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モーターのトルク測定方法

今回のテーマ

今回は、モーターの性能比較に役立つトルク測定方法についてお話しします。

回転数だけ計測しても…

多くの人は既に知っていることと思いますが、モーターの回転数だけでは速いモーターかどうかはわかりません。モーターの性能には、回転数とトルクの2つが影響するからです。トルクとは何なのか、いまいちイメージできていないという人もいるかも知れません。イメージとしては、その回転の「力強さ」だと思っておけばいいかと思います。
例えば、ミニ四駆は速ければ時速30㎞くらいの速度が出て、同じ速さでタイヤが回っていますが、タイヤの回転を手で止めるのは容易です。一方、同じ時速30㎞でも、原付バイクのタイヤを手で止めるのは人間の力では不可能です。これは、タイヤの回転速度が同じでも、ミニ四駆より原付バイクの方がトルクが強いからです。
ミニ四駆のモーターにも、回転数が同じでもトルクが違うということがあり、当然、トルクが強い方が性能が高いということになります。ですから、モーターの性能を比較するには回転数だけでは不十分です。
しかし、トルクの測定は回転数ほど手軽にはできないので、回転数だけ計測して目安にしつつ、実際に走行させてモーターの性能を見極めている人が多いと思います。
ところが、加速力の強さは感覚的にしかわかりませんし、レイアウトやセッティングによってはトルクが弱い方がタイムが良かったりすることもありえますから、トルクの強さを正確に見極めるのは困難です。
そこで、「正確なトルクを知りたい!」と思い、測定方法を案出しました。

モーターのトルクは変動するもの

実は、モーターのトルクは、その時の回転数によって変動します。

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この図は、以前の記事でも使ったものですが、横軸がトルク、縦軸が回転数のグラフです。
トルクは、回転数が低いときほど大きく、高いときほど小さくなります。
例えば、ミニ四駆のスイッチを入れ、コースに置いてスタートさせる場面を考えてみます。タイヤが路面に接した瞬間、ほんの一瞬、タイヤの回転は止まります。つまり、モーターの回転数がゼロになり、このとき、モーターのトルクは最大の値(起動トルク)となります。次の瞬間には加速し始め、速度(回転数)が上がるとともに、それにつれてトルクは小さくなっていきます。やがて「走行時に受ける抵抗力」と「トルクによって発揮される加速力」が釣り合う速度に達すると、加速が止まります。この時の速度がミニ四駆の最高速度になります。
このように、モーターのトルクと回転数には、連動して変動するという性質があります。
ちなみに、モーターを単体で回して何の負荷もかけていないときの回転数を無負荷回転数といいます。このときトルクはゼロとなります。
(補足)
上記のようなモーターの特性を踏まえると、無負荷回転数が同じモーターであってもトルクが異なれば最高速度が変わってくる、ということが図によって理解できます。

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図のように、無負荷回転数が同じでトルクが異なる2つのモーターを考えてみます。
緑色の線がトルクの強いモーター、青色の線がトルクの弱いモーターを表しています。
速度の差によって抵抗力の大きさが変化しないと仮定すれば、トルクが強いモーターの方が、抵抗力とトルクが釣り合うときの回転数が高くなるため、最高速度が速くなります。また、当然ですが、加速力や登坂力も上がります。

測定するのは起動トルク

モーターの性能線図は、無負荷回転数と起動トルクさえわかれば作図できます。無負荷回転数はスマホアプリで簡単に測定できますから、測定すべきは起動トルクということです。
起動トルクは、回転数がゼロのときのトルクなので、ホイールの回転を止めた状態でトルクを測定できればよいということになります。

測定装置

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制作した測定装置はこちら。
モーター慣らし機でモーターに電圧をかけ、ホイールに取付けたFRPに駆動力を与えて、測りを押し、その時のグラム数を換算してトルクを算出するものです。

ちなみに、モーター慣らし機がなくても、普通に単3電池を入れれば測定可能です。ただしその場合は、スイッチをON/OFFしやすいように土台の大きさや形状に注意しましょう。また、測定時は満充電のニッケル水素電池を使うとか、あるいは新品のアルカリ電池を使うとか、電池の状態を揃えるように着意しましょう。

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ワークマシン(ねじ穴がダメになったVZシャーシを再利用)を木材の土台に木ネジで固定し、測定したいモーターを装着。ギヤ比は4.2:1としました。
ホイールは、白いピニオンギヤを使ってシャーシとの間にスペースを開け、片軸シャーシでも両軸モーターを装着できるようにしています。

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ホイールにはビス穴をあけ、ビスとナットでFRPを固定します。FRPの長さはだいたい60㎜くらいで、ホイール中心から45㎜くらいの長さを確保できるようにします。ホイールの中心から約42.8㎜の位置に幅1㎜くらいに切ったゴムチューブ(ボールスタビキャップを回すのに使うやつ)を付け、ここで測りを押すようにします。なお、写真ではゴムチューブのズレ防止のためにマスキングテープを巻いています。
FRPが丁度水平になるときに測りの皿に接するように、高さと位置を合わせた土台を作り、その上に測りを置きます。土台には木材やスタイロフォームを使っていますが、私はホームセンターのDIYコーナーですみっこで売られている端材を使いました。端材なら割と大きめのものでも100円以下で売っていて経済的です。

シャーシやFRPは余り物、モーター慣らし機や測りは元々所有していたので、トルク測定のための追加出費は端材代と木ネジ代で500円くらいでした。

測定方法

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FRPの先端が測りの上にやさしく乗る位置までホイールを回して、モーター慣らし機などでモーターに電圧を供給します。
すると、FRPの先端が測りを押すので、その時のグラム数をトルクに換算することで、トルクが測定できます。
ギヤ比4.2:1、腕の長さ42.8㎜としておけば、表示されたグラム数を10で割った値が単位mN·m(ミリニュートンメートル)で表したトルク値になります。この単位は、モーターのパッケージ裏に書いてある基本スペックでも使われているものです。

基本的には、モーターに通電させて測りの数値を10で割ればいいのですが、自分は5回測定して平均をとっています。
それも、ただ単に5回測定するのではなく、測定1回ごとにホイールを1回転させます。

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(測りの土台は、ホイールを回転させるときに手前にずらせるよう、固定していません。また、FRP付きのホイールが回転できるよう、シャーシを乗せる土台は高めにしています。)

なんでそんなことをするのかというと、ブラシとコミュテータ(整流子、コミュ)の位置関係に変化を与えるためです。
こちらのリンク先の図1(GIFアニメ)をご覧ください。
https://www.renesas.com/jp/ja/support/engineer-school/brushless-dc-motor-01-overview
(図のモーターと同じで、ミニ四駆のモーターにもコイルが3つあり、コミュテータも3つの電気接点からなります。)
モーターが回っているとき、常に全てのコイルに通電しているわけではなく、ブラシとコミュテータの位置関係によっては、3つのうち2つのコイルにしか通電していない瞬間があります。
モーターはコイルを通電させて磁力を生じさせ、磁石との間に生じる力によってトルクを生じさせるものですから、通電するコイルの数が少ないと、トルクが弱くなります。
また、ある程度使用されたモーターのブラシやコミュテータは表面に細かなキズがあると思われます。そのキズの存在により、ブラシとコミュテータの位置関係によって、電気の通しやすさが変わる場合もあると考えられます。
なので、ブラシとコミュテータの位置関係が異なる複数のパターンを計測して平均を出し、実状とは異なる極端な結果が出るのを防止する必要があります。
ギヤ比を4.2:1にしているので、ホイール1回転でモーターは4.2回転します。
これは、4回転+0.2回転ということですから、ホイール1回転でブラシとコミュテータの位置関係は0.2回転分だけズレるということです。ホイールが5回転すると、ブラシとコミュテータの位置関係のズレはちょうど1回転分に達するので、5回の平均値をとるというわけです。
実際、極端に数値が大きかったり小さかったりすることがぼちぼちあります。平均値の約1.5倍とか、逆に半分ちょいとかの数値も珍しくありません。正確な原因はわからないのですが、ホイールを半回転ほど戻してからFRPプレートを測りの上に置き直すと、測定値が平均的な数値になることがあります。そうなれば、その時の極端な数値はブラシとコミュテータの位置関係や汚れによる偶然の産物と思われるので、私は採用していません。もし数値が変わらなければ、それが真の実力だと考え、その数値を採用しています。

注意点

回転を止めることにより大きな負荷がかかるため、モーターの発熱が大きく、長時間の通電はモーターが破損するリスクがあります。
1度の測定につき通電時間は2秒以内を推奨します。
自分は、通電してから「いーち、にーい」と数えて通電を止めています。2秒程度では測りの数値は安定しないこともありますが、モーター破損防止を優先して、通電を止める直前の数値を読み取ることにしています。測りの数値が安定するまで待った方が測定値は正確になりますが、それをやっていてモーターがいくつかパーになったので、通電は2秒以内に抑えています。

(なんで測りでトルクを測定できるの?)

そもそも測りとは、重さを測定する道具のはず。どうして測りでトルクを測定できるのでしょうか。

実は、回転する物体は、トルクによって物を押す力を発揮しています。

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このとき、
「トルク=腕の長さ×発揮される力」
という関係があります。腕の長さとは、回転の中心から物を押すポイントまでの距離のことです。
なので、押されるポイントから回転の中心までの距離があらかじめ分かっていれば、回転によって発揮される力の強さを測定することで、トルクを逆算することができます。

さて、測りは重さを測るのに使われる道具ですが、これは、質量を持った物体が重力によって下向きに押される力の大きさを測っているのです。つまり本質的には、質量ではなく、力の大きさを測定する道具ということです。ですから、測りを使えば力の大きさを測定することができます。
今回の装置では、物体(測り)が押されるポイントから回転軸の中心までの距離は決まっていますから、あとは測りを使ってトルクにより発揮される力の強さを計測すれば、トルクを求められるというわけです。

(精度向上の方法の一案)

自分は片軸シャーシのギヤ比4.2:1を使いましたが、両軸シャーシの4:1ギヤは、歯数から正確なギヤ比を算出すると4.05:1となっているため、ホイール20回転でブラシとコミュテータの位置関係がちょうど1回転分だけ変化する計算です。なので、両軸4:1ギヤで20回分の平均を取れば、測定結果の正確さが上がると思われます。
が、5回の平均を取るだけでもモーターはアツアツになり焼損しそうになるくらいなので、もし20回の測定をやってみる場合は、途中でのモーター冷却待ちは必須と思われます。

おわりに

いかがだったでしょうか。
モーター慣らし機や測りを持っていなければ初期費用がそこそこかかってしまいますが、ミニ四駆をやっている人なら既にこれらを持っている人も多いと思います。
この2つさえあれば、あとは余ったシャーシやFRPプレートと、ホムセンで安く買える端材などで完結するので、割と手軽にトルクの測定ができます。
次回は、測定したトルク値と回転数から、タイヤ径やギヤ比を加味した上で走行速度をグラフ上の作図により算出して、モーターの性能を比較する方法について書く予定です。

ご意見ご感想ご質問等あれば、遠慮なくお寄せください!

(以下、加筆)
この記事で紹介したのより更に良い方法を考案し、新たに記事を書きましたので、ぜひご覧ください。


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