詫びや、スタンスの表面であり、寄り添う姿勢はみあたりません。

まあいくら会社とは言え、個人が犯す犯罪をコントロール出来るかと言われたら難しいところです。
編集部、宇佐崎先生ともに被害者であると言われればそうですが、この文書からは「社会的責任」に言及しておきながら、対応が片手落ちな為、対応全般が冷ややかな目で見られています。

宇佐崎先生の「今の社会的責任」として充分な力のあるコメントと比べると、随分と物足りなくありませんか?
つまり、この差が編集部の「時代錯誤感」「とりあえず火消しすれば良い感」を多方面に与えてしまったという事でしょう。

「社会的責任のある会社」として発信しているコメント内容の薄さを鑑みると、週間雑誌としてはかなり大きな体制や力を持っているにも関わらず、「その程度コメントしか出来ない会社なのだ」とがっかりする人が多く出てしまったようです。

宇佐崎先生のコメントのポイント

☑︎ 事実の記載
☑︎ 被害者の方へのお詫び
☑︎ 被害者の方が被る被害や後遺症の記載
☑︎ 連載終了への気持ち表明
☑︎ 被害者バッシングへの批判
☑︎ 被害者の方への気持ち表面

内容の7割近くが被害者の方及び性的被害者に関するものです。
これこそ「社会的責任」のある会社として期待されるコメントではないでしょうか。

特に被害者バッシングについては「社会的責任」を言及するのであれば、避けては通れないものです。

私が残念に、そして悔しく感じるのは、加害者たちの中には、被害者のこのような自責感情を知ってそれを利用する者がいることだ。自責するから誰にも言えず、一人で抱え込む。警察に届けない。そうした行動は加害者にとって、とても都合が良い。だから加害者は被害者に自責を植え付けるようとする、と感じることがある。

そして、よく言われる「被害者に“も”隙があったのだろう」という無責任な放言は、被害者を加害者と同じ位置まで引きずり下ろし、加害者に強力に加担することとなる。
その上で指摘したいのは、男性から女性への加害が「性的な加害」であるとき、「男は性欲があるのだから仕方ない」と寛容になる、あるいは諦める風潮が未だにあること。そしてそれを加害者が利用していることだ。

一部の人が常識であるかのように思っている「男は性欲を理性で抑えられない生き物だ」という考え方を、誰よりも利用するのは性加害者だ(女性の性加害者は『男性に性被害はない』という間違った考え方を利用するかもしれない)。

被害者バッシングするということは、加害者に加担する行為であり、許すべきではない事です。
犯罪者を正しく告発する事ができない世界では、弱い人が安心出来ない世界で暮らしていくことになるからです。

猥褻事件の被害者は男女関係なく被害に遭い、そしてそれは「週刊少年ジャンプ」の読者かもしれない。そういった視点を持ち得ていれば、被害者に寄り添う事が大切か分かったのかもしれません。

また、加害者の人生ばかりクローズアップしてしまいますが、1番人生が変わってしまうのは、間違いなく被害者です。

宇佐崎先生のコメントのとおり、被害者の傷から目を背けてはいけません。

まとめ

☑︎ 会社も被害者かも知れないが、社会的責任もある
☑︎ 「現在の社会規範」に沿ったバランスのコメントを出す必要がある
☑︎ 被害者バッシングを見過ごすようであれば、「社会的責任」を果たしていないと受け止められる
☑︎ 誰かのコメントに相乗りするにではなく、会社として自発的に発信しなければならない

雑誌が売れてしまっているだけに、マーケティング的にちょっとマズった事がサラッと炎上しがちな週刊少年ジャンプ。

集英社としても、もう少し考えた方が良いのではないでしょうか…。


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