立場は変わっても関係は変わらない
文字数は1647。会話成分結構多め。
・・・・・・ちょっと予想以上に文字数が多くなってしまった
月が照らす夜道をひたすら走る。窓を少し開けると涼しげな風が流れ眠気を持って行ってくれる。
車のハンドルを握る俺の隣では助手席で友人が眠り、後ろでは友人の奥さんと子供が眠っている。小さい頃からお互いに便利に使ってきたが、友人が結婚してからは夫婦仲を見せつけられるようで時々ぶん殴ってやろうかと思う。
今日も仕事が終わり、これからアニメを見ながら酒を飲み、仕事の疲れを癒そうと思っていたところに、急遽電話が入り、ちょっと迎えにきてくれと言われた。なんでも家族で遠出したはいいが、家までの通行手段がなくなり、一泊泊めて欲しいという。
泊めるのはいいが、男一人暮らしのマンションだ。狭いのと汚いのを嫁さんは許容できるのか、と聞けば、タダで泊まれるんなら別に構わないと言っているらしい。スマホで友人と話しながら部屋の中を見渡す。一応寝室と趣味の部屋は分けているので、誰かが来ても泊まることはできるが、それも俺の認識で泊まれる、というだけで、第三者から見た場合にどうか、というのは分からない。
「こっちきてから文句言ったら近くの漫画喫茶に泊まってもらうからな」
俺はそう言って通話を終了すると、車に乗り友人家族を迎えに行った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おら、着いたぞ」
助手席の友人を叩き起こす。目を開け、寝ぼけているのか周囲を見渡す友人とまだ後部座席で眠る母娘を残し、俺はトランクから友人の荷物を家の中に運び込む。後ろではようやく覚醒したらしい友人がその家族を揺り起こしている。
「お、なんだ、結構綺麗にしてるじゃないか」
「お前が来るって言うから慌てて片付けたんだよ」
「なん、だと・・・・・・!!今までそんなことなかったのに、どういう風の吹きまわしだ!!」
「いやいや、そりゃあ誰か来るって分かってたらある程度片付けるだろ。今まではお前が何の前触れもなくいきなりきてたから片付ける時間がなかっただけ」
そうだっけか?と首をかしげる友人の後から、その家族がおっかなビックリ、という様子で玄関の扉をくぐった。
「お、お邪魔します。ほんとうにごめんなさい、いきなり訪ねてきてしまって。この人が泊まるところの心配はするなって言ってたから、てっきりどこかのホテルに予約を入れてるともったんですけど、まさか友達の家だとは思ってなくて。突然だったので、これ、つまらないものですが」
そう言って友人の嫁さんは慌てて買ったのを象徴するかのように、一人に渡すには大きすぎる菓子の箱を差し出してきた。
「いえいえ、気にしないでください。こいつが俺に頼み事をしてくるのはいつものことですし、俺もこいつには結構厄介なことを頼んできたので」
俺の言葉に、判断を仰ぐかのように友人の顔を見上げる彼女。それを受けた友人はその顔に人の悪い顔を浮かべた。
「大丈夫だ。こいつへの土産はちゃんと用意してるから。お前は先に寝てな」
「じゃ、こっちです。洗面台はこっちなんで、自由に使ってください。・・・・・・おい、風呂はどうするんだ」
「ん?普通に入るけど?」
「いや、お前じゃなくて・・・・・・」
正直、独り身の男に、人妻でその旦那がいるとはいえ、女の人のシャワーの音というのはかなり耳に痛いのだが、どうやらその心境は共有してくれないらしい。
「あ、気にしないでください。私たちは明日家に帰ってからゆっくり入るので」
俺の心境を理解してくれたのはなぜか同性の友人ではなく異性である友人の嫁さんだった。
「そうか?入らなくていいか?」
いいからお前はちょっと黙っていろ、と思いつつ、お客さんに寝室を明け渡し、俺はリビングのソファに座る。友人はその対面に地面に直座り。横には旅行鞄を置き、それに体重を預けている。
「さて、土産だ」
「・・・・・・俺お前がどうして結婚できたかわからないし、この先離婚しないかスゲェ不安なんだけど」
「あぁ!?失礼なこと言うな、お前は!嫁との対応が違いすぎねぇ!?」
土産と言って渡してきたのは、やたらと肌色面積の多いDVDのパッケージだった。これを土産としてさしだしてくる心境がわからない。てっきり俺は酒でも持ち出してくると思っていたのだが。俺は疲れを感じソファにそのまま横になる。
「明日駅まで送らなきゃならんから、俺はもう寝るぞ。お前もさっさと寝ろよ」
まったく・・・・・・明日はせっかくの休みだっていうのに午前中に起きなければいけないらしい。友人との久しぶりの軽口に、心が癒されるのを感じながら俺は眠りについた。
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