トリックオアトリート!!

 ハロウィン。
 もともとは西洋のイベントだ。それがテーマパークなどが先駆けになり行ったことで広まっていったらしい。だから、別にハロウィンをする必要はない。もともと宗教になどそれほど関心のない平も、ハロウィンなどテーマパークなどでイベントをするだけだと思っていた。・・・・・・しかし、最近ではその事情もすっかり変わってしまった。

「今月もやっちまったな・・・・・・」
 呟く平の視線の先には、来月請求がくるクレジットカードの利用明細がある。去年までの請求金額からは考えられないほどの金額がそこでは踊っており、まるで平を嘲笑っているかのようだ。ざまぁみろ、課金欲も抑えられない愚か者め、と。
 特に今月は酷かった。先週から始まったハロウィンイベントで、好きなキャラクターの限定バージョンがラインナップにあったため、思わず出るまで課金してしまったのだ。これまでの人生の中で、自分のくじ運が決していい方ではないということを十分に知っているはずなのに、ついついやってしまうのだから学習能力がない。
「アプリ消しちまえばいいんだろうけど、これまでの課金額考えるとそれもなぁ」
 利用明細に穴を開け、ファイルに綴じると、スマホの中にある課金を続けているアプリを起動。所持ユニットでお気に入りのキャラクターのハロウィンコスを眺めてニヤニヤする。
「でもまぁ、可愛いし今が楽しいから全然いいんだけど」
 こんなこと考えてるから搾取される側のままなんだろうなぁ、と思うが、いいではないか。好きなのだから。好きなことをやっているだけで、別に中傷コメを掲示板に書き込んでいるわけでもないので、誰かに非難される覚えはない。育ててくれた親には金の使いかたが悪いと怒られそうではあるが。
 ふと眠気を感じ、あくびを一つ。ゲームを続けようにも、アイテムを使わなければ続けることができない。時間を進めるためにも少し寝寝ることにする。
 横になり、目を閉じると、ちょうどそのタイミングを見計らっていたかのように玄関のチャイムがなった。
 寝ようとしていただけに、すこし面倒に思ったが、もしかすると今日届く予定の郵便物だろう。起き上がり、玄関に向かう。
「はいはい。ちょっと待ってくださいねっと」
 玄関の小物入れから印鑑を出し、扉を開く。
「いつもすみません。印鑑は・・・・・・。は?」
 平家に訪れるものなど、通販で買ったものを届ける配達員の人しかいない。だからこそ印鑑を手に持ち玄関を開けたのだ。しかし、玄関を開けた先に立っていたのは、つい先ほどまでスマホの画面の中に立っていたハロウィンコスのキャラクターだ。
「え、っと・・・・・・?・・・・・・あ、ハロウィンだからか。ごめんな、うち、お菓子配ってないんだよ。そのコスプレが見られただけでも嬉しいけど。お菓子が欲しかったら、ちゃんと前もって打ち合わせしてる家に行かないと」
「トリックオアトリート!!」
「え?うん、だからお菓子はないかな」
「そうみたい!だから、いたずらしちゃうね!!」
 好きなキャラクターにされる悪戯なら、どんな内容でも大歓迎だが、目の前の彼女は、残念ながら、ただのコスプレイヤーだ。すこしかわいそうだが、付き合っていられない。平は玄関の扉を閉め、昼寝をするために居間に戻った。
 眠る前にゲームを再開するまでに必要な時間を確認しておこうと、ゲームを起動する。
「・・・・・・うん?」
 何かが変だ。
 何かは現段階でわからないが、そこには間違いなく違和感がある。その違和感を確かめるため、ゲーム内の画面を切り替えていく。
「・・・・・・へぁ!!」
 その違和感に気がつき、思わず声を上げる。
 いない。
 つい先ほどまで確かにいたはずのキャラクターが!!
 そしてつい先ほどの出来事を思い出す。
 トリックオアトリート。
 まさかお菓子をあげなかったから、ゲームの中から出て行ってしまったというのか。
 あわてて起き上がり、玄関の扉を開けるが、そこには当然誰もいない。
 玄関で膝をつき、絶望している平を、一陣の風が撫でて行った。

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