この気苦労はいつになればなくなるのか
夏。それは彼女にとって心躍る季節であると同時に、心を踏みにじられる痛みも伴うものだ。
彼女の仕事は庭師。雇用主はこの城の城主だ。
5代目になる城主の彼はこだわり派の人間で、庭師にもそれぞれ得意な季節とそうでない季節があると言い、季節ごとに異なる庭師を抱えていた。
彼女は夏の城を彩る花を任されている。
その彼女が憂鬱になることとは……
(あぁ、来てしまった)
庭の手入れをしている彼女の耳を、悪魔の声が襲う。
「こらぁあ!!それ以上こっちに入ってこないで!!」
振り返り、悪魔に声をかけるが、当然相手に人間の言葉など通じようはずもない。むしろ彼女の声を楽しんでいる節もある。
彼女の視線の先でみるみるうちに花が踏みつけられていく。
が、いつまでもやられている彼女ではない。今日はとっておきの武器があるのだ。武器を構え、相手に走りよる。
「あらあら。今日も元気ねぇ」
城の頂上。城主の居住エリアから見える先では、庭師として雇った女性が、息子を追いかけている。その手に握っているのは……
「シャベル?」
シャベルを構え、息子を追いかける庭師は必死だが、息子は楽しそうだ。
「全く……。誰に似たのかしらね。もっと素直になればいいのに」
同じ部屋にいる愛しい人に聞こえるようにそういえば、領地から届けられた嘆願書などをさばいていた彼の手元から響く音が大きくなった。
出会った頃から変わらない動きに、思わず口元に笑みが浮かぶ。
さて、仕事の手伝いでもしてあげましょうか。
お題:夏、城、花
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