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ちゃんとしたいけど、「ちゃんと」ってなんだ

お昼のパンを食べてぼんやりとしていたら、突然すさまじい腹痛がやってきた。なんだってこう、予期せぬタイミングで腹痛はやってくるのか。「お腹痛くなりますよのお知らせ」があれば迎え入れる準備ができるというのに、ヤツが来るのは気まぐれにもほどがある。嫌な汗がでて一気に寒くなって、でもトイレに行きたい痛さでもなかったため、とりあえずベッドの上で丸まって耐えていた。ぐるぐる鳴るおなかを抱えて、小さなだんごむしのように体を縮めて唸っているとき、あまりにも痛かったから頭の中で神様に謝った。「神様、ごめんなさい。ちゃんとするからおゆるしを……」無念、そんなことを願ったところで腹痛がおさまることはなく、この世には神様なんていないのだと、まさに痛感。結局わたしを救ってくれたのは、部屋の中をゾンビのように這って入手したバファリンだった。

腹痛がおさまったところで、ふと思った。

「ちゃんとするって、なんだ?」

生活のあらゆる場面で「ちゃんと」は使われる。ちゃんとしなさい、ちゃんと食べるのよ、ちゃんとやらなきゃ。特に意味を考えずに使っていたが、これらが意味する「ちゃんと」ってなんなんだろう。
感覚的に言い換えると「きちんと」がしっくりくる。
わたしたちは、物事が整っていたり、正しい様であるべきことを説明するときにこの言葉を使ってきた。だけど、そもそも正しさや整っている状態ってどういうことを表すんだろうか。

少なくとも、今のわたしは「ちゃんと」していない。友達からは「ちゃんとしてそう」となかなかに褒められることが多いが、実際はクズである。
理由を挙げるならば、キリがない。夜遅くまで起きて朝が存在しない。仕事に熱意を持てない。やりたいことがぶれてきたから、やるべきことを後回しにしがち。聞いているようで人の話を聞いていない。恋愛のこととなるとまるで他人事。
これら全てにだらしなさを感じて、時々自分が嫌になる。

だけど、自分が思う「ちゃんとしてない」わたしは、だれかにとっては「ちゃんとしてる」のだ。わたしが許せない部分を、友達は味方してくれる。そう考えると、「ちゃんと」ってあるようでないようにも思える。

ちゃんとが0になった瞬間に訪れた腹痛のさなかで、考えた。そもそも、これら全てをきちんとこなすこと自体がハードルが高いのではないだろうか。ちゃんとのハードルを自分で上げていたようにも思える。ちゃんとした自分でいなければいけないという脅迫感と、謎の義務感。だって、腹痛の中で懺悔したことって、「ちゃんと夜お風呂入りますから」とか「野菜も食べますから」とか、そんなことばっかりだった。当たり前だけどできていなかった、日々のちょっとしたこと。それが「ちゃんと」の正体なのだろう。

自分が思う整った状態でいることは気持ちがいいが、ちゃんとしていなくなると一気に嫌になってしまう。ちゃんとに詰まった理想が手に入らないと、ムシャクシャする。理想っていつだって高いから、そうでなければならない何かは少し手が届かないところにある。みんな、気づかずにだいぶストイックなのだ。当たり前に「ちゃんと」しようとしてるけれど、まず「ちゃんと」しようとすることが偉いのだ。それだけで満点。

自分が思う「ちゃんと」を列挙すると、だいたい今の自分とは真逆の状態になってしまう。今思い描く「ちゃんと」した自分になれたていたとしても、またないものねだって新しい綺麗な自分になることを望むのだろう。ハングリー精神は向上には欠かせないけれど、「ちゃんと」に縛られて苦しくなる必要はない。ちゃんとしてない自分に嫌悪感を抱かない程度に、ちょっと息を抜いてだらしなくなってみてもいいのかな、とか適当なことを考える。ひとつずつ、低いハードルを飛んでいって、基準はちょっとずつ上げていくのがいいのかもしれない。ダメな時に無理に正しくあろうとしなくてもいい。
お腹が痛くなったときに神に懺悔し、その時に思い浮かんだ悔やまれる過去の行動だけが、「ちゃんとしてない」ことな気がする。それだけ避けられたら、腹痛は来ないかもしれない。「ちゃんと」のボーダーは、低くても良いのだ。

そんなことを思った昨日のお昼のこと。
夜更かししてしまった次の日だけれど、そろそろ「ちゃんと」したいから、今これをわたしは外で書いてみた。
お気に入りのコーヒー屋さんで、ホットドッグが焼き上がるのを待っている。朝って存在したんだなと、割と鋭い朝陽を浴びて懐かしく思ったり。寝不足なのにやけに明瞭な頭で書くnoteは、なんかちゃんとしてる感じがして好きかもしれない。

信号待ちの交差点。目の前のトラックが窓を全開にしていて、きのこ帝国の「東京」が流れてきた。
不快じゃないその音量に、なぜだかエモくなってしまった。そんな1日のはじまり。

#エッセイ #朝に書きました #スマホで書きました

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