見出し画像

辻仁成① パーソナリティではなくDJとしてマイクに向き合った彼

【辻仁成】 この漢字三文字を何と読むか?
 多くの人は『つじひとなり』と読むであろう。作家やシングルマザーとして世間に広まっているのが『つじひとなり』。
 それに対してミュージシャンや映画監督として活動している際の読み方が『つじじんせい』。個人的には『つじじんせい』と脊髄反射レベルで読んでしまう。

 初めて辻仁成(以下仁成)というのを知ったのは中学生の時。
 当時聴いていた鴻上尚史のオールナイトニッポン(ANN)のエンディングで流れていた曲のメロディと歌詞が非常に耳に残り、だれが歌っているんだろうとずっと気になっていた。

当時の鴻上尚史
エンディングでOneway Radioが流れる中、「泣かないように、負けないように、いい夢を見るんだよ」と鴻上が呟く

眠れない夜空を抱いて ちっぽけな悩みかかえて
ラジオにそっと耳を傾ける
いつだって僕はリスナーで 君の話聞いているだけさ
誰かに言いたい事もあるのに

今夜こそは ラジオと話したい
今夜こそは 僕の話も聞いてよ DJ

RADIO 聞こえているか RADIO 僕らの声が
孤独なメッセージ

(Oneway Radio / ECHOES)


 「この曲誰が歌っているんだろう?」と思っていたところ、しばらくしてからその答えが出た。鴻上と同時期にDJ(パーソナリティではなくDJ)として月曜二部のANNを担当していた、仁成率いるECHOESの曲だということを。

 そして聴き始めた辻仁成のANN。
 デーモン閣下のANNが終わった直後、エアロスミスの曲に乗せて仁成が一気に喋りだす。

Hello! Hello! This is Power Rock Station!
こんばんは。DJ の辻仁成です。
真夜中のサンダーロード、今夜も抑え切れないエネルギーを探し続けているストリートの Rock’n Rider… 夜更けの硬い小さなベッドの上で愛を待ち続けている Sweet Little Sixteen…
愛されたいと願っているパパも、融通の利かないママも、そして今にもあきらめてしまいそうな君にも、今夜はとびっきりゴキゲンなロックンロールミュージックを届けよう。
アンテナを伸ばし、周波数を合わせ、システムの中に組み込まれてしまう前に、僕の送るホットなナンバーをキャッチしておくれ。
愛を! 愛を! 愛を! 今夜もオールナイトニッポン!
(↓当時のANN音声。興味ある方はどうぞ)


 当時の月曜ANNといえば、一部のパーソナリティをデーモン閣下が勤めていて、当時のことをECHOES解散ライブのパンフレットに寄稿している。

ECHOES LIVE RUST パンフレットより
閣下らしい律儀な長文

 
 先述したように、自分のことをパーソナリティではなくDJと位置付け、リスナーからのハガキをカードと呼ぶのも他のANNとは異なっていたが、何より独特だったのが、リスナーからのカードに対して一言程度の言葉を返してすぐに洋楽を流すという方式だった。DJが流す曲から何かを感じ取ってくれ、というポリシー。そこではECHOESの曲もほとんど流さない。たぶん放送期間中5回も流れなかったのではないか。
 
 仁成がANNを続けている間にECHOESの知名度も上がり、渋谷公会堂や日比谷野外音楽堂でも単独ライブをするようになっていった。
 
 仁成のANNは約二年続き、1989年10月2日に最終回を迎えた。
 その翌週、仁成の後を継いだ寺内たけしのANNにて、仁成がすばる文学賞を受賞したことが知らされたのであった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?